これが、「当病院は、注射器や薬品の鮮度にこだわっています」というコピーを作ったとしたら、「えっ!?」と思われる方も多いことだと思う。しかし、この両者の本質は同じ物であるように思う。「鮮度」を裏返せば、「古い商品がない」ということである。つまり、キーワードとして「在庫削減」である。必要なものが必要なときに、しかも必要な量だけ入荷されれば、当然の帰結として古い商品はなく、鮮度のいいものが提供できるということであう。Just in Time & Stockless(JITS)の発想である。
国の財政構造改革議論は、集票力や献金額に反比例して建設、郵政、大蔵分野は骨抜きにされつつある。そのような中で、医療・福祉分野での費用削減要求はますます大きくなってきた。実際、患者の自己負担も増えてきた。さらに、さる11月12日に提示された厚生省の診療報酬体系改革案においても、慢性期の包括払い制度や、患者からの保険外費用徴収案が明記されている。
このような状況下で、われわれ民間医療機関は従来の増患による経営安定化、すなわちマーケッティング的発想から脱却し、コスト管理による経営の安定化にいち早く取り組む時期に来ているものと思う。先のビール会社の例ばかりではなく、コンビニエンスストアーやスーパーマーケットなどの流通業や自動車産業などの製造業と、コスト管理の範となる一般企業は限りない。医療の世界は、公定料金であり、保険からの支払であるなどとその“特殊性”を自他ともに強調してきた。しかし、一般企業を範として、この“特殊性”からの脱却の時が来ているように思う。
当院では、平成6年来、このスタンスで業務改善(リエンジニアリング)を推し進めてきた。診療材料や薬剤の物流にJITSの発想で取り組んできた。さらに、この仕組みと診療情報の統合をはかり、すべての院内業務に対応したコンピューターネットワークを構築することができた。ここで蓄積した情報をもとにすれば、物流まで取り込んだ診療行為別・部門別のコスト管理体制が構築される。これは、来るべき包括払い制度(日本版DRG,PPS)を前にして必須の仕組みとなると確信している。
しかし、数年来の物流管理の過程で、旧来の医療職の中における変化への忌避感とともに、医療における規制と商慣習の壁も実感した。これからの時代に、お互いの生き残りをかけて旧来の制度を打ち破るか、既得権に固執するか・・・一歩足を踏み出すもの、「構造改革」という変化に対応するものが生き残っていくように思えてならない。