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その8 情報伝達の視点

隔週刊「医療経営最前線 経営実践扁」(産労総合研究所) VOL.290・2003年12月20日号
連載:恵寿総合病院のIT戦略


 医療のIT化によって、ありとあらゆるデータが電線(Wire)上を行き来する。それは最小単位であるデータから情報→知識→知恵と進化していくことであろう。データに何らかのメッセージが付与されたものが情報であるといえよう。さらに、その情報が経験や教育を通して個人や組織のものとなってはじめて知識になると思う。その知識を縦横に絡ませながら、新たなものを創造してこそ、知恵ということになるだろう。
 道具である以上、ITに知恵を求めることはできないと思う。しかし、データとともに情報を伝達し、知識の創造に役立てることは可能であると思われる。そして、情報を整理し、収納しておくことはIT化によって得られる大きな恩恵かもしれない。
 今回は、恵寿総合病院の歩みを情報伝達の流れから検証してみたい。

声による情報伝達

 情報の伝達はフェイス・トォ・フェイスが最も原始的であり、しかも最も確実な手段であると思われる。元来、医療の提供は医療者から患者へのフェイス・トォ・フェイスのサービスであることは言うまでもない。次にマウス・トォ・マウス、すなわち声による伝達、電話ということになり、さらにデジタルデータによる伝達が控えているのである。
 平成8年10月、全国の病院に先駆けて当院では事業所内PHSシステムを導入した。すでに実施してきた診療材料、臨床検査、薬剤などに関する業務の見直しの一環として電話交換業務の見直しを行った結果として導入したものである。これは、デジタル電話交換器導入によってなしえたものである。従来のポケットベルによる呼び出しに比べて外線発信による電話料金の削減とともに、院内を移動している職員に直接電話機を持たせることによって情報伝達は迅速化し、確認作業にかかわる時間の無駄を大幅に削減することができたのである。当院での事例によって、全国的に院内PHSが普及していくことになったのである。現在、病棟においてナースコールとリンクしたものも含めて、161台が稼動している。
 また、すでに本誌VOL.281・2003年7月20日号「CRMの視点」で詳述したように、当院では平成12年6月に全国初の医療・介護・福祉のコールセンターを設置した。IT化がいかに進んでも、患者からの問い合わせや患者への連絡、また連携医療機関と病院との間の双方向の連絡に声を介することが多い現状にある。そこで、こういった声によるアナログ情報とデジタルであるIT情報との間を取り持つ「優しいインターフェイス」が必要になるだろう。それを具現化したコールセンターは、デジタル情報をマウス・トォ・マウス情報に、マウス・トォ・マウス情報をデジタル情報に変換するための大きな役割を担っているのである。

電子メールによる情報伝達

 今更ながら、電子メールの急速な浸透は生活の場の中でなくてはならないものになった。とくに、日本が先駆的立場にいる携帯電話によるメールや画像配信システムは、情報伝達に関する従来の世の中のシステムさえ変えようとしている。さらにフィルムカメラは伝送可能なデジタルカメラにほとんど駆逐され、電子マネーや電子チケットが現実のものとなったのである。
1.患者の視点
 医療分野では、病院内の携帯電話使用制限という問題がある。航空機内など比較的短い時間における制限と、病院内が生活の場となる入院患者における使用制限は、大いに異なるものと考える。そういった意味で、電子メールがあたり前となった現在、携帯電話の使用を制限する以上は何らかの代替手段を提供することを病院として考えなければならないと思われる。
 当院では、すでに平成9年から「お見舞いメール」サービスを実施してきた。院内の入院患者に対して外部からの電子メールをプリントアウトした上で台紙に貼布して「お見舞いメール」として届けるサービスである。また、平成14年にリニューアルした病院図書室においては職員と同様に患者もインターネットを自由に使うことができるものとした。Webメールサービスを使うならば、患者は容易に外部とメールのやり取りをすることできるのである。
 さらに、今年度事業として、患者本人や家族が電子カルテをインターネット経由で閲覧できるシステムを立ち上げる予定となっている。このシステムのメール機能で直接主治医や病院職員へ連絡できる仕組みを検討中である。
2.業務の視点
 病院業務においても、取引業者とのアポイントメントから見積書や発注書のやり取り、さらには、関係する組織からの会議や研究会の案内など、すでに多くの電子メールがやり取りされている。従来の郵便やFAXに比べて、そのスピードや双方向性が確保される。さらには添付ファイルやHTMLメールによって単なる文書から、図表やロゴマークなどを含めたきわめて高品質な文書をやり取りすることができるようになったのである。ちなみに、本原稿も締め切りぎりぎりに編集部へ本文はテキストファイル、図表はパワーポイントファイルで送信しているのである。
 次に、病院あるいは関連施設間の情報伝達について触れてみたい。平成9年1月、オーダリングシステム導入とともに、当院ではオフィスソフトであるMicrosoft Outlook(R)を利用して文書管理サーバーシステムを確立したことは以前の連載で述べた。同時に、電子メールも使用可能になった。さらに、関連施設へのオンライン化とともに、全ての施設間連絡にも電子メールが使用可能になった。このシステムは各クライアントコンピュータそれぞれに1メールアドレス付与したものである。これによって、院内の連絡は以前の紙による連絡から一気にメールによる連絡へと変貌していくことになった。会議やカンファランスの召集や事務連絡、ヒアリハットニュースや院内メルマガなど、添付ファイルも使って連絡しあえることになった。運用上の問題点として一部署に複数台のコンピュータが存在する場合にどのアドレスへ送ったらよいか分からない点があった。そのため、各部署ごとに代表コンピュータを設定し、またそのメールアドレスを一目で部署が分かるものとした。この経験は、後述する人を特定したメールシステムへ発展していくことになる。
 メールシステムによって関連施設のレントゲン写真で専門医の判断を至急仰ぎたい場合など、デジタルカメラで撮影してそれを添付ファイルで送信するなど当初予定しなかった効用も生まれてきている。
 さらに、各部署が業務上外部組織と連絡を取り合う必要性が出現し、そのためにインターネット網とメールシステムの接続の希望が多くあがった。セキュリティー上、コンピュータウィルス進入が最も危惧されたものの、前記の各部署代表メールアドレスに限り外部接続を可能なものとした。また、ホームページを通して各部署のメールアドレスを公開することとした。もちろん、セキュリティーに関しては毎日のコンピュータ立ち上げ時にサーバーから最新のウィルスチェックソフト情報を自動的にインストールする仕組みを担保とした。

電子カルテ化によってできること

 電子カルテは、すでに本連載で述べてきたように情報共有のための大きな道具である。また、それまでのオーダリングシステムにおける限定された職種における利用から、患者を取り巻くありとあらゆる職種が電子カルテシステムにログインし、書き込んでいくことになる。ほとんどの職員が電子カルテシステムにログインするならば、そのログイン時に何らかの情報を伝える有効な手立てがあるに違いないと判断されるのである。
1.患者情報画面(コメント画面)による伝達
 従来の紙カルテにおいては、医事課などから医師に伝えたいことは付箋を貼ったり、メモ用紙を添付したりすることなどは、どこの病院で行われたことであると思う。さらに、医師自身も、カルテ記載に適さない「覚え」的な情報を付箋に書いていたこともあろう。
 電子カルテ化しても、この付箋機能を担保するべく「コメント画面」が患者にログインしたときに、真っ先に出てくるものとした。ここでは、資料1に示すように科別の覚書のほか、医師以外の職種からの連絡、要請を掲載し、また検査所見などが入力された場合は、自動的に検査所見入力ありという表示も出せるものとした。この画面はあえて「閉じる」操作をしない限りは次の画面に進めないものとしている。
2.医師指示の病棟伝達
 前日の定時までに出された医師による入院患者の指示は、各部署で確認でき、当日の予定として準備されていく。しかし、急性期を扱う以上は当場の指示出しや、指示内容の変更など日常的にありうるのが現実であろう。すぐに、病棟ナースに知らせる方策として、もちろん現場での指示が一般的かもしれない。ところが、電子カルテでは入院患者病棟以外の場所でのデータ確認も、別の場所からの指示も、いともたやすいことなのである。その際、電話でも連絡もありうるかもしれない。当院では医師が何らかの指示を入力し、直ちに病棟へ知らせたい情報は、資料2に示す終了確認画面中に設定した「病棟伝達」ボタンをクリックして終了させる。これによって当該患者の入院病棟の指示受け用と設定したコンピュータに対して、指示到着の知らせがリアルタイムで届くシステムとした。これによって、確実な指示受けができることとなった。

3.電子カルテメールと院内紹介状
 先に述べたように患者を取り巻くあらゆる職種が電子カルテにログインする。その際に個人のID番号とパスワードを入力することによって、どこにいても、どのコンピュータを使用しても個人を特定できることになる。ならば、その個人に対してメールを届けようという発想である。この考え方は、従来の院内メールとしての「1コンピュータに1アドレス」から、「どこでも個人メール」へということになるのである。実際、不規則勤務や勤務日・時間によって仕事場所が変わりうる病院職員は他の業種のデスクワーカーのように、自分のデスクでいつも自分用のコンピュータを使用するといったこときわめて少ないのである。
 資料3のように、ID番号とパスワードを入力すると未読メールの有無が表示される。そこで、「メール」ボタンを押すことによって自分宛に来たメールを確認できるものである。資料4はメールの内容である。院内他科への紹介においては、紹介先の医師が返書を入力することによって、自動的に患者IDと関連付けたメールが紹介元へ送信される。さらに、紹介元はこのメールからその患者の電子カルテへジャンプして確認することも可能となった。

無駄を省く伝達へ

 患者の安全というキーワードはますます大きな意義を持つものとなってきた。その中で、業務工数の見直しと削減は重要な要素として認識すべきであると思う。そういった意味で、情報伝達のシステム化による無駄の排除は、必ずや安全に寄与するものと思われるのである。 


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