My Articles

質向上と効率性追求の延長に新会計基準導入という必然
董仙会はなぜ、先駆けて会計基準を変えたのか−@会計基準変更に至る戦略論

隔週刊「全日病ニュース」(社団法人全日本病院協会) 第604号・2004年10月15日号
シリーズ:病院経営の改革に取り組む


病院経営の改革に取り組む●第4回 新会計基準の導入@
恵寿総合病院は新会計基準(グローバルスタンダード)にしたがって平成12年度決算を行なった結果、巨額の特別損失を計上した。なぜ、そこまでして病院会計に新たな基準を採用したか? それは、業務改革とIT化に、外部企業との共同開発が必要であり、パートナーとの間に共通言語が不可欠であったからだ。この、外部企業と連携したビジネスモデルこそ、法人とそのグループ(けいじゅヘルスケアシステム)が、質を確保して存続し続ける上で重要な戦略領域であると考えている。

【けいじゅヘルスケアシステムの概要】

 昭和9年に設立された神野病院(現・恵寿総合病院)を核とした特別医療法人財団董仙会と社会福祉法人徳充会を「けいじゅヘルスケアシステム」と総称し、急性期から慢性期医療、在宅医療、介護、福祉までのさまざまなメニューを提示している。
 グループは、石川県七尾市を中心とした半径45km圏に、総合病院(454床)、療養型病院(143床)を核として、2診療所、2介護老人保健施設、介護老人福祉施設、2身体障害者施設、短期入所施設、ケアハウス、3デイサービスセンターなどを運営している。入院・入所定員は1,182床となる。
 また、これら施設への食事の提供のために、特別医療法人直営による給食工場(セントラルキッチン)を経営している。
 そして、患者や利用者へ病期に応じた治療やサービスを一元的に提供できるように、上記施設群をオンライン回線で結び、IT基盤のもとですべての情報を共有するようにしている。さらに、このIT基盤を利用し、すべての利用者を対象としたコールセンターを運用している。
 総合病院には、CCU(集中治療室管理)、ICU・SCU、一般病床、亜急性期病床、回復期リハビリテーション病棟、特殊疾患療養病床、さらに開放病床を有している。


●巨額の特別損失計上を伴った新会計基準

 当時の監査法人太田昭和センチュリーに依頼し、平成12年度決算を、それまでの病院会計準則の税務基準から新会計基準(グローバルスタンダード)のもとで執り行った。その結果、退職給付会計で、前期までの相当額約9億円と当期約2億円の計約11億円もの引当を要し、大きな特別損失を計上することになった。

●なぜ新会計基準なのか?

 私は財務のプロではない。しかし、ものごとを単純に見つめなおしてみると、なぜ会計基準によって法人負債額が異なるのか、それも億の単位で異なるのか、その不可解さに気がつかされる。もちろん、会計基準は「定義」の問題であるから、「定義」を変えれば多少の相違が出るのはやむ得ないものではあるが。
 そこで私は、単純に病院会計準則(税務基準)と新会計基準を見比べて、どちらかが不利であるというならば、不利な基準にこそ真実があり、隠れ負債が存在しているに違いないと思ったのである。
 この2つの基準は、将来に必ずかかってくる負債(費用) を今から計上しておくべきなのか、支払いが発生したときに損金計上し、将来のことは将来に先送りすれば何とかなるであろうと楽天的な考え方で行くかということらしい、と理解したのである。
 既に平成12年度は、医療費改悪の狼煙は上がり、これ以降の病院経営に明るい兆しは期待できないように思われた。ならば、できる時に、いや、できるうちにこそ将来の憂いを取り除こうと判断したのだった。

●そもそもなぜ新会計基準なのか?

 新会計基準についての詳細に入る前に、もう一度、「そもそも論」を述べたい。当時、上場企業でもなく、公的な補助金・交付金による経営ではなく、かつ株主への説明責任を有しない医療法人に監査法人が入り、監査報告すること自体が奇異であるからである。
 しかし、私にとって、この経営選択は、単に会計基準の問題ではなく、病院運営の中期的な戦略論であり、さらには、地域社会におけるわが法人の継続した存在意義を問うものであった。
 すなわち、法人の理念を実践するための方策としての戦略が存在し、継続して存在するためには、経営の質を保証するビジネスモデルの確立が重要になると思われたからである。

●院内業務改革とIT化への取り組み

 表に当法人の事業戦略の流れを列記する。軸としてはITではあるが、たまたま道具としてITを利用したものであって、業務改善、効率性の追求の道のりであったといってよいと思われる。そのような中で、最初に取り組んだ事例について詳述する。

●院内システムを企業と共同開発

 これらのシステムの導入は、病院にとってモノの管理を徹底することによって、病院経営面での利点のほかに、現場職員のそれぞれの本来業務( core mission)を明確にし、それ以外の部分を外部業者やITに肩代わりさせるものであった。すなわち、「質とやる気を落とさない業務改革」を目指していったものであった。さらに、これ以降に、これらのシステムと患者データとの統合を目的として、オーダリングシステムを平成9年1月に導入し稼動させたのであった。
 ここで、上記のようなシステムを急速に導入し、さらにそれらのシステムを統合していくためには莫大な費用が必要となることが容易に予想された。そこで全国で例のないビジネスモデルとしてパートナー企業との新規共同開発プロジェクトを立ち上げ、当法人においての費用削減とその後の拡販によって両者にとってのwin-winの関係の構築に腐心したのである。
 すなわち、われわれは医療から介護、福祉まで多彩なメニューと、過去から積み重ねてきた信用と知識を有する。また、実際に動く職員の士気も高い。ならば、これから医療分野に参入してくる企業、更なる飛躍を求める企業にわれわれのフィールドを提供し、新規事業の検証場としようとしたのである。われわれのフィールドで成功した事例は全国への先進事例として活用可能となるである。
 このような考え方のもとで、上記SPDは三菱商事、検査システムは三菱化学BCL、薬剤管理は井上誠昌堂、オーダリングシステム〜原価管理システムはソフトウエアサービスと協同して全国に発信しうるものを開発するために汗をかいてきたわけである。

●だから会計基準−共同言語の必要

 これらパートナーとなる企業は、当然、グローバルスタンダード会計の導入を迫られていた。われわれが、協同し、信頼して関係を強化していくためには、同じ言葉、同じ制度のもとでなくてはならないのであった。
 つまり、お互いの経営内容と事業計画を共有することによって、信頼関係を構築でき、かつ間接的にパートナー企業に出資する投資家を納得させるものを目指したことになったのである。(次号に続く)

表■けいじゅヘルスケアシステムにおける事業戦略の流れ
1994年12月 診療材料院外SPD化
1995年 5月 臨床検査LAN稼動、外注会社一社化
         10月 薬剤在庫管理システム、納入卸一社化
1996年 3月 インターネットホームページ開設
         10月 事業所内PHSシステム導入
         10月 放射線デジタル画像処理システム導入
1997年 1月 統合オーダリングシステム導入
         10月 イントラネットサーバー稼動
1998年 9月 病院−直営診療所間オンライン化
         10月 電子化クリニカルパス運用開始
1999年 9月 特養オープン、老健・特養−本院間オンライン化
           9月 特別医療法人化
2000年 4月 恵寿鳩ヶ丘病院(療養型143床)開院、本院とオンライン化
     6月 コールセンター開設
     7月 CAFM( Computer Aided Facility Management )導入
    10月 鹿島デイサービスセンター運営受託、本院とオンライン化
    11月 放射線デジタル画像サーバー稼動
2001年 4月 患者別原価管理システム稼動
     7月 医療福祉ショップでインターネット通販開始
2002年 5月 電子カルテ運用開始
2003年 2月 患者誤認防止システム導入
2004年 5月 インターネットによる電子カルテ参照システム稼動、電子カルテASP事業開始
     9月 市立輪島病院との間で画像転送システム稼動

My Articles 目次に戻る