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超高齢化時代

コラム:水巻中正著(HUMAN SCIENCE 1996年3月号)より

registration date: 1996.5.17


孔子の教えに次のような言葉がある。<父母の年は知らざるべからず。>(論語)

そして、孔子は両親の年を知らねばならない理由を二つあげている。一つはもって喜び、一つはもって懼(おそ)る。父母の年を知ることは長寿を喜ぶことであり、他方、万一を恐れて気づかうことだという。儒教思想に基づく親孝行論ともいえるが、加速化する高齢化社会の到来を考えると、実に含蓄のある言葉だ。

日本人の平均寿命は、男性が76.57歳、女性が82.98歳で世界一(1994年)。65歳以上の高齢者は1820万人を数え、全人口に占める割合は14.5%に達した(1995年)。
さらに、団塊の世代が65歳を一斉に迎える2011年から2014年にかけては5人に1人が高齢者となり、その多くが父母を養い世話をする時代に入る。いわゆる「老老同居、介護」の時代で、「最後の生」、尊厳ある生と死が最大のテーマとなるものと思われる。

(中略)

日本の場合、65歳以上の老年人口割合が7%(1970年)から、高齢化社会と定義される14%(1994年)になるまで24年間かかったが、ちなみに外国をみると、アメリカ72年、デンマーク53年、フランス127年、ドイツ40年、イタリア59年、スウェーデン85年、イギリス47年といった具合。日本の高齢化は世界一の速さである。
では、日本が20%になるのはいつか。国連、国内の将来推計人口からはじき出すと、2007年に20.1%になる見通し。外国ではドイツが2017年、デンマークが2021年に20%に達し、日本はまた世界一のスピードで大台に乗る。

厚生省の広嶋清志・人口問題研究所人口政策研究部長の話では、これまで、高齢化率が20%になった国はゼロ。その中で、日本のスピードは著しく、人口動態学からは2007年、20%に達した時点で「超高齢化社会」と位置づけてもいいのではないかとの考えを示している。つまり、高齢化率20%が超高齢の指標となる。

これから11年後。世界で初めて超高齢時代に突入する日本はその時、どうなっているのだろうか。15歳から64歳までの「生産年齢人口」は減少し続け、65歳以上の老年人口が15歳未満の年少人口を大きく上回ることは確実。景気が停滞し活力のない国になるのか、それとも、長寿を喜び合い、中高年パワーが国を支えリードする時代になるのだろうか。その将来設計は65歳を迎え、人生80年を生きる「スーパーエイジ」の肩に、いや生き方、行動、力にかかっている。

人生のうち65歳は超高齢の一通過点でしかない。第二の人生設計を立てる熟慮の時、すなわち、分岐点である。生きがい、社会的貢献・・・・・・選択しはいくつもある。

孟子の言葉に、<吾が老を老としてもって人の老に及ぼす>という教えがあるが、自立した人生設計に加えて、自分、他人の親に関係なく敬老の精神を養うことが、超高齢時代の心のもう一つの指標となるに違いない。

(水巻中正氏:読売新聞社解説部次長)


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