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その4 CRMの視点

隔週刊「医療経営最前線 経営実践扁」(産労総合研究所) VOL.281・2003年7月20日号
連載:恵寿総合病院のIT戦略


顧客満足ということ

 世は顧客満足・CS( Customer's Satisfaction )を追求し、とどまることを知らない満足向上のための競争を繰りひろげている。病院においても同様にその考え方が導入され、「患者様」という名のもとでより多くのサービス提供を競い合っているのが現状であろう。
 ここで顧客満足の雄であるホテル業界に目を向けてみる。1泊数万円の高級ホテルと数千円のビジネスホテルにおいては、当然顧客の要求度は異なる。顧客は高級ホテルには痒いところに手が届くサービスを要求し、ビジネスホテルには快適な空間のみの提供を要求しているのである。すなわち、一般のサービス業界では、顧客満足度はその対価が後ろに控えているわけであると理解できるわけである。
 一方、公定価格という統制経済下の医療においては、差額ベッドなどわずかの特定療養費が背景にあるのみであり、顧客満足の追求とその対価はリンクしないという非対称性の経済状況にある。その特異性は歴史上、旧ソ連を含めた社会主義国の終焉の引き金の一つとして考えられるサービスにかかわる努力が報われない体制と同様であると思われ、資本主義経済の下でのサービス産業では本来存在し得ない仕組みのように思われる。
 本連載その1にも触れたように、医療費削減の流れは医療機関にとってデフレであるにもかかわらず、医療消費者である患者にとっては、自己負担増というインフレベクトルがかかっていることを忘れてはならない。すなわち、患者にとっては負担増に見合ったサービスの提供、より高級な顧客満足を強く要求していることになるのである。
 私たちは、対価と連携しない顧客満足度向上を追求し続けなくてはならない。これは、低コストと高いサービスの提供という、いわば二律背反の中での舵取りを迫られているのである。
 この問題に正解はないと考える。しかし、努力の中で、サービス提供とともに低コストで高い満足を提供できる打ち出の小槌を見つけ出さなくてはならない。私は、その答えの中で最も可能性のあるものとしてとして、「ITの利用」にあるのではないかと思っている。ITを利用することによる情報共有と効率性の向上が多くの答えを提供してくれるものと確信している。

CRMということ

 経済界、特にサービス業界ではCSから一歩抜きん出たCRM(Customer Relationship Management;顧客を軸にした統合的な事業改革活動=お得様を徹底的に大切にする)といった考え方が出現している。すなわち、顧客情報と顧客に対する積極的なかかわりによって、得意客をますますファンとして惹きつけていく試みであるといってよいだろう。そのために、先進のITを利用した取組みが一世を風靡しているのである。
 その例として、航空会社のマイレージサービスは搭乗頻度の多い優良得意客に対しては、アップグレード券、無料航空券をはじめとして無料でデラックスな空港ラウンジ使用などの様々な特典を提供し、人々の心を惹きつけ、優越感をくすぐっているのである。同様な取り組みは、商店やレストランにおけるポイントシステムを通じた顧客情報の活用であり、いかに高いリピート率を確保してファンを惹きつけていくかといった取組みをあげることができるだろう。
 医療はもちろん公共性を追求する。しかし、確かにすべての患者に等しく最高の満足を提供することは、実際問題として困難であるといってよいだろう。ここでも、得意客に対してよりきめの細かいサービスを提供し、ファンを惹きつける努力をすることは、競争社会では当然のことであると認識すべきであろう。

当院におけるCRMの試み〜コールセンターの設置

  1. 背景となるインフラ
     当院では1997年における病院内オーダリングシステムKISS( Keiju Information Spherical System )の導入から順次サテライトクリニックなどとのオンライン化を進め、2000年の介護保険導入までに、1市4町にまたがる32の医療福祉にかかわる施設、事業所間のオンライン化を完成させた。これにより、医療系の部署では、KISSにより部署・施設間で患者情報を共有することができた(2002年5月からは、恵寿総合病院で電子カルテが稼働)。また、介護・福祉系の施設や部署では介護保険に対応する評価やケアプランなどの情報を共有するシステムを導入した。さらに、2000年6月に特別医療法人の収益業務として直営の健康介護ショップを開業し、担当部署・施設で発注、在庫情報を確認できるシステムも立ち上げてきた。
     このように、当法人および関連法人を総称する「けいじゅヘルスケアシステム」において幹線を光ファイバーケーブルで繋がれた約650台におよぶ端末によるオンライン上で、前回(ナレッジ・マネジメントの視点)で述べたグループ・ウェアのほかにKISS、介護保険システム、物販情報システムといった業務系システムが稼動していることとなっている。
  2. コールセンター設立の目的と戦略
     上述のごとく、当法人グループ;けいじゅヘルスケアシステムには医療・介護・福祉施設が混在する。しかし、一患者ないしは一利用者という立場でみた場合に、これら制度・施設利用を明確に線引きすることは難しい。すなわち、時間軸である時には医療を利用し、ある時には介護を利用するということは実際問題として多々存在するわけである。さらに利用の場も1ヵ所であることはなく、複数の施設や事業所を同時期にまたいで利用することは日常のことである。
     そこで、患者・利用者という軸に立って、一元管理するシステムが重要となる。当グループの利用者であるならば、どういうサービス形態であっても情報は管理され、新たなサービスを提供できる仕組みの確立を目的とした。
     そのためには、患者・利用者ばかりではなく、職員の業務連絡もすべて1ヵ所に集中させ、情報を管理することこそがカギであると判断した。情報集中の場としてのコールセンターを設立することで、ここに管制塔の役割を持たせ、患者・利用者、その家族、さらに職員はコールセンターを利用すればすべての用が足りる体制を目指した。
     この目的は、2000年4月の介護保険導入後に、様々な業界から参入してくる介護保険事業所との間の差別化戦略に他ならない。すなわち、急性期総合病院を中心に据えた医療・介護・福祉複合体だからこそできるサービスの差別化の柱として、全施設の情報をオンライン上で管理できるコールセンターの設立を目指したのである。
     さらに、IT化の進展に伴い、多くの業務のデジタル化が進んだ。しかし、医療機関としての業務の中にはオンラインコンピュータの前にいる職員以外からの、訪問系部門職員からの連絡・報告をはじめとして、患者からの要望、予約、キャンセル、連携医からの依頼などデジタル化を進められないアナログ部分も存在する。そこで、コールセンターには、「病院〜患者」「病院〜連携医」「病院〜職員」間の双方向的なアナログ情報とデジタル情報の橋渡し的な機能も持たせることとした。
  3. コールセンターの実際
     約半年の準備期間の後、2000年6月に恵寿総合病院内にコールセンター「けいじゅサービスセンター」が生まれた。5人のオペレーターを配置し、新たにKISS、介護保険システム、物販情報システムから電話対応に必要な情報を抽出し、閲覧するためのソフトウェア( 4優:for you )を開発した(資料1)。
     「4優」では、介護保険利用者に関しては介護基本情報の他、介護サービス提供の履歴や予定、物販履歴、さらに気付き情報やクレーム内容の入力とともにその履歴と解決策などを一覧できる。医療保険のみの利用者ではクレームや質問内容とその解決策、物販の入力と履歴を閲覧でき、さらに検査予約の確認や受診勧奨を行うことが可能になっている。そして、各部門の代表による月に1回のコールセンター会議で、これらの情報が徹底的に討議されている。
     コールセンターはすべての施設や事業所の利用者共通のものであり、どこを利用している患者・利用者でも、コールセンターの電話番号さえ知っていれば、すべてのサービスに応えるものとした。コールセンター側は、患者・利用者からの情報をそのログを残した上で、適切に電話ないしはオンラインシステムを使って各担当部署に知らせることとなる。
     資料2にコールセンターの業務内容を示す。「コール」は実際の患者や利用者との間での電話による連絡・確認であり、「事務」はデータ入力センターとして職員に対してのサービスということになる。例えば、訪問やデイケア・デイサービス利用者に対しては、キャンセル・変更受付の他に、訪問前確認(アウトバウンド)の電話を必ず入れることとしている。また、日次の実績入力は、在宅の現場へ行ったヘルパーからのメモ書きや電話による報告を、コールセンターで定型書式にデジタル入力するものである。これによって、ヘルパーなど訪問系の職員の事後報告書の手間を大幅に削減し、本来業務に集中させることができる。
     現在、月に8,000件程度の業務量となっており、その中で実際に患者・利用者との電話によるかかわりは1,000件程度であり、その他はアナログデータをデジタルデータに変換する実績入力部分が主となっている。

おわりに

 今回、CRMの発想のもとで開設したコールセンター事業について詳述した。すでにコールセンター開設後3年が経過した。その間、IT化の進展とともにCRMの発想ばかりでなく、アナログデータとデジタルデータの橋渡し的な役割も担わせることができた。
 そういった意味では、サービスの追求と業務効率の向上という二兎を追うことができるモデルとなったものと思われる。

資料2 コールセンターの業務内容

相談受付 ・一般利用者からの問合せ相談受付 日次 コール
・クレーム受付対応 日次 コール
各種照会業務  ・関係部署への情報提供 日次 コール
介護保険業務支援 ・医師の意見書入力 日次 事務
・加算状況確認 月次 コール
・担当者会議開催スケジュール調整 月次 コール
・利用票・見積書の出力〜準備 月次 事務
・提供票・提供票別表の出力〜発送 日次 事務
・訪問前確認 日次 コール
・キャンセル・変更受付 日次 コール
・実績入力 日次 事務
・実施入力 (ケース入力) 月次 事務
・保険外費用入力 月次 事務
・請求発送準備 月次 事務
・サービスカレンダー出力 月次 事務
診療支援 ・連携医からの診療予約 日次 コール
・検査予約確認 日次 コール
・遠隔患者監視システムサポート 日次 事務
・健診データ入力 月次 事務
物販支援 ・カタログ・DM発送 不定期 事務
・注文受付  日次 コール
・商品問合せ受付 日次 コール
福祉用具対応窓口 ・問合せ受付 日次 事務
アンケート ・満足度調査 不定期 事務・コール

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