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米管理医療で新型契約急増

医療機関を患者が選択医療費抑制に限界

日本経済新聞1999年1月15日朝刊国際面より

registration date: 1999.1.15


  米国で普及する管理医療(マネージドケア)で、患者が医療機関を自由に選べる新型の契約形態が急増している。保険料は割高だが医療機関を自由に選択できる特約医療団体(PPO)の加入が増える一方、保険料は低額だが診療機関や受診内容の制約が厳しい会員制健康医療団体(HMO)の加入は伸びが鈍ってきた。高齢化や医療技術の高度化で、良質な医療サービスを求める傾向が強まっているためだ。国民負担が高まるのは必至で、HMOをテコに市場原理で医療費を抑制しようとしてきた米政府は、補助金の積み増しなど政策転換を迫られる可能性がある。

AAHP  米保険医療協会(AAHP)によると、PPOの96年加入者は9,780万人。97年に1億人を突破したのは確実で、加入者は90年の3倍弱に増えた。一方、HMOの97年加入者は7,220万人で、90年の約2倍にとどまっている。

  PPOはHMOより保険料が割高であるものの、医療機関や専門医を患者が自由に選択できる。医薬品の処方を制限されるなどの制約も少ない。ただ特定グループ以外の病院や医師に診察してもらう場合は追加医療費を払う必要がある。病院や医師グループが企業向けに提供する事例が多く、完全自由選択型の一般医療保険に比べ保険料は1‐2割安い。

  また、HMOの変形で、従来型HMOとPPOの中間形態といわれる「ポイント・オブ・サービス」(POS)への加入も増えている。医療調査機関のヘキスト・マリオン・ルセルの調べでは、POSなど医療機関の選択自由度が高い「フレキシブル型HMO」の97年加入者数は1,760万人で、ここ3年で倍増した。大手会計事務所のKPMG・ピート・マーウィックによると、PPOやPOSの保険料は一人当たり月175ドル程度で、従来型HMOより10%程度高い。

  医療費増大による経営悪化で、大手HMO各社は99年の保険料を前年に比べ10%程度引き上げる見通し。このためPPOやPOSなど管理医療の運営形態の多様化は一段と進みそうだ。

  過度な医療費抑制のあおりで従来型HMOが提供する医療サービスの質が低下しているとの批判もあり、米政府は患者の権利確立に向けた対策を迫られている。医療のコスト管理に限界が見え始めたことで、高齢者向けの医療補助強化などを求める動きも出そうだ。

(シカゴ=千葉研)

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