確かに、ITには多額の導入経費を要する。補助金として補填される国・公立病院ならばともかく、民間病院においてはその経費捻出に頭を悩ませることになる。
一般に医療のITイコール電子カルテという発想をとりがちである。しかし、後に述べるように電子カルテの無からの導入に過度の期待を担わせることは、経費負担の割に導入効果は得がたいと思われる。しかも、電子カルテのシステムは、数億から数十億円と値幅も広く、価格体系もブラックボックスに入っていることが多いようである。
そのような中で、IT導入に目的を明らかにした緻密な戦略と順序が必要であると思う。以下に、ITが医療に貢献するであろう項目について列挙してみる。
@オーダリングシステム
A部門システム
検査
放射線
薬剤
手術室 など
B医事システムと診療報酬請求
C電子カルテ
D病診連携
E情報開示
F安全対策:誤認防止、転記ミスの防止
G物品購入・物流・在庫管理
H経営管理システム
I情報の共有
これらシステムを同時に導入すれば、すばらしいことは重々承知である。しかし、それができる医療機関は残念ながら、まったく損益を考えなくてもよい医療機関であると思われる。しかも、同時導入時にはそれにかかわるユーザーである職員の多大な労力とストレスが必要になることであろう。
この中で、どのような順序でITを導入していくか・・・各々の医療機関の戦略策定のプロセスが問われてくるものと思われる。
IT導入の戦略に当然のことながら、正解はないと考える。 われわれの行ってきたIT化の戦略を示したい(表)。 これは先の項目における順序として、 GHI → @ABC → DEF というような大まかな流れとなろう。すなわち、われわれはG物品購入・物流・在庫管理として院内のモノの流れから導入し、そこでIT化の原資を調達することから始めた。 |
表: 恵寿総合病院のIT化の流れ
平成 6年12月 診療材料院外SPD化 |
電子カルテに経営改善の意義を見出す考え方が昨今取り上げられている。しかし、モノの管理、患者待ち時間の短縮、会計処理の迅速化、診療報酬請求の簡素化、発生源入力による転記ミスの改善、薬剤の重複投与の防止、クリニカルパスとの連動、さらに原価管理などといった問題はオーダリングシステムで十分であり、改めて電子カルテ化は必要ないと考える。
しかし、電子カルテは紙情報を保管する場所の必要がなくなる点はもとより、医療の質の担保として透明性(ピュアレビュー・監査)、検索性、情報の共有化、情報開示、ネットワークによる連携にきわめて有効であるものと考える。
したがって、目的を明確にしないまま万能薬として電子カルテの導入計画を策定するならば、労多くしてその導入効果は薄いものであると考える。
経営上や業務効率のメリットとサービスの迅速性だけを目指すならば、オーダリングシステムで十分であろう。それに加えて医療の質へ踏み込むならば電子カルテという選択になってくるものと思われる。しかも、医療の質の担保としての電子カルテのほうが導入経費は高いということも銘記すべきであろう。
本連載は、あくまでも一モデルケースとして、私の病院で行ってきたIT化の考え方と、その時々で悩んだことや決断を要したことなどを時系列に示していくこととする。そういった意味で、本号は全体のサマリーと理解していただきたい。
一部で本誌の前身である「病院経営新事情」時代に11回にわたった「病院経営から見た業務改善事例」という私の連載(Vol.219〜245)と重複する点はご容赦いただきたい。