医療経営Archives
キーフレーズで捉えるサービス提供の課題
特集 21世紀の保険・医療・福祉のサービス提供のあり方:
日本医師会総合政策研究機構主席研究員・日本福祉大学教授 川渕孝一氏
(Medifare Vol.2,No.3 2000年冬号 、第一製薬株式会社 発行)より
registration date: 2000.1.22
ここでは21世紀の保険・医療・福祉のサービス提供のあり方を探る上で、「
機能分化とネットワーク
」「
在宅問題
」「
医療と介護
」「
経営の多角化
」「
質の保証と情報公開
」−5つのキーフレーズをパラメターとして取り上げ、それぞれについて日本医師会総合政策研究機構主席研究員・日本福祉大学教授の川渕孝一氏に意見を披露してもらい、その内容の要点を箇条書きにまとめてみた。
機能分化とネットワーク
基本的視点と問題点
病診・病病連携の問題には第
4
次医療改正や診療報酬の抜本的見直しが絡んでおり、いわば「法律」と「お金」のいずれから攻めるかという問題になるが、連携推進の方向に変わりない。急性期・慢性期の区分は病病連携に絡む問題であり、法制化されていないリハビリ病院も絡む。連携問題は、「在宅」への流れを作れるかどうかに尽きる。
今後の取り組み課題
中小病院は自らの守備範囲を決めざるを得ないが、中小病院=高齢者対応病院とは限らない。専門特化と急性期病院の受け皿となる方向の
2
つの軸が考えられ、今後は「完治しない患者」の受け皿となる病院の必要性がますます高まらざるを得ない。
「在宅」は、中小病院・診療所が取り組んでいかなければならないテーマである。
在宅問題
基本的視点と問題点
21
世紀に「在宅」が普及するか、答えはノーだ。結局、在宅ケアは施設ケアよりもお金がかかる。夜間、
1
ヵ所で管理が可能な施設ケアと、
24
時間巡回サービス体制を敷くなど人手をかけなければ対応できない在宅ケアと比較すればわかるはずだ。
医療やケアの提供側や、患者を引き取る家族にとっても、「在宅」はコスト高。国が号令を出してもなかなか普及しないのは、なるべくしてなっている現状があるためだ。
国の号令の出し方も、在院日数は短縮化すれば診療報酬上有利という方法を取っているが、在院日数を短縮しても、患者は「在宅」にいかずに他施設へいく。患者の「たらい回し」と批判されるが、それが病病連携の偽らざる実態ともいえる。
「在宅」はコスト高で普及せず、患者のたらい回しも許されないというのであれば、「何をもって在宅を普及させるか」という問題が残る。
今後の取り組み課題
ここ数年、往診に比して訪問看護が急上昇。医師が「在宅」に行かなくとも、看護婦が行く。
21
世紀は、医師に代わる新しいサービス提供の形がどんどん普及してくるかもしれない。
「在宅」の起爆剤はデイケアだろう。診療報酬上は週
3
回までの制限があるが、介護保険には制限がないのは朗報といえる。
医療と介護
基本的視点と問題点
医療保険と介護保険の関係が不透明であり、施設の経営者が非常に困っている。介護療養型医療施設の仮単価
43
万
1000
円が介護ケアに対する報酬だとすると、「医療」の部分は何でカバーするかがまだ不明確だ。
介護保険は、
1
)要介護度という症状に応じて料金が変る、
2
)要介護度は認定審査会で決定する(医師の裁量権に影響する)という仕組みである点が画期的であるが、混乱も予想される。
21
世紀に定着するのかどうか。
要介護認定を申請したが落ちた(漏れた)という場合の施設の対応の仕方がまだ明確になっていない。国も制度を詳細に詰めれば詰めるほど、現場が混乱を来す可能性もある。
介護支援専門員には、
1
)自治体から委託された業務(訪問調査・要介護度のランク付け等)と、
2
)ケアプラン作成業務の
2
つであるが、介護支援専門員の多くは医療法人などに所属するので、どこに顔を向けて仕事をするかが問題。
今後の取り組み課題
療養型病床の経営者は、先行き不透明ななかで介護保険型と医療保険型、ミックス型のいずれを主軸にするかを決定しなければならない。
介護保険型は収益との絡みで、
1
)ケアが楽な人を中心にするのか、
2
)ケアが大変な人を中心にするのかの判断が必要だ。つまり、「高収入・高コスト」か「低収入・低コスト」のいずれを選択するかが問題である。要介護度ランクによる収入差が少なければ、軽症者中心で経営したほうがよい。
法定要員数による最低の固定費レベル(主に人件費)という目安があり、それを賄うためにどの程度の収入が必要かという計算が必要だろう。重傷者を誰が面倒をみるのかが社会問題になる恐れもある。
病院としては介護支援専門員をマーケッティングの現場監督に育てていく可能性がある。
経営の多角化
基本的視点と問題点
多角化は、診療報酬(公共料金)に限界があるから、自由料金の分野に出ようという考え方だ。混合診療は禁止だが、自由診療は許されるので、この分野の掘り起こしがあってもいい。
特別医療法人の認可を受けるような病院は「はじめに制度ありき」ではなく、「はじめにニーズありき」の考え方が必要である。
非合法であるお世話量を払っても施設に入りたいというニーズは今もある。多角化の検討には、非合法で潜行しているような問題を議論の俎上にのせる必要があるのではないか。
今後の取り組み課題
「医療」の周辺分野で収益を上げるには、企画力が鍵を握る。さまざまな企画を模索するために、すぐれた人材の確保が急務である。
事務職はレセプト業務のみならず、マーケッティング活動に従事することも必要。稼ぐ人材が登場してこなければならない。
質の保証と情報公開
基本的視点と問題点
2000
年
1
月から日医が作成した指針に基づき、カルテ等診療録の開示が始まる。医師の自発的取り組みであることに注目。経済的裏付けなどインフラが未整備なままでのスタートだ。
カルテの開示要求が患者から出るということは、診療の中断を意味する。レセプトの開示要求は、開始後
2
年で約
2000
件。
47
都道府県で平均すると
1
ヵ月当たり
4
件だから多くはない。ただし、見たい人の要求度は相当強い。
日医推進のカルテ開示は、遺族・弁護士は対象外だが、この枠はいずれ取り払われるかもしれない。医師は今後、第三者を意識してカルテを書く必要があるが、それは日常的に可能なのか。診療情報管理士の確保が必要になろうが、中小病院はそういう人材を確保できない。
診療情報開示には医療機関のパフォーマンスの公開という課題もある。
DRG
別の在院日数・コスト・死亡率等のデータ把握が必要であるが、国際疾病分類に基づくコーディングはほとんどの病院で未実施。コーディングを行っていない病院は、質の評価に値しないのではないか。
今後の取り組み課題
日医総研は、医療事故やトラブルのすべてを管理できるような「医療安全管理士」の要請を検討中。中小病院は、事務長が診療録管理を兼務することも考え、「トラブルの原因になるカルテとは?」など診療録に関する再教育が必要。
診療所医師は共同でお金を出して、都道府県・郡市医師会に医療安全管理士を置き、組織対応していくことも必要である。
急性期病院は質の評価に値するように、コーディング等に着手する。コーディングのできていない病院には機能評価の認定証を出さないくらいの断固たる姿勢も必要だろう。
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