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医療保険改革と生保 −我田引水(?)の弁−

市来治海著(月刊スミセイ・エコノミック・レビュー、住友生命総合研究所12月号1997年)より

registration date: 1997.12.1


(巻頭言:東風西風)

9月から新医療保険制度が実施された。今回の改正は、近年急速に悪化したわが国の医療保険制度の財政改善に焦点を絞り、それを主とした患者負担の増大(現行の2〜3倍)によって当面のピンチを乗り切ろうというものである。

これに続いて、8月末、与党の医療保険改革の最終報告がまとめられた。この案の最大の目玉は今後の医療費急増の最大の要因となり得る高齢者保険の独立化であるが、その他にも薬価差益の解消、診療報酬への定額払い制の導入等、これまで懸案だった分野にある程度のメスが入った。しかし、一方で8月7日に出された厚生省の「抜本改革案」のうち特に国民の反発が強かった患者負担の大幅引き上げははじめから棚上げし、未解決のまま残された。

ところで、わが国と同じく医療費高騰に悩まされている米国では今回の与党案と同じように高齢者保険は独立(メディケア)して、年金とも共通したフレームにより社会保障税を財源として、政府が全面的に介入する形で運営されており、他方、現役世代の健康保険は民間の企業間ベースの契約に任されている。そして民間健保の担い手のヘルスケア会社、保険会社等による管理医療(マネジド・ケア)は医療費抑制にかなりの実績を上げている。

これらの事実は、わが国でも十分参考に値するのではないかと思われる。ただし、米国の問題は3000万人を超す無保険者の存在であり、これは企業の利潤原理の行き過ぎと考えざるを得ない。したがってその点についての一定の公的介入・補助による国民皆保険制度堅持を前提として、特に現在加入者3000万人を超える組合健保を民営化してはどうか?この場合、保険者と医療サービス提供の仲介をかねるオルガナイザーが必要となってくるが、その担い手としては民間の生・損保会社が有力な候補となり得よう。すでに医療保険販売の実績もかなりあり、また全国に存在する審査医のネットワーク(生保)、代理店網(損保)の存在等を考えれば、わが国におけるマネジド・ケアの担い手として生・損保を想定することはごく自然なことと考えられまいか?以上、「我田引水」とのお叱りを承知であえて提言した


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