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その13 最後に Q & A

隔週刊「医療経営最前線 経営実践扁」(産労総合研究所) VOL.301・2004年6月20日号
連載:恵寿総合病院のIT戦略


 12回にわたって私どもの法人におけるIT戦略を紹介してきた。医療機関としての理念・基本方針を中心とするビジョンも、時代の流れとともに、また地域のニーズとともにゆっくりうねりながら変わっていくことであろう。IT戦略もまた、医療機関としてのビジョンを具現化するための有力な道具に他ならない。しかしながら、ITの分野はドッグイヤーと呼ばれて久しく、急速な技術的な変化が激しい分野でもある。したがって、この12回にわたったIT戦略の紹介が、数ヶ月で陳腐なものになってしまうかもしれない。そのような中でIT戦略の根底に流れる「変わらないもの」を読み取っていただければ幸いである。

 連載開始から、編集部ならびに著者のもとに、読者諸兄から数々の質問が寄せられた。最終回である今回はQ&Aという形で、改めて私の考えを述べさせていただき、稿を終えることにしたい。

Q:診療報酬が削減され続けている中で、IT化に大きなコストをかけることが難しい時代になっています。ずばり、IT化でかけたコスト以上の利益につながるとお考えでしょうか?

A:「医療の質」という問題と同様に「経営の質」もこれからクローズアップされてくるものと思われます。単に黒字決算のみをよしとするならば、現在の診療報酬体系からすると長期療養を選択し、社会的入院患者をそれなりに収容し、キャピタルコストに対しては「室料差額」や「お世話料」をいただく・・・というような選択となると思います。このような選択も一つですが、特に急性期病院として地域のニーズを捉え、病院のビジョンを実現していくためには、経営陣が、それらの実現のために各部門をガバナンスしながら経営を進めていかなければならないと思われます(資料)。
 IT化の流れの中では、本編でも触れましたように物流や在庫管理などでは、それなりに導入効果を生むことできると思います。オーダリングシステムも、単に「指示」というものを超えて指示され実施されたものと、請求、経営情報、物流情報を連結させるならば、導入効果は人員削減、ミスの防止などとした成果として産み出せれるかもしれません。
 しかし、診療録など医療記録の電子化、ペイパーレスを中心とするいわゆる「電子カルテ」そのものは、「医療の質」の改善効果は多大なものでしょうが、目に見える導入効果は出にくいものと認識する必要があると思います。
 繰り返しになりますが、安全を含めた「医療の質」の確保に加えて、「経営の質」の向上、「ガバナンス体制」の強化は、長期戦略上きわめて重要であるという認識しかコスト問題にお答えする回答を持ちえません。したがって、これらの目的に見合うITを導入するべきであって、必要のない目的のIT化は無駄な経費を生んでしまうだけであると思われます。・・・場所を移動するという目的だけならば、軽自動車もロールスロイスも同じですね。


Q:電子カルテ導入を考えていますが、コストの幅が大きく、迷っています。システム選択のコツってあるものでしょうか?

A:私の病院を含めて、システム選択がうまくいったかどうかは、時間が経ないとなかなか分からないような気がします。ただ言えることは、どこのシステムを入れたところで、必ず不満分子は院内にいるということです。おそらく、彼らは何のシステムを入れないでいたところで、別の分野で不満を言っているに違いないのです。
 また、選択の肝は何をやりたいかということに尽きると思います。すでに、多くのメーカーによるシステムが市場にあふれています。いまさら、1からオーダーメイドするなんていっていますと、コストはかかるばかりだと思います。レディメイドのシステムの中から、最も自分たちのやりたいことに近いものを導入し、ある程度は自分たちの業務プロセスをそのシステムに合わせていくという考え方のほうが、コスト面からも現実的であると思います。
 さらに、従来のレセコンやオフコンのメーカーは、過去の資産の継承のために自社のシステムを入れるしかないと必ず言うと思います。なぜなら、もし私がそういったメーカーの担当者ならば、詳しいことがわからず、リスクを恐れる病院担当者を脅して、自社の利益を生ませることなど、赤子の手をひねるように簡単なことだからです。過去のレセプトデータが必要なら、しばらく以前の機械を置いておけばいいことですし、患者属性程度の情報をコンバートできないメーカーならば、最初から相手にならないほど、技術力のないメーカーとレッテルを貼ってもいいのではないかと思います。


Q:実際に電子カルテを導入するにあたって、外来部門から導入すべきでしょうか、入院部門から導入すべきでしょうか?

A:まず、オーダリングシステムと電子カルテシステムをどういう戦略で導入するかという問題もあると思います。最近の多くの導入事例は同時導入が時流のように思いますが、私は、その各々で多少導入順序を考慮したほうが混乱が少ないのではないかと思っています。
 すなわち、オーダリングシステムは外来が先だと思います。なぜならば、
1)入院部門はオーダーが多岐にわたり、複雑であること。
2)外来部門こそ会計処理のスピードが求められ、発生源入力によって患者の診療後の待ち時間を大幅に減少させることができること。これに対して、入院の会計処理は急がないのです。
3)外来部門では、原則としてオーダーイコール実施ですが、入院部門はオーダーに対して中止処理が必要になる場合があります。
という理由です。
 これに対して、電子カルテは入院部門が優先されるべきと考えます。なぜならば、電子記載に習熟するまでは、時間的に余裕のある入院診療記録の方が、患者に時間的迷惑をかけないことからなのです。


Q:電子カルテを導入するに当たって、既存の検査機器などをすべてIT対応に更新するのでしょうか?

A:もし、ゼロから新しい病院を作るのであるならば、機器購入時にIT対応のものを揃えておけば、電子カルテ等につなげることができると思います。しかし、多くの既存の病院で検査、レントゲン機器から、調剤や栄養管理にいたるすべて機器やシステムを一気に更新することは、現実問題として不可能なことであると思います。
 私は、病院の調達計画のもとで、順次更新したものから、IT化を図っていけばよろしいと思います。それまでは、紙や写真に打ち出されたものを、必要ならばスキャナーで取り込んで電子保管すればよいと思います。ここで留意したいのは、電子的に記載した記録は、電子情報が真正カルテであり、スキャナー読み取りしたものは、元データである紙や写真が真正カルテであるということです。したがって後者の場合は、紙などに記載されたデータをカルテ別冊として、法定年数はきちんと管理しておく必要があります。


Q:150床のリハビリテーション病院です。病院リニューアルに当たって、IT化を目指しています。病院のIT化はだいたい目途はついていますが、600m離れたところに介護老人保健施設を持っております。こことLANで結びたいと思っていますが、町名や電話の局番が違います。人時ローテーションや、患者のやり取りもあり、情報の共有化は大切と考えます。おさえるべきポイントをご教示ください。

A:まず、LANの件ですが、セキュリティの観点からも専用線なしは仮想専用線(VPN)にすべきであると思います。専用線は距離と容量によって値段が決まってきます。この線を使ってIP電話などに使えば、電話料の面でもメリットはあるかもしれません。電話会社だけではなく、電力会社や鉄道会社など、通信の自由化で通信業務を行っている業者に見積もりを求め、競争させればよいと思います。
 次に、情報の共有化ですが、病院と老人保健施設ではカルテ記載を含めて全く同じではないと思います。そこを無理やり共有化しても無駄が多いと思われます。少なくとも、患者IDや基本的な個人情報は共有化することは必要条件であると思います。そのもとでお互いの記録内容は、それぞれ得意とするソフトウェアを使って運用し、相互がそのソフトウェア経由で閲覧することが出来る体制で十分であると思います。
 ここで留意したいことは、同一法人であるとしても施設が異なる以上は、個人情報保護の観点から、両施設を利用する患者には、情報共有化のメリットを説明し、あらかじめ同意を取得しておくことであると思います。

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以上で連載を終えることとしたい。お付き合いいただいた読者諸兄と編集部の皆様に心からお礼を申し述べたい。


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