医療経営Archives

医療・介護をあわせた供給規制を

インタビュー:大蔵省主計局厚生第3係・中川 真氏に聞く(日経ヘルスケア1996年8月号)より

registration date: 1996.8.13


医療保険審議会第2次中間報告の検討課題には、保険医定年制、保険者と医療機関の直接契約、軽医療の給付除外、病院の総額請負制など、一昔前ならタブーとされていたような項目がずらりと並ぶ。そこには医療費適正化の観点からかねてから大蔵省が主張してきた意見も少なからず盛り込まれている。同省主計局主査(医療担当)の中川真氏に、財政当局の考える供給セクター側の問題点を聞いてみた。

一番遅れている供給側への対策

-−医療制度改革への視点として、需要サイド、供給サイド、医療費支払い方式の三つが挙げられていますが、今回供給サイドに関する問題意識を中心にお聞かせください。

中川4月に医療保険審議会小委員会で、その3項目についての諸外国の対応を比較した資料を作りました。それによれば、日本は供給サイドからの医療費適正化対策が一番遅れているのが分かります。現状の供給体制について言えば、お医者さんの数は諸外国と比べるとまだそれほどでもないですが、ベッドの数やMRI、CTといった高額医療機器の普及度合いは、世界最高水準の域に達しています。病床数などは既に世界の水準を超えて、以上に多いと言ってもいい。
一方で、医療費と供給量の関係をみてみると、やはり供給量が多いところは一人当たりの医療費も多くなっているという相関関係がある。今度の医療制度改革は、需要サイド、供給体制、支払方式など、ありとあらゆるものに取り組む必要があるわけですが、おそらくその中で一番対応が遅れているのが供給面ではないかとの認識を持っています。

(中略)

重要になってくる平均在院日数

-−今ベッド数は168万床弱あります。単純比較はできませんが、人口1000人当たりでみると世界の中でもかなり多い。では、大蔵省の考える適正値みたいなものはありますか。

中川(中略)
今の平均在院日数35日を欧米並みに短くしていくとして、仮に20日をターゲットとしましょうか。そうすると、当然ベッド数もそれに合わせた理想値を定める必要があるんだろうと思います。例えば120万床を35分の20としてみたらどうなんだろうかという議論も、あり得ると思うんですね。
ですから、供給量そのものの話と並行して、今後は平均在院日数の短縮も、非常に大きな課題になってくると思います。病院の機能類型を作る際にも、在院日数を一定の要件にするやり方があっていいんじゃないですか。

-−現在、新看護体系の中には30日というラインが一応ありますね。それをもっとシステマチックに組み込むわけですね。

中川ええ。そうすると、必然的に療養型というか、長期入院向けの病院と、そうじゃない急性期医療で生きていける病院とにかなりはっきり分かれてくるでしょう。在院日数をそんな形で施設の機能分担につなげていけないか。

医療介護の総量で規制が必要

-−昨年厚生省に、医療費の適正化の一環として、病床過剰地域では老人保健施設、さらに訪問看護ステーションに関しても数をコントロールせよと申し入れてますね。既にステーションすら過剰という認識なんですか。

中川(中略)
今は介護の世界だけだったら施設数が絶対的に足りませんから、老人保健施設もステーションも療養型病床群もどんどん作りましょうという話になるんだと思うんですね。しかし、本来は在宅サービスの施設も含めて、その地域全体で医療と介護の世界を合わせたトータルの供給量の把握とコントロールが必要なのではないか。

-−医療及び介護サービスの総量で考えるべきだと。

中川そういうことです。つまり、訪問看護を提供するということは、在宅のキャパシティー(収容能力)がそれだけ増えるわけだから、病院のベッド数はそれに見合う分いらなくなるんじゃないのか。

-−すると新ゴールドプランの整備目標の数値などにも不満がある。

中川新ゴールドプランというのは、市町村が老人保健福祉計画上どれくらい必要かという数字を積み上げたものに基づいているわけでしょう。だから、それがそもそも問題なんじゃないか。
(中略)

情報開示とコスト意識の浸透を

(中略)

-−今後の医療財源については、患者の自己負担の引き上げを有力な選択肢と考えておられるわけですね。

中川医療保険審議会でも様々な意見が出されていますし、今後の改革の重要なパーツだと思います。また、医療に関わるコストを、医療サービスの消費者である患者さんによりきちっとわかってもらえるような改革も必要だと思います。
同時に医療情報の公開をさらに進め、患者さんがより良い選択をできるように支援することが必要でしょう。受ける医療の中身、それにその病院ないしは診療所の評価等の情報は極力患者さんに公開されるべきだと思います。情報の開示とコスト意識の浸透の二つが、今後の医療の質を向上させるキーワードじゃないかと考えています。

医療保険が不公平なシステムになっている

中川さらに、自己負担のあり方を見直すことは、社会保険制度を通じて、医療サービスを買う人と、買わない人との公平を図ることにもつながります。サービスをどんどん受けている人は、全体のパイを膨らましているのに、コスト意識はなく負担も少ない。一方でサービスを買ってない人の保険料は上がっていく。要するにフェアじゃないシステムになってるんじゃないか。
ですから、そこにはサービスを買って、そのシステムから恩恵を受ける人は、それなりの負担をしてもらう仕組みにする。それによってサービスの総量をミニマムに抑え、結果的にサービスを買わなかった人の負担も最低限に押さえられるという効果も生む。
社会保険制度の中でサービスを買う人、買わない人との公平を保つためにも、今の自己負担の在り方を見直す必要があるんだろうと思うんですね。


医療経営Archives目次に戻る