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政府管掌健保 搾り取る「悪代官」では困る

毎日新聞2000年10月1日社説より

registration date: 2000.10.10


   なんとも割り切れない見通しだ。

   勤め人が年間に払う医療保険料はいつの間にか給料の1カ月分にもなった。それでも保険料を上げないと保険財政はもたない、というのだ。

   中小企業の勤め人ら3730万人が加入する政府管掌健康保険(政管健保)の収支が悪化、厚生省によると、このままでは2002年度に積立金が底をつき、保険料を月給(標準報酬月額)の8・5%から9・6%に引き上げざるを得ないという。

   約1800の大企業を中心とした会社健保も、自営業者らが加入する国保も、似た財政事情を抱える。それは少なくとも3年前に政府は予測していたはずだ。

   保険料のベースとなる賃金はこの2年間下がり続け、リストラで企業の人減らしも進む。政管健保でも保険料収入は昨年度、戦後初めて前年度よりダウンした。

   一方で、国民医療費は年平均約4%増え続ける。この増加分のほとんどを高齢者医療費が占め、前年比で8〜10%も増え続ける。それによる各医療保険制度から高齢者医療費への仕送り(老人保健拠出金)分の増加が財政悪化の最大の原因だ。

   政管健保でも、この仕送りが支出全体の4割近くを占める。

   高齢者医療制度をはじめ、出来高払い制を柱とした診療報酬体系、薬価差益を生み出す薬価基準制度などをみても、医療費の増大に歯止めをかけられない制度疲労に陥っているのは明らかであろう。

   抜本改革というメスを入れ、高齢者医療を中心になんとか出血を食い止めねばならない。

   1997年8月、当時の自民、社民、さきがけによる与党医療保険制度改革協議会(与党協)が医療保険制度改革案「21世紀からの国民医療」と題した報告書をまとめ、今年度から抜本改革をスタートさせると決めたのは、そうした危機感からだったはずだ。

   にもかかわらず、この3年間、抜本改革はほとんど進まず、改革は2年先まで延ばされた。

   厚生省の審議会でまとめられた薬価改革などの改革案のほとんどに日本医師会が反対、自民党がその主張を受け入れてきたためだ。

   その経過、背景を振り返ると、保険料だけを上げるといわれてもサラリーマンらは納得できるわけがあるまい。

   ただでさえ、給料から天引きされる社会保険料は上がり続ける。

   例えば、勤め人の介護保険料は、今年4月から1人平均約2630円(労使折半)の負担増となった。

   介護保険により、今まで医療保険で面倒を見てきた高齢者の「社会的入院」が減るから、医療保険料は下がる、というのが厚生省の言い分だった。ところが、医療改革が進まないために、医療保険料はほとんど下がらない。そのために介護保険料はそっくり負担増となった。

   中小企業の給料は大企業に比べ平均7割と大きな格差がある。

   その手取り収入は減り続けるのに、医療保険料をさらに上げるというなら、あくせく働く農民から年貢を搾り取る悪代官のやり口と同じではないか。

   世界に誇る国民皆保険制度をなんとか維持していかねばならない。

   そのためには医療の抜本改革をこの2年間でやり遂げるしかない。

   それはまさしく政治の責任だ。


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