Ms.K (Washington, USA)

アメリカの大学で病院経営学を学んでいらっしゃるKさんから頂きました。

病院における顧客満足(CS)について


1998.1.12着信

神野先生へ

御無沙汰しております。先生のホームページを拝見させていただきました。特に花王の事例は大変興味深く拝見させていただきました。私のプログラムは、大学院で学問を習うというより、仕事の実践を習得しているといったほうがいいかもしれません。つまり、即戦力になるようにプログラムが組まれています。

前学期で基礎的な事は終了し、前回より一歩進んだプロジェクトが始まります。まさに現在病院が抱えている問題を、教授に与えられます。私たち学生は実際に病院に赴き関係者にインタビューし私たち学生が問題解決まで導きます。私のプロジェクトは日本にも応用できるかもしれません。3ヶ月のプロジェクトですが、終了後もし、日本に参考になる内容がございましたらお送りいたします。

さて、私のプログラムは、多くの講演会が催されます。なるほどと感心する内容が多いのですが、日頃知っているつもりで気づかない事があると思います。神野先生がご指摘されましたCS(顧客の満足度)について記したいと思います。

BJC右の図はワシントン大学の大学病院も属すBJCヘルスケアシステムの顧客の満足度について発表された時の資料です。
アメリカでは患者は顧客として位置づけされています。

日頃、病院も含め企業は、顧客から何らかの形でクレームを受けます。しかし、実際は、クレームを持つ人の約5から10パーセントの顧客しか企業にアクションを起こしません。残りの90パーセントから95パーセントの顧客は、不満をもつにもかかわらず、クレームを企業に知らせません。つまり、クレームを持つ顧客は企業が知らないうちに競争相手の企業に変えてしまいます。この現象が、気が付けば他の競争相手の病院に患者が取られていた、結果になります。ここで、大切な事は、いかに不満について意思表示しない顧客を企業が把握するかがキーポイントになります。この戦略について、アメリカの病院のみならず他の企業もしのぎを削っています。

病院について紹介する前に、私のアメリカの経験を記してみたいと思います。
馬とニンジン、まさにこの表現が当てはまると思いますが、何かお気づきの点がございましたらご連絡下さいでは問題は解決いたしません。最近、航空業界で業績の伸びているユナイテッド航空は、一定期間中かなり詳細にわたったアンケートを実施いたしました。私もこのアンケートに3回参加いたしましたが現状分析に必要な内容はほぼ網羅されていたように思います。飛行時間の長い国際線に実施されたらしく、ちょうど乗客が暇で何かしたい時にアンケートが配られ、答えた人に抽選で航空券が当たるとあればこれがニンジンになり乗客は答えます。ここで、他の航空会社も同じ事をすれば同じとお考えかもしれませんが、今まで気づかなかった問題点をすばやく解決すれば顧客の満足度の得られ、囲い込みも成功いたします。アメリカでは不満を持ち、クレームを言わない90パーセントの顧客を知るため多くの資金を使います。

ほとんどの人は、顧客として不当な扱いを受けた時は、電話をかける事、手紙を書く事を試みようとしますが、結局しないまま終わって90パーセントにはいってしまい、他の企業に変えてしまうのです。自分自身の経験からもうなずけます。

さて、BJCでは90パーセントの不満層の掘り起こしのため、やはり部署も設けられ、予算も当然割り当てられています。BJCではランダムに選んだ入院患者で退院して、郵送によるアンケート調査を行いました。さすがに、航空会社にように無料の入院券はなかったのですが、回収率は解析に十分な数が集まったそうです。ここで真の患者のニーズや不満度を知った上で、病院を改善していきます。

詳しくは割愛させていただきますが、下の表を御参照下さい。

  1. 患者を治療する
  2. 患者にアンケートを実施
  3. 結果を分析し現状を理解する
  4. 改善する優先順位を考える
  5. プロジェクトティームで解決策を考える
  6. 現在の方法を見直し、現状をニーズに合わせて向上させる
  7. 新しい方法を実施し患者にもう一度評価してもらう
7番が、アメリカ的な方法と思います。コミュニケーション、日本では、まだ一般的ではありませんが、折角の新しい試みももう一度顧客に聞いてみないことには、成功したかわかりません。この方法は日本の病院も積極的に取り入れる必要があるように思えます。

長くなりましたが、意外と気づきにくい90パーセントの顧客の不満をどうやって理解するかがますます経営の厳しくなる日本の病院経営に必要だと私は思います。


1998.1.17発信

Ms.K様

お久しぶりです。ますます充実した、しかも実践的なカリキュラムに取り組ん でいらっしゃるようですね。

日本でもCSについて、いろいろ議論されておりますし、「患者様のため」とい う言葉も流行語のようにあちらこちらの病院で唱えられております。しかし、実 際はというと、自己満足的な取り組みが多いように思います。そういった意味で 送って頂いたBJCの氷山の一角の図は面白いと思いますし、なるほどと説得力に 満ちています。

昨年香港に行きましたおり、宿泊したホテルの机の上に何気なくおいてあった 「以人為鏡 Your Eye is Our Best Mirror」というアンケート用紙も、心憎い 書き方だなあと感心したことを思い出します。

確かに、再評価の手法は日本ではどこもやっていないことかと思います。とて も面白い発想かと思いますし、実際のクレームに対する真摯な対応とその内容の フィードバック、そして再評価という流れが私の病院を含めて日本で不足するこ とのように思われました。

大変貴重な情報ありがとうございます。私病院でも何らかのチャレンジを試み たいと思います。

ワシントンも真冬でお寒いことと思います。お体をご自愛の上、今後のご活躍 を願っております。


19978.1.18着信

神野 先生

神野先生がすでにご承知のとおりニッチ製品が話題になるように普段何気ないアイディアがビジネスのチャンスに結びつく事を実感する毎日です。

先日のメールの内容もたかがクレームされどクレームですが、マーケッテイングで苦労されている方は、先日のメールでヒントを得られるかも知れません。先生がお感じになるように私も、卒業後のために取っておくべき内容でしたが、2年後は日本でも当然の内容になっているかもしれませんのであえてお送りいたしました。

余談となりますが、アメリカは、市外電話はは自由に選べ、日本と違いまして各社横並びの料金体系ではありませんので、自分に有利なオプションがあればすぐに変えてしまいます。まさに馬とニンジンです。昨日は前に契約していた電話会社からどうして変更したのかを尋ねる電話がありました。全ての人が答えるとは思えませんが、CS調査に徹底していると実感しました。

2年後には、CSのために日本もアメリカのように各社いたちごっこになっていると思います。またそこに新しいニッチ的考えを持った人が成功するのでしょう。

昨年、日本を発つ時、間に合わせのスキャナーが今回役に立ちました。これも一種のキャノンのニッチ商品かもしれません。もともとプリンターですので、少々見づらい事にお詫びいたします。

セントルイスはとうとう本格的な寒さがやってまいりました。どうぞ、神野先生もくれぐれもご自愛下さいませ。


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