21世紀への変革期の今、2020年の病院に向けてわれわれが取り組まねばならないいくつかのキーワードに沿って予測・検証を試みたい。
しかし、この予測には二つの問題がある。一つは65歳以上を老年人口とするかということである。生産年齢人口が減少した場合、日本経済を支えるために、定年制の延長によって労働力を確保するか、外国に労働力を求めるかということになる。日本の国民性を考えると、前者が有力であり、老年人口そのものの定義を見直す必要がある。その結果、老年人口が2010年の水準、すなわち人口5人に1人ということになるやも知れない。それに伴って、65歳以上の就労人口に対する健康維持事業の伸びが期待される。
もう一つの問題として、国民負担率である。現代において、すでに医療費削減のバイアスが働いている。もちろん安易な自己負担化による医療費削減はわれわれ医療機関も、国民も納得できない問題であるが、ハイクオリティー・ハイコストから、ミドルクオリティー・ローコストの医療が求められてくる可能性がある。アメリカにおける保険会社主導の管理型医療(Managed Care)であるHMO(Health Management Organization)の流れがこれにあたる。これによって、医療機関は従来の増患による利益の確保、すなわちマーケッティング型経営から決別し、一つ一つの医療行為に対するヒト、モノ、カネの原価管理、すなわちコスト管理型の経営に移行せざるを得ないと思われる。
さらに規制緩和に物流の改革を望みたい。現代の「鮮度にこだわる」Aビールのマーケッティングの成功と高収益は裏返せば、在庫削減である。在庫が減れば鮮度がよくなる。病院の在庫削減努力はA社以上の以上の効果を期待できる。病院側の努力とともに、代理店制度、特約店制度などの複雑な医療材料や薬剤の物流の改革、輸入規制の撤廃は薬価差以上に経営の強化に役立つものと期待する。
情報化の道具として、コンピューターとそのネットワークの進展は2020年ではあたり前の姿として予想される。当然、現在議論されている電子化されたカルテは導入される。電子情報はその迅速性、検索性、さらに加工性に優れ、さまざまな角度からの分析が可能になる。
これにより、医療の質として、患者を取り囲む情報の共有化が図られ、医療スタッフは「みんなが、あなたの情報を知っている」状況を創り出すことができる。さらに、電子化されたクリティカルパスの確立により、医師の診断・治療の過程で絶えず修正が加えられ、均一化した医療提供が可能となろう。
また、電子化された情報はネットワークを介して、容易に参照可能となる。これにより、カルテ開示を含めた情報公開が一気に進み得るように思う。しかし、情報公開による見た側の自己責任、すなわち「見てしまった後、どうするか」といった点に対する心理的アプローチやカウンセリングに対する議論が我が国の現状ではまったくない。この点の議論、バックアップ体制の拡充が望まれる。
医療機関経営上のメリットとして、情報の保存にかかわるスペースとコストは紙情報に比べて、格段に削減できる。それ以上に、先に記述したコスト管理面におけるメリットは計り知れない。一つ一つの医療行為に対する按分率を決定することにより、電子化された情報は容易にコストの分配を行うことができる。これにより、経営資源の再配分が可能になってくるものと確信する。