日本では、現在、病院や診療所の経営母体である医療法人の理事長は、原則として医師か歯科医師でなければならない。だが、高齢者会を迎えて医療保険財政の逼迫は病院経営を直撃している。特に100床前後の中小民間病院は八方ふさがりの状況に陥っている。
そんなおり、経営について素人の医師に経営トップを任せきりでは、難局を乗り切るのに限界があるという声が近年高まってきていた。加えて規制緩和の大合唱に押される格好で、厚生省もこのほど一応の結論を出した−という経緯だ。
議論の発端は、1996年末に経団連が出した医療分野での規制緩和要望にさかのぼる。「民間企業による病院経営解禁」を近いうちに実施すべきだと厚生省に申し入れたのだ。これに対して厚生省は、97年初め、全面解禁に難色を示したものの、97年度中の理事長要件の緩和計画を発表した。そこで、経済界側は一歩譲って、高齢化時代をにらみ病院ビジネスへの参入の足がかりとして、緩和の内容に期待し注目していたのである。
しかし、今回発表された規制緩和の内容は、経済界にとってとても満足できるものではない。いかにして規制緩和を骨抜きにするか、という姿勢しかうかがえないと言ってもいい代物だ。病院経営の民間企業への開放を求める声は、再び高くなるだろう。
そもそも今回の理事長要件の見直しは、閉塞感漂う病院経営を医師以外の多様な人材で活性化し、患者サービスの向上を図ろうとするものであったはずだ。にもかかわらず、なぜ経営が安定化していて機能面でも充実している病院でなければ、医師以外の理事長であってはならないのか。むしろ、経営状態が思わしくなく機能面で劣っている病院こそ、他産業での経営者による新鮮なリーダーシップで改革を推進すべきではないのか。
さらに3分の2を占める医師理事の専任、公益法人や社会福祉法人の役員経験者や公的医療機関などの経営経験者、さらに大学教授などであれば、医師免許がなくても理事長に適任であるという点にも驚きを隠せない。厚生省は、本気でこうした人たちが医療サービス向上の切り札となるリーダーにふさわしいと考えているのだろうか。そうであるならば、産業界はもっと声を大にして、病院経営の規制緩和を厚生省に迫らなければならない。
また、もっと多くの企業が病院経営に関心を持つべきだと思う。厳しい競争の中で培った顧客サービス向上の知恵を、ぬるま湯にどっぷりつかった病院に知らしめるべきだ。
確かに、大資本による営利主義の導入は、採算性の悪い医療の切り捨てにつながるとの声もある。しかし、今のままでは、本来採算が合う医療さえ不採算にしてしまう病院経営が続くマイナスの方が、はるかに大きいと感じざるを得ない。