第1章  対人地雷の特徴とその損害

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第1節 対人地雷の特徴と性質

 地雷はある地域に敵の部隊や戦車が進出するの阻止あるいは阻害することを目的とした兵器であり、本質的に待ち伏せ式の防禦用兵器である。歴史的に見て、爆薬を地中に埋めて待ち伏せに使うことは古くから行われており、中国の明王朝の時代ではすでに実用化されていたらしい(*12)。しかし、本格的な地雷の使用は対人地雷、対戦車地雷ともに第一次世界大戦から始まった。第二次世界大戦では北アフリカ戦線、独ソ戦、中国で大量に使用された。戦後はカンボジア、モザンビーク、旧ユーゴスラビアなど各地の内戦や武力紛争で用いられていた。また、アメリカの技術により開発された改良型の地雷は朝鮮戦争やヴェトナム戦争において用いられてきた(*13)
 このように、地雷は古くから今日まで重要な陸戦兵器の一つとしてもしくは、火力を発揮する障害物として、あらゆる国の陸軍において重要な位置を占めつづけてきた。地雷は、その信管に取り付けられた受圧板が外圧を受けると作動するという単純な構造になっている(*14)。作動する圧力は形式によって若干の違いはあるが、対戦車地雷では160キログラムから230キログラム、対人地雷では4.5キログラムから27キログラムの圧力を受けると作動する(*15)。また、あるタイプの対人地雷は簡単に除去されないように水平位置から10度傾けると作動するものもある。
 対人地雷には圧力がかけられたときの作動の効果によって、三つに分類することができる。一つ目は爆風地雷と呼ばれるものである。これは人が踏むことにより、圧板に外圧がかかると、その場で爆発する地雷である。二つめは跳躍式地雷である。この種の対人地雷は作動すると、まず1メートル程度地雷が跳ね上がり、その直後に爆発して破片を撒き散らすものである。最後に破片地雷である。これはあらかじめ地雷と連結して仕掛けられている鉄線に触れると、一定の範囲もしくは方向に対して破片を撒き散らすように作られている対人地雷である(*16)。この中では、爆風地雷が最も広く使用されている。そして、破片による効果を期待するものは別にして、対人地雷の容器には磁性のない軽合金、プラスチック、合成樹脂、木、厚紙、ガラスといったものが使用されている。これらを用いるのは地雷の探知を難しくするために使われている。
 このような地雷の敷設は元々工兵隊のように人力に依存していた。しかし、最近では地雷敷設車や航空機によって短時間で広い地域に地雷を散布したり、ロケット弾や砲弾に地雷を納めたうえで発射して、自軍から離れたところで迅速に地雷原を作ることが可能となっている。ある地雷敷設システムでは、1分間に1750個の対人地雷を敷設することが可能である。
 特に、航空機やミサイルにより離れたところに散布される対人地雷は遠隔散布地雷と呼ばれている。この遠隔散布地雷は在来型の地雷と比べて著しく軽量小型である。またこれらは地面に転がっているものであるが、自爆することはなく、処理しようとして触れると爆発するような触発信管を有している。この遠隔散布地雷により、これまで防禦用としてしか使われていなかった対人地雷を敵軍の後方や側面に地雷を散布して地雷原を作り、敵の動きを封じ込めたり迂回行動をせざるを得なくするという攻撃的な使用法が可能になっている。しかも、人の手よりも経済的に地雷原を作ることを可能にした。
 さて、このような対人地雷には、他の兵器と決定的に異なる特徴を備えている。一つは受動性である(*17)。これは、兵器を作動させるのは加害者である使用者ではなく、その兵器の使用目標である被害者であるということである。このことは同時に、敵のみならず、自軍や友軍でさえも作動させると被害を負うという目標に対して無差別性を有していることを意味するものである。
 次に遅動性である(*18)。地雷は使用者の支配を離れた後もかなり長期にわたってその潜在的効果を持つことである。その効果は、誰かによってその地雷が除去されるもしくは誰かが地雷に触れたり踏むなどして作動させるまで続く。次節で述べるような被害のほとんどがその地域で武力紛争が終結した後のものである。これは、最近まで地雷が敷設されていたカンボジアや旧ユーゴスラビアのみならず、ヴェトナムではヴェトナム戦争当時の地雷が東ヨーロッパにいたっては第二次世界大戦中に埋められた旧ソ連製やドイツ製の地雷が爆発して毎年のように犠牲者を出している(*19)
 この2つの特徴は、対戦車地雷を含んだ地雷全般にいえることである。つまり、地雷には2つの側面――目標と時間軸という2つの側面において――無差別性を有するということがいえる。
最後は、費用と効果の面で考えると非常に効率のよい兵器だということである。例えば、中国製の72式対人地雷は3ドルで広く流通しており、時には1ドル程度で売られていることもある。先進国が製造する改良型の地雷は一個あたり何百ドルという費用がかかるが、通常使用されている地雷は10ドル以下で流通している。その安価な費用に対して作動すれば必ず人を殺傷させる能力を有する(*20)
 このような特徴により、対人地雷は貧者の兵器として武力紛争や内戦が発生した地域に大量に敷設された。その結果、紛争が終わっても対人地雷による被害は子供と大人、または文民と軍人の区別なく発生している。

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第2節 対人地雷による被害

 対人地雷は現在1億個以上が存在しており、少なくとも60カ国の領域で敷設されている。また、対人地雷の生産に関しては少なくとも55カ国、100の企業が360種類以上の対人地雷を生産しており、1990年代における生産量は年平均で約500万個に及ぶ。そのほとんどが現在内戦もしくは武力紛争が起こっている地域もしくは発展途上国に輸出されており、輸出された先で敷設されている(*21)。現在までに36カ国が対人地雷の輸出を行っていたことがあるということが知られている。
 対人地雷によって毎年26000人が死傷している。その90%が文民であり(*22) 、別の資料によれば、その文民の被害者のうち30%が子供による事故である(*23)。これらの数字によると、世界中で約20分に1人のペースで対人地雷による被害が発生しているということになる。ところが実際の被害はもっと多いと考えられる。なぜなら、対人地雷の被害に遭った人が一人の場合には助けを呼ぶこともできない。また、助けを呼ぶような目撃者がいた場合でも地雷が多数埋設されている途上国では警察や救急のシステムが機能していないことが多いからである。
 また、対人地雷の被害は単に死傷者の数のみで計ることはできない。その理由は2点あり、第一は対人地雷は爆発力をあえて手足を吹き飛ばすほどに抑えていることである。第二に地雷が発電所、送電設備、水処理施設、道路網、市場、港、居住地、耕地など主要な経済インフラの中や近くにも敷設されている(*24)からである。よって、被害者のケアや食糧の調達などの経済的な被害とともに地雷を敷設したことそのものによる被害も考慮に入れなければならない。
 地雷の被害により、手足を失った人にとって社会復帰をするには義足・義手が必要となる。しかし、仮に10歳の子供が手や足を失い60歳になるまで義手や義足をつけるとなると、少なくとも3125ドルが必要であるという試算も出ている(*25)。地雷が敷設されている国家のほとんどが途上国であることを考慮すると、義足や義手に必要とされるコストを支払う余裕のある人々はほとんどいない。また、義足などをつけることができない場合は労働など社会復帰の道がない。そのため国家は義足を支給するしないに関わらず、対人地雷の被害者のために多くの経済的負担を余儀なくされる。さらに、対人地雷が耕地や居住地などに敷設された場合、それらが除去されない限り、その地域は人間の居住や耕作を不可能である。そのため食糧生産は減少し、また、何百万人もの難民の安全な送還や共同体の再統合を遅らせることになる(*26)
 地域ごとに見ていくと、ジンバブエでは同国とモザンビーク国境沿いの405000エーカーの農耕地、森林に1979年に終結したローデシア危機の間に対人地雷が敷設された。アンゴラでは1000万個から2000万個の地雷が国土の三分の一の領域に敷設されており、70000人以上が手や足を失っており、そのために多額の食糧援助予算を必要としている。アフガニスタンでは500万個から1500万個の地雷が旧ソ連の侵攻の後に敷設されており、国土の大半が21世紀まで生活のために利用が不可能との予測が出ている。カンボジアでは国土の西半分に800から1000万個の地雷が敷設されている。
 これらの地域では、単にその地域の人々の生活が難しくなるだけでなく、その地域への人道的支援も難しくなるのである(*27)
 このような被害を終わらせるためには対人地雷の除去が必要不可欠である。しかし、その除去方法は金属探知器を用いて手作業で除去を行うという古典的な方法に依存している。この方法による除去はかなりの危険を伴うので、作業ペースは労働集約的なゆっくりとしたペースにならざるを得ない。また、地雷の購入が1個当たり10ドル以下がほとんどに対して、除去に必要なコストは1個あたり300から1000ドルと高価である(*28)
 また、除去隊員が作業中の事故で負傷するケースも報告されている。例えば、湾岸戦争期に700万個の地雷が設定されたクウェートでの処理作業では84名の作業員が死傷している(*29)。このような努力にもかかわらず、現状は除去隊員が1つの対人地雷を除去している間に新たに20個の地雷が敷設されているのである(*30)
 このように、地雷、特に対人地雷は直接的にも間接的にも個人や国家に大きなダメージを無差別に与える兵器であるといえる。そして、現状では除去活動を行っているにもかかわらず、その成果がなかなか現れないのが現状である。


さて、第2章も読んでやるか
もう疲れた勘弁して、

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