医療制度改革の荒波は否応なく病院経営に降りかかる。そこでは生き残りを賭けた必死の効率化が要求される。われわれは、従来、顧客(患者)満足( CS: Custmer's Satisfaction )、職員満足( ES: Employee's Satisfaction )、さらには紹介者満足( DS: Dealer's Satisfaction )などの視点から選ばれる病院づくりを努力してきた。しかし、現在求められているのは社会満足( SS: Social Satisfaction )かも知れない。社会が病院に何を求めているか。安価な医療なのか、質の高い医療なのか、コンビニエンスな医療なのか・・・。また、安全、快適、透明性・・・。数々のキーワードがマスコミをにぎわす。そのなかで、社会のニーズを的確に捉え、いち早く適応していくことが必要となるだろう。そして、社会から病院の価値を見放されたときには、われわれは舞台から降りなければならないのかもしれない。
業務の効率化を目指すことは経営上からも、職員の仕事に対する動機づけからもきわめて重要なことであろう。すなわち、本来業務( Core Mission )に特化することを目指すことは、効率化とともに職員のやる気を引き出し、強い組織作りに寄与するものと思われる。
そこでは、常に作業効率と経営効率の面から改善活動が行われるべきであり、一方のみの取り組みでは強い組織づくりとはいかないものと考える。また、これらの改善活動は、トップダウンの取り組みとボトムアップの取り組みが対になるべきであると考える。トップは経営効率に走り、ボトムは作業効率に走りがちである。しかし、両者が対となれねば、改善の成否は危うくなるものであろうし、変化の時代のスピードに速やかに適応できないものと考える。
1.自院における品質管理活動
旧来からの症例検討会やCPC( Clinico-Pathologic Conference )も臨床の場という医療そのものの質の改善ツールであることをまず確認したい。また、クリニカルパスも在院日数の短縮化や患者に対する情報提示というメリットのほかに、自院における標準化された医療の提示という意味で、いわば品質保証書としての意義も大きいと考えられる。さらに、医療機関という組織の中で臨床の場以外のサービス部門を含めた品質改善の活動としてTQC活動は産業界からの最も学ぶべきツールとなろう。
また、今後DRG( Diagnostic Related Groups )に対応した原価管理手法やEBM( Evidence Based Medicine )といった考え方も、医療経営の視点とともに、品質保証に重要な意義を持ってくるものと考えられる。
2.他院とのベンチマーキング(比較検討)
自院における活動のみならず、他院と同じ土俵で比較検討することにより、その病院が持つ長所・短所を明らかにして品質の改善につなげていくことが重要であると考える。そのツールとしては各種病院団体による調査への参加や当院も加盟するVHJ( Voluntary Hospitals of Japan )等の病院の自主的研究グループによる取り組みがあげられよう。
3.第三者評価
財団法人日本医療機能評価機構による第三者評価事業や国際標準規格としてISO( International Organization for Standardization )などが知られている。医療品質の評価をその@構造、A結果、B過程に分けるという考え方がDonabedianらによって示されている。前者の医療機能評価機構の現行評価基準は「構造」に重きをおいた評価と思われる。当院も平成9年度に認定証の発行を受け、平成14年3月現在、全国で638病院に認定証が発行されている。後者のISOでは品質システムとしての設計、開発、製造、工程などの各要素で手順書、管理査証体制が求められてくる。品質評価の「過程」に重きをおいた規格と思われる。生産工程を中心とするISO 9000シリーズのほか、医療界では環境を中心にしたISO 14000シリーズが、さらに今後発表されるプライバシー保護に関する認証基準が主流になるやも知れない。
4.患者による評価
アンケート調査、あるいは「投書箱」「ご意見箱」といったものにより、患者のニーズを取り上げ、それを品質管理に結びつける手法である。同時に、地域別患者シェア調査や診療圏調査などは意見とならない患者心理に基づいた実態による評価といえるかも知れない。
本稿では、TQC活動について詳述したい。上記のように、TQC活動はあくまでも品質管理活動のひとつのツールであり、すべてではないことを強調したい。TQC活動が他の活動と相まってこそ、その効力を発するものと考える。
当院では昭和63年3月に「ふれあいサークル活動」として導入し、現在41サークルが活動している。さる3月に第28回の発表大会を終えた。TQC活動は@顧客指向、A全員参加、B科学的、合理的解析手法、C小集団としてのQCサークル主体 の4つを原則としている。この4原則からも明らかなように、TQCの手法はトップダウンではなく、ボトムアップの品質管理運動である。現場各部署における小単位のQCサークルは、自部署における業務、患者サービス上の問題点をあげ、これをQC手法と呼ばれる客観的データを重んじる解析法で解決策を模索し評価する。だれでも、QC手法に則ればそれなりの結果を生む出せるといった特徴がある。当院では、この活動から在庫管理、待ち時間の短縮、伝達業務の見直し、サービス改善など数多くの成果を上げてきた。
当院のQCサークルの活動方針を紹介しておく。
一、患者様本意のサービスを積極的に提供しよう
一、人間性を尊重した生きがいのある明るい職場づくりをしよう
一、自己研鑽を積みチャレンジ精神を発揮しよう
最近、TQC活動から撤退する企業、病院が多いと聞く。そこでは現場で全く問題点がなくなったとは考えにくい。しかし、閉塞感が出てきていることも事実のようである。というのは、小単位のサークルでの問題解決努力では企業全体のシステムや業務の見直しにつながらないことや、せっかくの問題解決が他の部署で取り入れられない(水平展開できない)ことなどが問題となってくる。さらに、企業や医療を取り巻く環境の変化のスピードはボトムアップを待っていられないという心理が経営側にも働いているようにも思う。
いずれにしても、現場に問題点はなくなるわけでもないし、経営者がすべての現場の業務に精通するわけにもいかない以上、TQC活動を存続させていく意義は十分にあると思われる。
そのような中、トップダウン的な要素も取り入れて、平成11年度から当院では、病院における経営方針とリンクさせたTQC活動へと進化していった。当院では、中期的に継続する基本方針として、「評判の向上」「お客様満足の向上」「経営の健全性向上」をあげ、これに加えて単年度の事業目標を挙げている。もちろん、QCとは別にこれら継続基本方針ならびに年度方針を各部署における事業計画へ落とし込みむものとし、部署単位で行動目標、有形成果目標、無形成果目標とそのタイムスケジュールを作成し、提出と説明を求めている。これら目標管理とTQC活動が有機的に関連することによって、TQC活動は目標に対しての有形効果の評価の一指標となっていくことが想定される。
病院組織活性化のためには、トップからの明確なビジョンの提示が必須であると考える。ビジョンがないままで組織の活性化はあり得ない。そこでは、従来の現場における継続的なPDCA( Plan・Do・Check・Action )サイクルに加え、Seeとして、トップや本部機構によって評価し、見守ることがことが必要であると思われる。TQC活動とその発表大会は、Seeの一つの場を提供してくれるに違いない。
質の改善運動と同様に組織の活性化は一つのツールだけに頼るわけにいかない。TQCはほんの一つのツールであり、同時に部署別の業績評価制度やさらに個人別の業績評価制度などと組み合わせて、お互いが補填しあう仕組みを作り出す必要があろう。
事例の紹介
平成13年度のTQC活動の一覧を示す(資料2)。今回、この中から「経営の健全性向上」という基本方針に則った当院用度課の発表事例を提示する(略)。
資料2:平成13年度QCテーマ一覧 | ||
部署 | サークル名 | テーマ名 |
外来看護部 | 秋桜 | 外来患者様の待ち時間による不満の軽減をするために |
検査課 | ステップ | 患者様により質の高い検査を提供するには |
和光苑 | 和 | 毎回おいしいご飯を炊く為に |
3病棟4階 | りべんじ | 看護基礎情報を有効に活用する |
恵寿健康管理センター | Healthy | 恵寿健康管理センターを、より多くの皆様に利用して頂くためには |
2病棟3階 | Intensive | 時間外入院患者様家族への入院時オリエンテーションをスムーズに行うには |
2病棟4階 | Stroke Unit | セルフケア不足(清潔のニーズ)の充足 |
薬局 | HP | ”病棟業務拡大” |
用度・経理課 | ひらめき | 不要品を有効活用するには |
こばと保育園 | はとポッポ | より良い保育環境作りを目指して |
中央材料室・手術室 | パチンコ2 | 中央材料部における消毒、滅菌を見直す(ムダをなくし効果的に消毒、滅菌するために) |
田鶴浜診療所 | さつき | 入院患者様に楽しく食事をしていただくには |
1病棟4階 | ひまわり | 受け持ちナースとしての意識付けを図る |
鳩ケ丘病院 | は〜と | 残さず、きれいに! |
2病棟5階 | かめさんPSRTU | 看護ワークシートの点数もれをなくす |
鶴友苑 | 若葉 | ティータイムを家庭的な雰囲気の中で過ごしていただく為には |
OT | OT手つないで | 快適な座位姿勢とは〜患者様のレベルに合った椅子の選定を目指すため〜 |
透析室 | キンダリーマーチ | 分冊診療録をいつでも誰でも直ぐに取り出せる(action・actioninに関かわらず、必要な診療録等をすばやく用意できる保管を考える) |
ST | ラーンナー | 摂食機能療法を算定するには |
PT | 翼 | 訓練の待ち時間を減らすには |
1病棟3階 | 新選組 | 患者様、ご家族に安心して入院生活を送ってもらうには(入院時ご案内ファイルの見直し) |
3病棟3階 | あし束 | 応対の向上 〜ナースコール応対〜 |
ほのぼの | つくしんぼ | スムーズな入浴をめざして |
5病棟3階 | GO SAN(ゴーサン) | 患者様が入院生活を満足していただける病棟にするには(聞き取りアンケートに基づいた改善) |
食事サービス課 | ニュートリシャン | 作業能率の向上(食器の配置などを見直す) |
サービス課(電話交換室) | もしもし | コードレス電話と上手に付き合っていくためには |
施設管理課 | ピカピカ | ゴミ集積場をきれいにしましょう |
鳥屋診療所 | 鳥屋フィッシーズ | 医療事故の発生を防止するには |
医事課 | ACE(エース) | 笑顔で応対(患者様が気持ちよく話し掛けられるような受付を目指す) |
放射線部 | X-レント | 外来予約患者様のX線・CT検査の待ち時間を少なくしよう |
SMI | フロンティア | 大腸内視鏡検査を受ける患者様の不安を軽減するには |
3病棟2階 | うぶごえ | リピーター(お得意様)を増やすための施策を実施する |
和光苑 | 温 | 「接遇」を見直して |
鳩ケ丘病院 | ささゆり | 病棟レクリエーションの参加人数を増やし充実をはかる |
5病棟4階 | いきいき | レクリエーションの見直し |