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その5 オーダリングシステムと電子カルテ
           〜似て非なるもの?〜

隔週刊「医療経営最前線 経営実践扁」(産労総合研究所) VOL.284・2003年9月20日号
連載:恵寿総合病院のIT戦略


 前号までにIT化について業務改善、ナレッジ・マネジメント、CRMの視点から述べてきた。今後さらに、安全管理、経営などの視点から本連載を進めていきたく思う。ただ、ここでIT導入をこれらの視点から進めていく上で、その基幹的な道具となるオーダリングシステムと電子カルテについて、一度その意義を確認しておく必要があるように思う。

オーダリングシステム導入の目的とシステムの設計思想は?

 当院では、平成9年1月からオーダリングシステムが稼動した。オーダリングシステムの目的として、
@発生源入力による転記ミスの解消
A指示書やワークシートへの転記作業の軽減
Bデジタル情報処理による患者待ち時間(特に、診察後待ち時間)の削減
CDo処方の簡便入力
D医師や科別のセット検査の共有
E複数科処方における重複薬剤投与や相互作用発生の防止
FDI情報の閲覧
G検査履歴の閲覧
H受診歴の一覧
など、一般的に患者サービス、業務削減、安全対策、情報共有などの分野で多くのメリットが挙げられる。しかし、当院における導入の第一の目的・戦略はこれらと異なるものであった。すなわち、本連載その1でも述べたように、それまで行ってきた診療材料のSPD導入、臨床検査システムの見直し、薬剤管理システムの導入などの業務改善施策の後、これらのモノの管理情報を患者情報につなげてこそ、経営的なメリットも出せるといった戦略を第一としてオーダリングシステムの導入に踏み切ったのである。したがって、オーダリングシステムの設計思想は「モノ情報と患者情報の連結」であり、副次的に上記のような一般的なメリットを享受できるものとした。
 その戦術として、モノにつけたバーコード情報、バーコード化した患者ID、さらにバーコード化した職員IDを結びつけるものとしてのオーダリングシステムということになる。具体的には、SPDで配送される医療材料バーコード、検体検査ラベルのバーコード、薬剤に添付したバーコードから、患者の診察券のバーコード、患者診療録に印字したバーコード、処方箋・指示書やワークシートに印字したバーコード、請求書や薬の引換券に印字したバーコード、さらに職員の名札に印字したバーコードなどを有機的に連結するものとした。ハード的には、院内に配置したすべてのコンピュータにバーコードリーダーを取り付け、診療業務のプロセスのたびごとにバーコードを読ませることで、これら情報をコンピュータ上で関連付けることとした。
 これによって、業務の流れの中で患者一人ひとりにモノや時間といった原価管理の基礎となるになるデータが付与されていくことになり、これが経営的な意味で大変大きな資産となると考えられた。

オーダリングシステム導入に当たって誰がリーダーシップを取るのか

 このような経営戦略から、オーダリングシステムの導入は業務改善以上に病院の経営的見地から必須のものと考えられた。繰り返すが、患者サービス面のメリット以上に経営的なメリットを享受できるものと考えられたのである。
 ならば、導入に当たっての責任者は経営者であるべきなのである。導入を検討した平成7〜8年に、オーダリングシステム導入の前例は少数病院であり、ましていまでは当たり前であるWindowsに代表されるGUI( Graphical User Interface )を利用したソフトは皆無の時代であった。そこでは、病院職員、特に現場の最前線に立つ医師や看護師の中に守旧派というべき勢力の抵抗は当然予想された。コンピュータアレルギー(というよりは使う気がない!)勢力、前例主義に走り多くの病院に導入されたのを見て導入しようとする先送り勢力、単に現状の仕事を変えたくないといった保守勢力など、なにもオーダリングシステムに特有というよりは、多くの人間が集まれば、必ず一定の比率で存在しそうな勢力の抵抗なのである。
 経営戦略上、必然的に導入しなければならないものであるという、トップの強い意思の下、抵抗勢力を撃退してでも導入しなければならないものし、一気呵成にオーダリングシステム導入へと走ったのである。

錦の御旗

 とはいっても、物事を遂行していくには「錦の御旗」が必要である。そこで、このシステムのコンセプトを立案することとなった。
 真言密教に胎蔵曼荼羅というものがある。大日如来を中心に、如来や菩薩を配したものである。諸尊は、それぞれの存在の意義を発揮しながら、相互供養し、大日如来のこの世の全ての生命を生かす大いなる生命ならびに慈悲や智恵を分担し、衆生を救済し、悟りの世界が得られるよう衆生を導いている働きのさまを表しているという。同様に、患者を核として、各々の医療職がお互いの知恵や技術を分担、共有していくという概念から、Keiju Information Spherical System ( KISS )( Spherical=球状の )というシステム概念を打ち出し、この錦の御旗のもとで導入していくこととした(資料1)。

電子カルテの目的は(資料2)

 一方、電子カルテの目的を考えてみたい。電子カルテはオーダリングシステムを内包したものと考えてよいと思う。多くの病院はなにもない状況から、いきなりIT化ということで電子カルテ導入を考えているように見受けられる。しかし、私は戦略上は似て非なるものと考えている。
 すなわち、先に述べたような経営的な観点では、電子カルテは必要ないと思われる。さらに、表面的な(狭義の)患者サービス面においても情報開示以外に、待ち時間などに電子カルテは関係がないものと思われるからである。
 それでは、電子カルテの目的をどこに据えるか?私は、広義の患者サービスにつながると思われるが、「医療の質の向上」が電子カルテの唯一の目的であると思うのである。
@透明性の確保
 患者による閲覧:特に外来診療においては、リアルタイムに医師の入力内容を患者は
        コンピュータ画面を通して閲覧・確認できる。
 ピア・レビュー:診療内容をいつでも、どこでも、誰でも閲覧することによって
        同僚(ピアpeer)評価が可能となる。
 監査:上司、上級医が診療内容をいつでも、どこでも監査することができる。
A情報の共有化(資料3)
 すべての職種が、時系列で同じシート上に記載していく。従来の医師の診療録、看護記録、薬歴記録、栄養指導記録、リハビリテーション記録など、ともすればばらばらにファイルされていた記録がすべて同じシート上に記録されていくことになる。
B検索性(資料4)
 上記のようにいわば混沌と未整理に投入された記録は、デジタル情報ならではの検索性によって閲覧したい情報のみを抽出可能となる。これがコンピュータの最大の特徴といってよいだろう。すなわち、カルテ種別や、入院・外来別、入院期間別、本文検索などありとあらゆる検索機能によって、必要な情報が取り出されるのである。
C情報開示
 電子的に入力された情報は、きわめて情報開示に有用であることはいうまでもない。すなわち、「読むことができる」カルテができるのである。
Dネットワークによる連携
 デジタル情報は、ネットワークに載せることが容易となる。ファイアーウオールやプライバシー保護の仕組みさえつければ、患者本人や連携紹介医などから、インターネット経由で決められた情報を開示していくことは、決して難しい話ではないと考える。
このような目的からすると、オーダリングシステムとは違い、経営側が先頭に立って導入を推進するというよりは、医療の現場から質に関して強い意思表示が重要であると考える。したがって、当院では委員会を組織した上で、その中での十分な議論を経営側に諮問させるという過程を経て導入スケジュールを策定していったのであった。

  

導入スケジュールの考え方

 オーダリングシステムの導入は、病院の外来業務から進めていくべきであると思う。なぜならば、病院の外来業務は、オーダーイコール実施である。オーダーが確実な実施に結びつく業務は実施入力の簡素化につながるからである。これに対して、入院業務はオーダーイコール実施ではない場合が存在する。特に状態が刻々と変わる急性期入院患者の未来の指示は、実施されないものが存在する可能性が大きいからである。したがって、入院業務では実施確認とレセプトへの実施入力が必要であり、より工程が多いものであると思われたのである。
 一方、電子カルテは、入力にかかる時間と慣れという問題から入院から先に導入すべきであると思われる。診察後いかに早く帰すことができるかという外来においては、入院診療によって入力側が十分に習熟してから導入すべきものと考える。
 このように、両者の目的から導入手法は似て非なるものであると考える以上、両者の同時導入は二兎を追うものは一兎をも失ってしまうものと考える。たとえ短い期間であっても、オーダリングシステムの成功を見たうえで、次に電子カルテへ移行していくことが重要な戦略であると確信している。


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