医療福祉複合体の情報化戦略

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医療福祉複合体の情報化戦略

月刊「日経ヘルスケア」(日経BP社) 2000年9月号
病院経営セミナー

**一部のみ掲載;詳細は本誌をご参照ください**

日経ヘルスケア2000年9月号

  特別医療法人董仙会(石川県七尾市)では、医療・福祉にわたる様々な情報を統括したデータベースを構築し、今年6月、患者・利用者向けの総合相談窓口を立ち上げた。そのほかにも、サービスの効率化と質の向上のために、各種の情報システムを活用しているのが同法人の特徴だ。理事長を務める神野正博氏に、これまで開発したシステムについて解説してもらった。

(編集部)



サービスの複合化に情報システムの構築が不可欠

  董仙会は、関連の社会福祉法人徳充会と組織・運営を統合し、「けいじゅヘルスケアシステム」として、石川県内の5つの地域で、医療・福祉サービスを提供している。具体的には、本院の恵寿総合病院と療養型病床群の恵寿鳩ヶ丘病院、診療所(2ヵ所)、介護老人保健施設(2ヵ所)、介護老人福祉施設、ケアハウスなどの入院・入所施設のほか、訪問介護、訪問入浴介護、訪問看護、通所介護、通所リハビリテーション、福祉用具貸与、居宅介護支援などの在宅サービス関連の事業所を持つ。介護保険の指定を受けた施設・事業所は31に上る。以前は特定医療法人だったが、99年9月に特別医療法人の認可を受けたため、直営の介護ショップも開設し、営利事業として物販サービスも手掛けている。

表1  表1は、「けいじゅヘルスケアシステム」の行動指針だ。ネットワークの構築と情報管理の重要性もここに揚げているのは、経営の競争力を高めるためには、情報技術、つまりIT( Information Technology )の活用が不可欠だと考えているからだ。

  図1は、一般企業でのITを活用した経営の考え方を図式化したものだ(「日経情報ストラテジー」2000年8月号特集「新世紀IT経営100の勝因・敗因」から引用)。「技術やサービスを提供し、その対価として収入を得る」という点では、医療・福祉施設も一般企業と何ら変わるものではなく、ITが重要な武器になる。

  例えば、収益を拡大するためには、カスタマー・リレーションシップ・マネジメント( CRM; Customer Relationship Management )を実践することが大切だ。CRMは、顧客の差別化、顧客主義と訳され、すべての患者・利用者に均質・一律のサービスを提供するのではなく、「お得意さま」を重点的に扱い、サービスする手法である。

  「けいじゅヘルスケアシステム」では、ここの患者・利用者に対して、複数の事業所から医療と介護の両方のサービスを提供しているケースが少なくない。一人ひとりのニーズに見合ったサービスを的確に提供するためにも、患者・利用者のあらゆる情報を収集し、一元的に管理して、各事業所でその情報を共有するためのシステムが必要になる。

図1

  以上のような点を踏まえ、「けいじゅヘルスケアシステム」では99年9月に全施設・事業所間をオンライン化し。医療・福祉の各種情報を統合した情報システムを構築した。これを活用して、今月6月には医療・福祉の総合相談窓口として、患者・利用者向けのコールセンター(けいじゅサービスセンター)をスタートさせた。同センターは、三菱商事の子会社であり、医療・介護分野の経営サポートを行っているライフタイムパートナーズ(東京都千代田区)と共同で立ち上げたものだ。

「御用聞き」などがコールセンターの役割

  「おはようございます。こちらは『けいじゅサービスセンター』です。本日午後2時に訪問看護婦の○○が伺う予定になっておりますが、ご都合はいかがでしょうか。何かこちらで準備するものはございませんでしょうか。先日お買い求めになった杖のお加減はいかがでしょうか」。

  コールセンターでは、毎朝、その日に訪問する全利用者宅にこのような電話をかけている。同センターは、オペレーター5人の体制で午前7時30分から午後7時まで営業している。それ以外の時間は、担当ケアマネジャーの携帯電話などに転送して対応している。

  同センターが定期的に連絡をとる登録利用者は約1000人。これらは、主治医意見書を作成したり、在宅サービスを提供するなど、「けいじゅヘルスケアシステム」が何らかの形で介護保険のサービスを提供している利用者だ。

  5人のオペレーターが、各利用者の個人情報を把握した上で電話をかけることができるよう、データベースを構築した(図2)。「医療・保険・福祉・介護にやさしいシステム」を目指して作ったことから、これを「4・優( for you)」と呼んでいる。ライフタイムパートナーズが北陸コンピュータ・サービス(富山市)に依頼して開発したもので、利用者の個人情報(住所や生年月日などの基本情報、受診歴、要介護度、ケアプラン、介護環境など)や介護実績、物品販売実績、物品在庫状況、介護スタッフのスケジュールといった各種情報が蓄積されている。

図2

  登録利用者には、問題があった時にはこのコールセンターに連絡するよう伝えている。介護保険の指定を受けた計31の施設・事業所の苦情処理の窓口もこのコールセンターに一本化している。つまり、前述したような訪問当日の予定確認のための電話のほか、利用者からの相談や利用申し込み、物品注文への対応、クレーム処理などといった「御用聞き」とも言える業務を「4・優( for you)」を活用して行っている。利用者から寄せられたクレームをはじめ、業務の内容もすべてパソコンに入力し、「4・優( for you)」上にデータを蓄積していく。

  このほか、コールセンターでは、各事業所の職員が介護サービスを提供した実績の入力代行も行っている。サーにス提供にあたる職員の間接業務をできるだけ削減し、少しでも多くの時間を直接業務に当ててもらうことがその目的だ。

  各利用者宅へ訪問を終えた時点で職員はコールセンターに電話をかけ、オペレーターは電話の内容を基に実績をパソコンに入力する体制にしている。最近、サービス提供実績などを職員が現場で入力できる携帯情報端末が数多く開発されているが、携帯情報端末に入力するよりも電話のほうが簡便だ。このため、サービス提供にあたる職員は、現場で気付いた細かい点などもコールセンターのオペレーターに伝えることができ、より細かい情報の収集・分析が可能になっている。「4・優( for you)」上で入力された情報は後述するような各施設・事業所に設置している各種情報システムにフィードバックされる。介護報酬の請求システムとも連動しているため、請求業務の省力化にもつながっている。

  今後、コールセンターでは、医療関連の業務も徐々に手がけていく計画だ。例えば、検査の予約確認(MRIなどの検査当日に、予定通り来院できるか否かを電話で聞くこと)などを始めることを予定している。

表2

オンライン化でナレッジ・マネジメント実践

  略;本誌参照

SPDの導入などで大幅なコスト削減に成功

  略;本誌参照

電子カルテ導入は今後の課題

  略;本誌参照

  介護保険で新しいマーケットが誕生した今こそ、医療と介護を一元化した情報システムの構築により、医療・福祉サービスの複合体としての強みを発揮できる絶好の機会だと考えている。“ドッグイヤー”との言葉が使われるように、ITの進歩は早く、投資の手を休めるとすぐに立ち遅れてしまう。他の法人のまねではなく、情報化の目的を的確に見極め、今後も情報システムの見直し・再構築を続けていくつもりだ。

  なお、「けいじゅヘルスケアシステム」では、各ソフトウェア会社と共同で開発したシステムについて著作権を放棄している。その分、メーカーのシステムの販売価格が安価になるからだ。数多くの法人に購入してもらい、他の法人での導入後の実績を基に、システムをアップグレードしていくという考え方を持っている。


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