Medical Management 1998年1月号

マーケッティングからコスト管理へ
−医療における情報化について−


あけましておめでとうございます。昨年暮には銀行・證券業界に市場の厳しさを見せつけた年となった。医療界にとっても、保護行政は期待できないし、怠慢な経営は許されない時勢となっていきそうである。

今年は、診療報酬改訂の年。今までにないマイナス改訂が予想され、またもや医療界にとって厳しい年となりそうだ。しかし、国民にとって「住みやすい国」というのがどのような国なのか。安心して医療・福祉が供給される国なのか?役人が多く、また公会堂や道路が整備された国なのか?原点に返って考えていただきたいと思う。将来の安心がなければ、われわれ国民はどんなに低金利であっても、金は貯蓄に回す。景気回復のための消費の拡大はのぞめそうにはない。

今回、情報化のお話をする前に、今後の医療費の動向について「おさらい」をしておく。

当面の改定予測

すでに報道されているように、診療報酬について、大蔵省は1998年度での引き上げを認めない方針を決めた。一方、通産省は国内総生産(GDP)の名目成長率が年平均1.75%にとどまった場合、2025年度に国民医療費を18兆円削減することが必要になるとの試算をまとめている。これらを受け、厚生省は新年度予算での医療費国庫負担4200億円圧縮を実現するための措置として、薬価引き下げ10%で2000億円、医療用材料費や、長期入院に対する診療報酬点数の引き下げなどで800億円程度、政府管掌健康保険への国庫負担割合切り下げで約700億円を切り詰める方向とのことである。さらに、入院時の食事代引き上げや、高額所得者に対する高額医療費の自己負担限度額引き上げによる国民負担そのものをも増やすことで、財政を再建しようとしている。

これらの国側の方針と、日本医師会、各病院団体や製薬協などとのつばぜり合いが、この1、2ヶ月続いていくものと思われる。しかし、冷静に現実を見つめれば、少なくとも薬価引き下げ、材料費引き下げ、長期入院に対する入院費逓減制は、必ず今春の改定で実施されるように思う。この引き下げ分が技術料に反映されるか、反映されずにそのまま削減となるのかどうかが鍵になってくるように思う。

情報化の話

前述のように、われわれが予測していた以上に、医療費削減の波は早くおし寄せてくるようである。医療費の削減とともに自己負担の増大は患者の受診動向の変化をもたらす。さらに、少子高齢化の時代となった。労働人口の減少も予想されている。病院の収入アップのために患者数を増やすといったような対策はすでに頭打ちとなりつつある。われわれはそろそろ発想の転換を図る必要がある。

すなわち、患者増というマーケッティング的発想から決別し、いかに同じ効果を低コストで成し遂げるかといったコスト管理的な発想に転換していく必要性がある。いち早くコスト管理を徹底させるためには、必ず病院の業務の情報化、電子化が急務となってくるものと思われる。ここで、病院における情報化について整理してみたい。

1)情報化のスタンス

こと医療情報の問題においては、患者側のメリットや医療の質の向上ばかりが強調される傾向がある。しかし、当然のことながら、同時に病院を運営する“企業”として、医療機関側における業務の見直し、効率化、コスト対効果という観点から情報化に取り組むスタンスも重要な要素として加えるべきである。

いままでの医療機関における業務のプロセスをそのまま踏襲しただけの電子情報化の失敗は目にみえているように思う。情報化にあたっては、すでにある医療の慣習、形式化した業務を原点から見直し、一度捨て去る必要がある。

医療の情報化は医療機関における患者側、運営側に横たわるすべての業務の見直しから始まって、その結果、必然の帰結としてなされるべきものであって、決して電子情報化のみがひとり歩きするものではないという点を強調したい。いわゆるビジネス・プロセス・リエンジニアリング(BPR)の一貫として、進めていかなければならないものと考える。(本誌1997年2,3月号、あるいはインターネット http://www2.meshnet.or.jp/~kanno/mm02.htm 参照)

2)情報化の道具

すでに蓄積された情報を引き出し、関連付け、加工することはコンピューターがもっとも得意とする仕事である。さらにその電子化された情報をいつでも、どこでも手にいれることは通信の発達とともに容易な仕事となった。これを利用しない手はない。しかし、このコンピューターをいかなる仕組みで運用するかという点では、利用者側の確固たる思想、自分の役割を遂行するためには、何がしたいのかを明確に認識する必要があろう。

3)当院の事例と戦略

当院においても診療のオーダー、検査の照会や患者情報の参照といったいわゆるオーダリングシステムが稼動している。さらに、これに在庫管理、発注業務、人事管理、経理、文書管理(イントラネット)といったシステムも統合した。しかし、これはほんの第一歩にすぎない。漸く院内のすべての業務を電子化して保存することができたという段階である。これから、診療内容のコード化による電子カルテ化とともに、電子化情報の加工、分析に応用していかなければならない。

すなわち、一人の患者に関わるすべての業務を分析することにより、診断から、治療、治癒の過程のフローチャートの分析とコスト管理が可能となってくるわけである。フローチャートの分析により、標準化した最も効果的な診療の流れを策定することができる。また、コスト管理面では一つ一つの医療行為ごとに関わるすべての業務の按分率を決定する仕組みを作ることにより、コンピューターは保存された種々のデータから容易に行為別のコストを分析することができると考える。その結果、標準化されたフローから逸脱しようとした症例の修正を速やかに行い、さらに行為別コスト分析から収入としては計上されるものの、不採算な部門があれば思い切った撤退の道もあるし、採算の大きな部門への物的、人的投資の拡大につなげることができる。

こういった試みは、原価管理という面で今後来るべき医療費の定額化に向けて、定額内でどの部門を切りつめていくかといったような経営上で必須のアイテムとなってくるものと確信される。さらに、その評価方法に閉塞感のある職能給議論の理論的裏付けとしての効果も期待されることを附記しておきたい。


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