医療経営Archives

医療環境の激動を目前にして

井手道雄著(月刊新医療5月号、エム・イー振興協会1996年)より

registration date: 1996.5.8


(要旨)

21世紀まであとわずかである。激動する変化の時代に着実に進んでいる。この激しい変化は何も医療界だけに起こるのではなく、国内外の社会全体に起こることをまず十分に認識しておく必要がある。今後の激しい変化に対応していくには社会全体の変化に対して広くかつ深く洞察した的確な判断と戦略に基づく迅速果敢な行動力が要求される。

医療界に激しい変化を与える要因を3つあげる。

1.人口構造の劇的な変化

図に示すような、人口構造の激変が進む中で国の諸政策の実施ペースも速くなってきて当然であるが、我が国の高齢化対策は依然として施設優先主義のようにみえる。高齢社や年少者、障害者などの社会的には弱い立場のものであっても、健康者と同様の権利を持ち、これに対応するのがリハビリテーション(=To make fit for any situations)でありノーマリゼーションの精神であるが、この姿勢から現状ははるかに遠い水準で推移しているように思われる。社会環境の整備を進めねば、我が国は巨大な高齢社収容所列島と化してしまうように思えてならない。

2.低経済成長が医療に及ぼす影響

今後重要な問題は年金、保険の負担層人口が減少することであり、これに国の経済力の低下、低経済成長が続けば、医療費の増額は困難になる。
医療費の増加に対する今後の財源としては、特定療養費というなの自己負担の増加や消費税の急速な増額以外には今のところ特効薬はない。しかし、病院に対する現状のわけのわからない消費税制度で、いわゆる損税のままで進むとしたら病院経営上はそれだけで壊滅的な打撃を受け、病院自体の経営努力などさっさと放棄した方がよい時代になってしまう。

3.国民の価値観の変化

今後の保険医療福祉に対する国民の価値観の変化に基づくニーズとウオンツには注意深く対応する必要があるが、最近アメニティーや病院の生活空間の改善が患者の価値観であり、そして、これらが最高に重要であるかのような主張をしばしば目にする。
アメニティーも重要なようその一つであるが、Quality of Life(QOL)の立場から今一度検討すべきである。医療施設はクライアント(=患者)の生命に直接関わっている点がホテルなどと根本的に異なっている。基本的には医療施設、医療人に求められている質を追求すべきである。


平均的大量生産の発想、プロセスから脱し、全職員の参画の基、組織、運営を根本的に見直すリエンジニアリングへの挑戦が鍵であると思う。

    リエンジニアリング推進の条件

  1. 戦略
  2. トップの強力なリーダーシップ
  3. プロセスの根底からの見直し
  4. チームワーク=トップダウンとボトムアップの交差
  5. 時間軸による推進と評価
  6. 情報システム

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