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医療経営に課せられる「低コスト」と「高品質」

週刊「医療タイムス」(医療タイムス社) 2004年1月5日号(No.1653)
特別寄稿  変化の時代 どう乗り切る? 第一線の医療関係者が直言


 時代から構造改革が求められている。確かに、従来の経済成長は期待できず、しかも少子高齢化をはじめとして、人口減少、労働力人口の多様化、製造業の変身、価値観の多様化などP.F.ドラッカーのいう「異質な社会(ネクスト・ソサエティー)」が起こりつつあるからだ。医療の分野においても、社会からのニーズも医療消費者である患者の価値観も変わってきた以上、各病院は自助努力として生き残りのための構造改革を迫られているといえよう。

 特に、国による医療費削減は医療機関の経営を逼迫し、強力なコスト削減努力を強いられる。これに対して、患者にとっては自己負担率が上昇することによってコスト意識が生まれ、価格上昇に見合った品質を求められてきているのである。すなわち、われわれは「低コストで高い品質」の提供を求められているのである。

 「低コスト」のためには、業務の見直しとともに効率性を求めた運営が求められ、病院組織そのものの見直しを迫られているといってよいだろう。また、「高い品質」のためには1)患者安全、2)医療の質の向上と信頼の確保、3)証拠に基づく医療(EBM) の取り組みなどを挙げることができるだろう。

 これら全てを実現する打ち出の小槌は存在するのであろうか?決して存在しないと思う。しかし、そのヒントは厳しい経済情勢の中で生き残ってきた産業界にあるかもしれない。例えば、医療の安全のために複数の人間によるチェック体制は、医療界では強化される傾向にある。しかし、産業界においては工程を減らすことや、ベルトコンベヤーで無責任に後工程に製品を送ることをやめ、個人が責任を持ってひとつの製品を作り上げる体制にすることなどによって、チェック体制を削減させながら製品の品質は向上してきているという。それ以上に、産業界で当たり前に利用されているITとその導入に向かっての様々な見直しのプロセスは、これからわれわれが進んでいかなければならないフィールドへの近道のひとつと確信する。

 ITそのものは、あくまでもデータを蓄積する道具に過ぎないだろう。データを情報とするためには、人間の判断が必要になる。さらに、その情報から知識や知恵を創造するのは決してITにはできないことなのである。また、IT化を進めるにあたって、自院における過去の業務流れや意思決定の流れをそのまま踏襲したIT化は混乱を招き、しかも価格的な無駄の発生も予想される。IT化を契機にした業務の見直し、組織の見直し、無駄の排除などの構造改革があってこそ、成功しうるものと思われる。

 医療経営が厳しき折に、IT化の投資に耐えられるかが議論になるものと思われる。しかし、やるべき方向性に向かって、最小の投資で最大の効果を得るためには、ハードウェアとしてのIT化は必須のものであり、その上でITを黒船として組織の役割やその運営方法の見直しなど自院のソフトウェアの強化を図っていくことが良策と思われる。自院の職員が培ってきた知識をITに移植する工程だけでも病院全体としての知識が共有され、結合されるに違いない。また、IT化によって、ミスをシステム的に予防すると同時に、転記などの業務工数を削減するなどを通して、無駄を省き安全を担保できるに違いない。

 そもそも医療経営者の目指すところに変わりはないと思う。そこへの道筋が何本もあるのであろう。道に迷い回り道しようが最短ルートを通ろうが、われわれは社会的責任としての法令・社会規範の遵守、成果の提供、収益の確保と納税を忘れることなく、今年もチャレンジしていきたいものである。


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