2000年
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西暦2000年に向けて
季刊「病院経営パラダイム」(第一製薬) VOL.6・1997年秋号
巻頭言
西暦2000年は、われわれ医療界のみならず、日本の経済、政治にとってきわめて大きな節目となる年になろうと思われる。医療界にとっては、言わずと知れた公的介護保険制度の施行時期であると共に、8月に発表された厚生省による医療保険制度抜本改革案(『21世紀の医療保険制度』)の導入目標年度である。さらに、国全体としての財政構造改革、規制緩和や省庁の統合再編問題も、ここに目標を置いているようである。
従来、強い官僚機構により、国民生活も企業活動も平等という名のもとで多くの規制で縛られ、守られてきた。いわば、護送船団方式と呼ばれる日本的社会主義経済下にあったといってもよいのではないだろうか。今後は、規制緩和イコール自由化であり、それはとりもなおさず、政府による財政的な援助を期待できないということを、強く認識しなければならないということになる。
このような背景のもと、われわれ医療機関が取り組まねばならない課題を私なりに整理し、列挙してみる。
1)補助金体質からの脱却
医療施設近代化整備事業、療養型病床転換事業などの政策的な補助金の廃止は当然予想される。施設のキャピタルコスト捻出のためには財務体質の強化が強く望まれる。
2)経費の削減
医療が人によるサービスである以上、人件費削減よりも薬品費、診療材料費の削減に向け、卸業者との間での攻防と、組織立った在庫削減努力が必要とされよう。また、各診療行為別に原価計算を徹底して、来る日本版DRG(定額制)に向けて部門毎の収益性を監視することが必要となろう。この結果、高原価分野に対しては思い切った撤退の道も視野に入れる必要が出てくるように思える。さらに、マスの効果を狙った共同購入グループやフランチャイズ制、M&A(吸収合併)も2000年以降の姿として見えてくる。
3)外注化と委託の獲得競争
病院本来の使命の外郭をなす部分の外注化は取り入れるべきであると考える。そして、逆に病院が健康・福祉・介護に関わる周辺分野に打って出て、委託の獲得努力を民間企業との間で競争する必要があるだろう。ここでは、介護保険における介護サービスの提供者という大きな市場と新規業態が待っている。
4)情報の共有化とスピード
病院内、病院外部門間での情報の共有化は患者サービスのみならず、経営効率化の面でも極めて重要である。したがって、情報機器の導入に躊躇すべきではないと考える。すでに蓄積された情報を引き出し・関連付け・加工するスピードはコンピューターが最も得意とする仕事であり、これを利用しない手はない。
5)癒しの環境
限りなく抑制された医療費の中で、ゆったりとした十分な空間と環境を提供できるか?自由競争下におけるホテルの室料と設備、部屋面積の関係を見れば一目瞭然である。
医療機関において、良質な環境を約束するならば、それは公定価格以外の収入源がなければ為し得ないことと思われる。その収入源として、税金を投入するのか(公的機関に対する普通交付税や赤字補填)、受益者に負担してもらうかである。民間医療機関においては、いかに後者の受益者負担を納得して払ってもらえる環境、サービスを提供できるかとということが鍵となっていくように思われる。