Case 1 法人運営にプラスとなる収益事業を展開すべき
特別医療法人即仁会北広島病院 医業経営研究所所長 竹内 實
Case 2 医療の非営利性を具現する特定・特別医療法人の有用性に着目
特定・特別医療法人福島厚生会 理事長 星野俊一
Case 3 カスタマー・リレーションシップ・マネジメントの柱として
特定・特別医療法人財団董仙会恵寿総合病院 理事長・院長 神野正博
そもそも、医療法上で、医療は非営利であると謳われている。その中で、昨今の構造改革の象徴としての株式会社、すなわち営利法人の参入は医療法そのものを否定するものであるという議論が多い。しかし、平成10年4月から施行された第三次医療法改正で、逆に収益事業を営める特別医療法人制度が制定されたわけである。
表に法人形態の分類を示す。この中で病院を設立し得る公益法人たる学校法人、社会福祉法人、宗教法人は、既に収益事業を実施していたことを確認したい。これら法人においては法人税法において収益事業による所得に対して22.0%の税率を課すことが決められていたわけである。医療法人のみにおいて収益事業を否定されていたことは、制度上の矛盾を指摘せざるを得ない。しかも、収益事業を行うためには、新たに特別医療法人の認可が必要になること自体、法の公平性を欠くものであったのかもしれない。このような見方をすると、本制度は医療法人を他の公益法人にわずかばかり近づけたものとなり、将来的にすべての医療法人に拡げても何ら制度上の矛盾は生じるものではなく、さらに税の面からは特定医療法人制度とも統合してもいい制度であると思われる。
特に、現行の税制度において法人の経営形態と税負担という観点に立つと、先に述べたように公益法人たる医療法人が法人税の部分では株式会社に相当し、配当に関しては公益法人に相当すると分類される。しかも、持分のある社団においては相続税も課税されている事実を見れば、個人経営という形態になるのである。そういった意味からしても、特別医療法人制度は、法人税を減免される特定医療法人やその他の公益法人との整合性、公正性を検討していく必要があろう。
表 法人形態の分類
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非営利 |
営利 |
公益 |
(広義の)公益法人 社団法人(民法) 財団法人(民法) 学校法人(私立学校法) 社会福祉法人(社会福祉事業法) 宗教法人(宗教法人法) 医療法人(医療法) 更生保護法人(更生保護事業法) 特定非営利活動法人(特定非営利活動促進法) |
公共企業 電気会社(商法・個別事業法) ガス会社(商法・個別事業法) 鉄道会社(商法・個別事業法) |
非公益 |
中間法人 信用金庫(信用金庫法) 協同組合(各種の協同組合法) 共済組合(各種の共済組合法) |
営利企業 合名会社(商法) 合資会社(商法) 有限会社(有限会社法) 相互会社(保険業法) |
メリットとしては次の3点に集約できよう
1)社会的信用の高揚
より公的なイメージがあり、他の医療法人との差別化が図られる。また、同族支配や院長支配ではない地域に開かれた病院ということで、患者や従業員の意識の高揚を期待できる。
2)病院経営の安定化
病院の永続性の確保。
3)収益業務の中で多角経営の機会が得られる。
次にデメリットとして、
1)申請の煩雑さ
2)理事長の年収制限と公務員に準じた給与規定は時代にそぐわない
などが挙げられよう。
その実態はなかなか表に出てこない現状であるが、一部の医療法人ではMS( medical service )法人を設立し、医療材料や薬品、さらに病院の土地や建物を所有する形態もある。そういった意味で、MS法人が医療法人理事長本人や同族により経営されているならば、実質的に営利事業者であることになる。これに対して、特別医療法人制度は、当然のことながら法人そのもので営利事業を行うものである。
その収益の帰着ならびに運用方法は自ずと異なってくると考える。MS法人において利益は、MS法人の役員ならびに株式会社ならば株主へ配当という形で還元される。MS法人と医療法人に連結決算を強いた場合、現状の民間赤字病院数が大幅に減少するかもしれない。これに対して、特別医療法人の収益業務はオープンとなる。しかも、その収益は医療法人の資本に組み入れられることとなる。
将来的に法人を現状維持していくのみであるならば、MS法人設立により創業者である個人財産を増やしていくのは戦略として否定するものではない。しかし、当法人ではMS法人を持たない。しかも、今後IT化をはじめ中・長期計画を遂行していくためには、多くの資本を必要とする。特別医療法人化は法人の収益体質の強化と資本の蓄積につながっていくものと思われる。
当法人は、すでに昭和44年3月に、特定医療法人の認可を受けていた。特別医療法人制度に、特定医療法人からの認可に条件面で何ら問題はないと判断された。唯一、法人税率(特に収益業に関して)の問題が存在した。これに対しての回答は、当時様々であり混乱を極めたことは事実である。しかし、解釈が異なっても大きな問題ではないと判断し、平成10年6月の法人理事会で、特別医療法人化に対しての了承を得て、直ちに行政との交渉に入った。その後の行政側の混乱と対応の遅さは多くの事例と同様である。
時同じくして、関連社会福祉法人における特別養護老人ホーム(現・介護老人福祉施設)、ならびにケアハウス建設の構想が持ち上がった。建設地を含め、様々な議論がなされた。特に建設地を郊外の広い敷地を求めて開設するか、市街地の老人保健施設に併設された医療法人が所有する駐車場用地を転用するかということで賛否両論が戦わされた。
ここで特別医療法人業務として、社会福祉法人からの給食受託案が浮上した。これにより一気に建設地は医療法人立老人保健施設の隣接地とし、廊下で両施設を連結するものとした。社会福祉法人側には給食施設を設けないことで、土地の有効活用を図ることとしたのである。
特別医療法人の認可は、平成11年9月となり、結果的には特養ホーム竣工と同時ということになった。これにより、認可とともに、収益事業としての給食業務が始まったわけである。
前述の給食業務のほかに、平成12年6月より恵寿総合病院の増改築とともに、院内に法人直営の健康福祉ショップ「めぐみ」をオープンさせた。ここに、法人組織に販売課を新設した。ここでは介護保険における福祉用具貸与事業所の役割も担っている。実際、福祉用具のほかコンタクトレンズや万歩計などの医療用具、寝具、紙おむつ、健康関連の書籍、癒し系のCDなど、店内に約500点のアイテムを展示販売している。その他にカタログ販売も実施しており、約5,000点のアイテムの取り扱いを行っている。
これら販売データは、医療側の電子カルテシステムで扱う患者情報、介護側の管理システムなどとリンクし、当法人全施設をオンラインで結ぶ約700台のコンピュータネットワーク内で共有できるものとした。さらに、「めぐみ」と同時にオープンさせた介護業務のコールセンター(けいじゅサービスセンター)で電話による販売も行っている。また、同年7月からはインターネットによる販売事業も開始した。
さらに、平成15年6月には先の介護老人福祉施設のみならず、給食を提供する全入院、入所、通所施設の食材1日約3,200食を一括して生産し、真腔パックやチルド状態で配食するセントラルキッチン「けいじゅデリカサプライセンター」を特別医療法人直営で開設した。法人内の食材に関しては会計的には内部留保であるが、関連する社会福祉法人への配食は特別医療法人の収益業務となる。
平成15年度決算においては、福祉用具貸与を除く販売部門と、外販対象となるセントラルキッチン部門(開設後10か月分)の合計は約1.5億円に過ぎず、法人全所得の1.7%程度にすぎない。しかし、本制度は法人としての本来業務( core mission )の多様化以上に、顧客情報を有効に使ってマーケティング活動を行うCRM( customer relationship management )活動の柱となってくるものと思われる。
すなわち、われわれは単に医療や福祉サービスを提供するだけではなく、われわれ専門家集団だからこそ提供できる医療・福祉の患者・利用者一人ひとりのニーズにあった健康福祉用具や個別の配食サービスなどといった周辺ビジネスの機会を得たことになるわけである。医療費抑制の波の中で、われわれには数ある収益チャンネルの一つとして、この分野の占める割合を今後さらに拡大していく戦略と戦術が求められてくると思われる。。