医療経営Archives

病院の憂うつ

シリーズ:病める医療(日本経済新聞 1997年1月19日朝刊)より

registration date: 1997.1.21


(記事)

鹿児島市の吉沢病院(仮名、約40ベッド)は昨年5月、市内で手広く病院を経営する財団法人の傘下に入った。財団が病院の土地と建物を借り、経営管理を取り仕切る。吉沢院長は一国一城のあるじから雇われの身となった。

「診療に専念」

赤字で"身売り"したわけではない。20年以上、黒字経営を続けてきた。財団に話を持ち掛けたのは院長自身だった。「目まぐるしく変わる医療制度や厚生行政についていけなくなった。これからは診療に専念し、経営は財団に任せたい」と打ち明けた。
東京・臨海副都心。聖マリアンナ医科大学の大矢和光講師は昨年夏、テレコムセンタービル内に診療所を開いた。三井物産グループが始めた新サービス「開業医パッケージ」の利用者第一号だ。
「昔ならどんぶり勘定でも開業できたが、今は細かな経営設計がないと成り立たない」(大矢氏)。医療機器の選定や家賃交渉、市場予測をパックにした物産子会社のサービスが頼りになった。
病院のかじ取りに悩む経営者が増えている。日本の病院は医者による経営が原則。しかし日々の診療に追われ、経営管理に手が回らない。
病院の収入源である診療報酬がどんどん上がった70−80年代までは何とかなった。しかし、国の医療費抑制政策で診療報酬の伸びが鈍り、人件費が総費用の5割を閉める高コスト構造が経営にのしかかってきた。全国公私病院連盟によると、95年は全国で7割の病院が赤字だ。

企業の手法導入

経営面で医者を支える人材も不足がちだ。
2月15日。国際福祉大学(栃木県大田原市)の入試に病院職員などが挑戦する見通しだ。めざすは「医療経営管理学科」。財務や人事、医薬品流通論やマーケティングを教える。
社会人など特別選抜の定員は10人。経営改善に意欲的な病院の関心は高い。しかし、高橋淑郎教授は「大多数の院長にとって"いい事務長"とは、今でも指示に忠実なイエスマンだ」と指摘する。
民間企業の手法を導入し、事務職員のやる気を高めて経営の効率化につなげようという試みもある

(後略)

企業による病院経営の解禁は行政改革委員会の規制緩和論議でもテーマとなったが、日本医師会は「医療の質を下げる」と反発、実現のめどは立っていない。

(後略)


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