総合説について

 進化論の保守本流です


総合説ってなに?

 集団遺伝学や生態学を基礎に生物学の様々な分野から進化を統合的にとらえようとする考え方です。
 遺伝的浮動、発生的制約、隔離などの様々な要因を考慮に入れます。全ての進化論は総合説から生まれ出て総合説に取り込まれ戻ってくる、怪物のような巨大な学説です。
 おそらく今後も、新しい学説を吸収していくことでしょう。さしずめ、今のターゲットは「中立説」ってとこでしょう。  
 この中心となる考え方がネオ・ダーウィニズムです。あまりにもシンプルでビューティフルなこの学説こそが現在の進化論の基礎であり心臓部です。全ての進化論はこの学説をどのように利用し、どのように適合・融合するかが最終的に問われることになります。ネオ・ダーウィニズムこそが進化論の代名詞であることを否定できる人はいないでしょう。ネオ・ダーウィニズムは現在の進化学の象徴ですから漸進論・機械論・個体選択などを含んではいますが、定常モデル・目的論・群(遺伝子)選択であっても矛盾無く変異と選択を説明できれば亜流としてのダーウィニズムであると言えるでしょう。
 中立説を総合説の一部に含める方もいますが、総合説の特徴は幾何学的に美しい理論であることだと思っていますので、ここでは別個の学説として扱います。遺伝的浮動などは中立説の考え方ですが、ここでの中立説は分子進化のみでなく形態の進化も含んで取り扱っていますので。


遺伝的浮動ってなに?

 浮動、ドリフト、ライト効果とも呼ばれます。
 集団の遺伝子のバラツキが偶然に変動することで、必然性を強調する自然選択とは対照的な現象です。
 ビン口効果などにより小集団で高くなります。総合説よりは、分子進化、とくに中立説では重要です。


発生的制約ってなに?

 発生システムによる表現型の変異への制約のことです。
 個体が生まれるときに、栄養不足や形態の構造や発生方法の問題で、突然変異が起こっても誕生できなくなります。


隔離ってなに?

 たとえば、島に閉じこめられたりで、遺伝子の交流が妨げられることです。
 地理的隔離と性的隔離があります。
 隔離により、集団が小さくなるため偶然による遺伝子のバラツキ(遺伝的浮動)が大きくなり、突然変異の量が少なくなります。したがって、もとの集団からの小さな変異は起こりやすいのですが、その後の大きな進化は進みにくいものになります。正の自然選択を軽視する説は隔離は進化の主要因と主張します。
 断続平衡説も、どこまで本気かわかりませんが、一つの案として、小集団が隔離され進化し、再び合流することで進化は一気に大集団に広がるものとして、隔離説を利用しています。


ネオ・ダーウィニズムってなに?

 自然選択説とメンデル遺伝学が合体して誕生しました。
 遺伝子は、外部からの環境に左右されず、偶然にしか変化しません(突然変異)。
 しかし、有利な突然変異は、生存競争の中を淘汰(とうた)されずに生き残り、ほかの個体は淘汰(とうた)されます(適者生存、自然選択)。
 この、突然変異と、自然選択の繰り返しが進化になります。
 ダーウィンの学説のうち生存闘争の原理だけを強調し、獲得形質の遺伝、つまりいわゆるラマルキズムを否定したものです。
 より適合した個体は、他の同じ種類の個体より多く子供を残し、他を圧迫して割合が増えていくという仮説に基づいていますが、この仮説は確認されていません。


生殖隔離ってなに?

 交配が行われないことによっておこる隔離です。ただし、交配が行われても子供が産まれない、育たない場合も含みます。
 たとえば、生活時間や発情期が違う場合や性的な魅力を感じない場合などかあげられます。


ビン口効果ってなに?

 ある集団の個体数が減るときに、偶然に遺伝子のばらつきが集まったりすることです。
 たくさんの色のビーズ玉をビンから取り出すときに偶然に同じ色ばかり集まることがあります。そのように、少数の集団になる場合には、偶然の要素が高くなるのです。
 よく、SF作家はB型が多いとかいいますが、これはビン口効果による偶然と考えられます。


総合説での突然変異ってなに?

 有利な形質の変異をおこす突然変異です。この場合の有利とは、より多くの子孫を残せるというものです。


総合説での自然選択ってなに?

 正の自然選択のうちで、特に種内の競争に勝ち残れる(他の個体よりも多くの子孫を残せる)ものです。勝った個体は負けた個体を駆逐して、拡大していきます。
 しかし、同種内で、他の個体を駆逐するような現象はみつかっていません。
 発見されている正の自然選択は、種が衰退するときに、より衰退が遅い個体が増える現象になります。つまり、種内競争よりも環境の変化が正の自然選択を起こしていると考えられます。


ネオ・ダーウィニズムには欠点はないの?

 現在のネオ・ダーウィニズム(総合説)はダーウィンの「種の起源」という題名とは裏腹に種を単位にする進化を認めていません。あるのは個体の進化だけです。もっとはっきり言えば遺伝子がすべてであり、形態の遺伝のために遺伝子があるのではなく、遺伝子を表現するために形態がある、ということです。
 総合説は、種への影響の説明に、失敗してきました。
 たしかに、総合論はきれいな理論です。だからこそ、進化の速度、種への影響について何も説明しない部分が、不満になります。
 有利に働く突然変異率は小数点以下にゼロが600万も続くのに、それがどのように進化につながるのでしょうか。個体しか進化しないのに種はどのように誕生するのでしょうか。