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質の話

月刊「日本病院会雑誌」(社団法人日本病院会) 2004年8月号
銷夏随筆


 医療の質の確保が謳われて久しい。しかし、多くは「診療の質」が中心であるといえる。医療の質には、この「診療の質」とともに、「経営・運営の質」も内包されていることを忘れてはならないと思う。

 ある病院は、すばらしいアメニティー、豊富な人材、立派なコンピュータシステム、きめ細やかな最高の安全対策を備える。しかし、大きな赤字を抱えている。・・・公的機関ならばこの赤字は税金から補填ということなり、民間機関ならば破綻云々を考えなければならない。この病院が存続しているとしても、日本の医療にとっては全く普遍的な事例ではない。すなわち、特殊な事情から存続意義を見出される特異なケースであると言わざるを得ないのである。この病院を「質のいい病院」とあがめるマスコミにも問題があるに違いないと思う。

 いま企業の社会的責任という言葉が最近巷を騒がせている。Corporate Social Responsibility (CSR) という。どんなに好業績の企業であっても、環境への配慮を欠いたり、クレーム処理などの場で顧客対応に誠実さを欠いたりすると、それだけでCSRが低下し、社会からの格付けが下がってしまうという。最近の三菱自動車におけるクレーム処理やリコール隠しの問題は、まさにこれにあたるということになろう。

 私たちは、当然のことながら質と共に、患者安全や証拠に基づく医療( EBM )を見据えながら進んでいかなければならない。そして、それに加えCSRならぬ病院の社会的責任HSR( Hospital Social Responsibility )が求められていることを忘れてはならない。企業に課せられているCSRでは最も原則的なものとして「規範の遵守」、「製品(病院ではアウトカム)・サービスの提供」、「収益の確保と納税」、「株主利益の保護」であるという。これを医療機関に当てはめてみても、株式会社の責務としての「株主利益の保護」を除いてまったく同じものであると考えることができるのだ。
 このように質を語る時には、必ず診療の質と両輪となるべく経営の質を忘れてはならないと思う。社会に迷惑をかけず、間違いは潔く正し、自主自立の精神こそが、経営の質であり、病院運営陣の心意気なのだと思う。


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