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バイオ思考で日本に光

企業モデルの新地平−知識社会への戦略3・未来型企業とは(下):野村総合研究所(日本経済新聞 平成13年1月5日朝刊)より

registration date: 2001.1.6


<企業は人々に望まれるもの>

 従来、社会の進歩を支えたのは物理学・工学の導き出したリニア(1対1対応的)な世界観であり、自動車などの工業製品もその産物だ。しかし、こうした文明の利器は地球環境問題を生み、そのために企業や個人が世界観の転換を迫られている。細分化された専門ではなく、総合が求められている。有限の資源を認識した地球新時代にはリニアの発想とは異質で、多様性や複雑性をそのまま受け入れようとする生命科学的な世界観が有力になると思われる。

 マサチューセッツ工科大学(MIT)は21世紀企業組織について「それは人々が望むものだ」との基本概念を示す。そうした人間的な意味で新世紀の企業に求められるものはゆとりであり、自然との調和であろう。それには、生命科学が役立つのである。

<効率からゆとりへ>

 JT生命誌研究館の中村桂子副館長が以前示したある座標軸(1999年9月6日経済教室欄)が参考になる。縦軸を「効率→ゆとり」に、横軸を「自然→人工物」とすれば、ニュートン以降、従来は第V象限から第T象限へと一方的に「進歩」していた時代といえよう。一方、21世紀には逆に第T象限から第V象限へ、さらには第T象限から第U象限へと動きが多様化する可能性がある(図)。

 つまり、性格上金融のように第T象限にとどまる産業もあるが、環境産業、介護・保健福祉、農業、生活文化といった産業のように第V象限を目指すものも、オーダーメイド医療やバイオ農業のように第U象限を開発するものも現れる。こうした21世紀空間での発想が新たな企業モデルに示唆を与えよう。

 われわれは90年代を、創知・情報化に後れをとったことから「失われた十年」と呼んだが、「日本経済グリーン国富論」(東洋経済新報社)を著した三橋規宏氏は地球環境問題への対応では前進した十年だったと反論している。

<万物みな神と一致>

 ちなみにMITは学生に生物学の履修を義務づけた。それが21世紀の知の基底になると考えたからだ。生命科学の世界では人間も自然の一部という存在になる。生命工学(バイオテクノロジー)の進歩は、人間も昆虫と共通する遺伝子をもつことを示し、人間中心のキリスト教的な世界観に影響を与えている。

 一方、バイオの世界観は日本人が長い歴史の中で心に刻み込んできた「万物みな神」という世界観に一致する。バイオの時代は日本人の世界観がものをいう。未来型企業には、日本的世界観を創知・情報化に生かしていく工夫が望まれる。


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