▲Pumpkin Time▼ 小説・俳句

 彼女の甲高い悲鳴が狭い部屋に響き彼女が悪鬼の形相で窓から入ってくるので不快な気持ちで部屋のドアから逃げ出すとドアの外は人一人が通れる幅でアルミ性の螺旋階段が延々と真っ暗な地の底に銀色に続き彼女の声が迫ってくるのが聞こえ恐怖と不快感で螺旋階段を金属音を立てながら降りていくと上の方から大きな金属音の足音のリズムに脳細胞を掻き回すような彼女の叫び声が木霊しながら近づき必死に螺旋階段を下り続けていたが螺旋階段は途中で先が無くなっていて暗黒の闇があるだけになり螺旋階段の終端にねっとりとした炎がぼんやりと静かに燃えて融けたアルミが炎から赤黒く闇に滴り落ちていた。恐怖と肺が萎み無くなるような不快感を感じていた。

 カーテンの外はまだ暗くコンポのタイム表示の青い薄明かりが単色にした天井に波紋模様が次々に浮き出し消える。偏頭痛がする。時計を見ようと見回す。チューリップの造花、猫の縫い包み、壁に架かった制服のセーラー服、一輪挿しの花瓶、猫の縫い包みの白く光る髭、カーテンの皺、チューリップの造花の飾られた一輪挿しの花瓶、暗がりに浮かび消える。コンポの時刻をみればいいじゃない、と思いながらベットの中で偏頭痛と眠気に耐えて自分の髪を掴み引っ張り布団の中で体を縮めこの重い不快な偏頭痛から逃れようと試みて藻掻き続け藻掻くほど偏頭痛は火炙りにされた山姥の呪いのように私に梟の黒い翼を広げ覆い被さり酷く眠く顔が重く苦しい。青く光るドアのノブ。ドアの横に貼られた邦画。あれは蓮だったかしら、白い鳥だったかしら、青い鳥だったかしら、カレンダーだったかしら。闇。闇の中の遠い彼女の金切り声。幻聴に違いない。ドアの横の本棚。題名が見えない。カレンダーの絵は蓮だったかしら、河骨だったかしら。犬の遠吠え。覚めながら浅い眠りと偏頭痛で幾度も寝返りをしながら、また悪夢に誘われていった。

 

 重苦しい音が部屋の中に鳴り響き続けている。半ば睡眠不足と低血圧で偏頭痛の頭を引き摺りながらベッドの頭の先にある目覚まし時計のベルを引っ叩くように止めた。仰向けになり頭に水子霊でも乗っているような重さの頭を這うように持ち上げながら薄目を開ける。カーテンを通して眩しげな光が射し込んでいる。光を覆った手の平の長く深い傷跡。手相を見て貰うとき、きっと日本手相学会で大論争が起こるに違いない(そんな学会があれば)。ベットから倒れそうに立ち上がりミニコンポのパワーをオンにしCDを鳴らす。黒人女性の滑らかな曲が部屋中に満ちる。立ち上がりふらふらと部屋を彷徨う。机の上の大学ノートは昨晩の詩が書かれたページが開かれたままになっている。

 カーテンから猫の鳴き声がした。このアルトの美声はエチオピアに違いない。窓に駆け寄り薄緑のカーテンを開けた。雪豹のような堂々とした薄茶色の長毛を見せびらかし北狐のような豊かな尻尾の先をちょんと持ち上げ振りながらエチオピアが窓の両腕を広げたほど前にある苔が所々生した赤茶色の瓦屋根の上で静かに歌っていた。窓を開けるとエチオピアは獲物を襲うように身をかがめた。すぐに窓の横によけるとエチオピアは部屋の中に飛び込んできた。エチオピアは部屋に飛び込むと直ぐに私の脚に擦り寄せる。柔らかい雌猫の体温が脚に伝わる。一階の裏庭の玄関には猫用の入り口があるが私が起きたときは窓に飛び込んでくる。エチオピアが私が起きたすぐに呼ぶものだからエチオピアは時間が分かるものだと思っていた頃がある。猫の目で時間を計るって話しも聞いたことがあるし体内時計という言葉もある。ありそうな話だが日曜とか休みの日には呼びかけが無いことに気付いた。さては、超能力で私が起きたのが分かるのかと思ったが、よく考えてみると時計のベルを聴いているだけなのかもしけない。

 

     まだ小狐の母親だった頃

     小狐は母狐の尻尾に

     戯れていた

 

     いつの日か

     見知らぬ狐に変化するのも

     知らぬまに

 

     優しく嘗められ

     御機嫌の小狐も

     いつかは彼女の敵になる

 

     その日になれば

     彼女も

     鋭い白い牙をむく

 

     私の縄張りを犯すこの狐

     一体どうして

     くれようか

 

     僕は貴女の子供だよ、僕は貴女の子供なんだよ

     叫びも彼女に聞こえない

     ただただ縄張り犯す敵の声

 

     雑木林にぽっかりと、

     巣穴の近くにある空き地

     毛布のような木洩れ日に戯れていた

 

     あの、優しき日々は

     風船みたく

     飛んで、もどらない

 

 自分で作った詩を眺めながら舌打ちをして「馬鹿みたい」と呟いた。

 椅子の黒猫の絵のクッションをベージュのカーペットの上に投げ脚で中央に合わせる。クッションの猫の頭は窓と反対側の部屋のドアを向かなければならない。窓を閉じカーテンを閉め部屋はカーテンを通した窓からの光だけにする。部屋の電灯ではいけない。パジャマを脱ぎ捨て下着を取り放り捨て裸になる。エチオピアの脇を持ち抱きあげクッションの上に両足を揃えてドアを向いて立ち、エチオピアの顔と私の顔を近付ける。窓の光を反射する大きなエチオビアの両目を凝視する。エチオピアは無防備に私の両手にぶら下がっている。猫の神様、猫の神様、今日も向日葵のような目覚めをありがとうございます、猫の神様のご加護により、昨日も誰にも殺されず、誰も殺さず、自殺もせずに済みました、これからも、よろしくお願いします、と唱え、エチオピアを無造作に投げ捨て、まだ乱れたままの髪を指で梳きながら床の下着を付け直し壁に掛かっている制服のセーラー服を着てエチオピアを抱きあげ部屋の鍵を開け階段を静かに下り一階の洗面所に気怠く恐る恐る向かった。ショートカットは寝癖が付きやすい。伸ばそうかしら。喉が渇いていた。エチオピアの柔らかい熱い呼吸が胸に感じられた。

 

 私が小学生の時に私は家出をしたことがある。

 学校からの帰り道で家に帰るのが私は嫌になった。季節は残暑の頃だった。

 流れる自分の汗が鬱陶しく道路の両側に続く庭木はブロック塀の上からまだ青々と茂り蝉の声も聞こえていた。私はポケットのお金を確かめた。うん、海までは行ける、と私は思った。私はそのまま駅まで歩いた。駅までの道のりは私には遠かった。私が電車に乗るときは太陽はかなり低くなっていた。帰宅の学生や会社員が大勢ホームに集まっていた。電車の中は通学の制服が多かった。灰色や紺色など制服には幾つかの種類があった。屋根やビルが通り過ぎながら赤く染まっていった。明るく事務所の中が見えた。ブラインドとか夜には下ろさないのかしら、と私は思った。ライトを点けた自動車が真下を横切る。降りたときには町並みは薄暗がりになっていた。空は橙色に染まり、海まで歩く道のりに私の影を夕日がアスファルトに長く映した。瞬く間に日は落ちアスファルトを街灯が照らす。私は暗い海に着いた。堤防の手摺りに凭れてアベックが何組も並んで海を見ていた。堤防の上に波音が強く響き続けていた。堤防のガードレールを越えテトラポットの上に私は飛び乗った。遠くの沖で幾つもの明かりが見えた。明かりがゆっくり波間を動いていく。

 私はテトラポットの上に座り込み深い息を吐いた。闇の海になりたい、深海の魚になりたいと、私は思っていた。海は悲しみを飲み込み消え去るというが、飲み込んだ悲しみはまだ海に漂っているのだろう、と私は思った。私の右目から涙が一つこぼれて、それをきっかけに私は声を立てずに泣き続けた。私の喉の奥からしゃっくりが出てきた。しゃっくりは止まらなくなった。海に飲み込まれた悲しみは静かに沈みながら腐敗し浮かび上がる。腐敗した悲しみの皮膚が爛れ骨が見え骨の隙間から内蔵が蠢く。蛆が湧き腐臭を漂わせる悲しみの死骸は呪いの叫びを波音に隠す。彼女の高いヒステリックな声が私の耳の奥から響き私の神経を一本一本切り裂いていく。彼女の叫び声は私の神経を切り裂く度に鋭い痛みを全身に走らせる。私を誰かが解剖するときっと私の内部は至る所で内出血をおこし血だらけだろう。この海は悲しみを飲み込んではくれない、もう飽和状態だ。海にはポセイドンはいない。海神様は悲しみの腐敗した死骸の毒に死に絶えた。心、いや神経繊維が痛い。私にはもう心なんてない。エチオピアが私の目の前に浮かんでくる。エチオピアの温もりだけが私の慰めでエチオピアの鳴き声だけが私との友情の証明だった。エチオピアは夜どこに行くのだろう。エチオピアは何故、ああ悠々と生きているのだろう。エチオピアは何を心の支えにしているのだろう。そうだ、エチオピアは、エジプトで神の使いとされていた猫の末裔なんだ。遙か昔、仏典を鼠から守るために日本にやってきた毘沙門天の化身なんだ。きっと私に隠れて真夜中に猫の神様に会っているんだ。猫の神様って、どんな格好をしているのだろう。黒い衣装をすっぽり被って黄金にエメラルドの王冠、目は青色で毛は長く茶色で所々白髪が混ざっている、神様だから、二股どころではなく、九尾の狐なみに、尻尾は九本で、猫は九つの命があるというから、尻尾の一本一本に命が宿っている、もちろん尻尾も毛はふさふさ、エチオピアと一緒。猫たちは人間が寝静まった夜更けに空き地の隅の茂みの中の猫にしか見えない猫の大きさの穴の中に入いり暫く歩くと真っ暗な狭い穴が急に明るく広い場所にでて、人間の大人程の大きさの猫の神様が二本足で立っている。猫たちは次々に猫の神様の前に座り懺悔とお願いを口にしていく。猫の神様、猫の神様、どうか私の正気を守ってください。猫の神様、猫の神様、猫の神様。エチオピアの温もりが伝わってくる。解放感と安堵感が私を包む。

 嗚咽の中でしゃっくりが止まらないまま私はテトラポットの上で眠りについた。

 辺りの大騒ぎに私は目が覚めた。眩しい朝日の中で警察や釣り人がテトラポットの上の私を見詰めて怒鳴りあっていた。海が光っていた。朝日が海に白い道を眩しく光らせていた。喧噪の中で、また家に戻るんだな、と私は考えていた。

 

 ハンドボールをする殺気立っていながら楽しそうな歓声が響く。学校の二階にある教室からは高い緑色のネットに囲まれた運動場が一望できた。ネットは野球部の練習でときおりファールボールが民家に届くのでバントの練習だけしておけば費用もかからないのに私が入学する直前に増設されたため低いネットと高いネットが二重になっている。端にはまだ季節が早いため水泳部しか使用していないカルキの臭いが漂うプールがある。緑が増えてきた桜の木がネットの内側に並ぶ。花はとっくに散っている。体育の授業でハンドボールをしている。鳩が運動場の上を滑りながら私の直ぐ前を通り過ぎる。私の隣の席は学年が変わりクラスも新しくなってから一度も出席していなかった。佐上純子という名前だった。前の学年では別のクラスだったので顔も覚えていなかった。「篠原さん、篠原茜さん」と若い女教師が叱責する声で私を呼んだ。なにぼんやりしてるんです、来年は受験なんですよ、あっと言う間なんですからね、と説教が始まった。彼氏とうまくいってないんじゃない、と昼休みに教室の端に女子が数人が集まり噂話が始まった。彼氏いるの、いるいる、みたみた、きっとあの人だよ、どんなひと、どんなって・・・。運動場からの賑やかな声が響いている。野球やサッカーのボールが跳ね回っている。「茜ちゃん」と声がした。「ぼっとしてるのは授業中だけじゃないね」と、みんなが笑った。私も愛想笑いをして、ねえ佐上さんって、どうしてるの、ずっとこないじゃない、と訊いた。茜ちゃん、知らないの、登校拒否って話だよ。なにかあったの。わかんないけど、いじめがあったって話しも聞かないしね、と教えてくれた。

 

 学校からの道程が気怠く一緒に帰るクラスメイトの話しは相変わらず退屈で私達は魚食魚に怯える水草の間の小魚みたいに群れて歩きながら他の友人の噂話とか漫画の話しとかしていたが今日の自分が気分と関係なく燥いでいるのが自分を不愉快な気分にした。やがてクラスメイトの群れから一人ずつ減り私も同じ方向の恵理華と一緒に彼女たちと別れて横道に入る。

 「なんだか、茜ちゃん最近変だね」と恵理華が話し掛けてくる。恵理華は背が高く痩せ気味の体型で、セーラー服の短く上げたスカートからは細い真っ直ぐな脚が伸び、中性的な胴から折れそうに細い腕があり、面長の顔に濃い色の横に大きめの唇、細い鼻筋、大きな目で髪は七三に分け肩に着かないぐらいの長さにし先を外にカールさせている。未成熟と成熟の衝突を感じさせる容姿だった。

 「何が?」と私は聞き返す。

 うん?なんとなく、と恵理華が笑顔を作り、相談があれば、聞くぐらいはできるわよ、と続けていった。

 「別に何も」と答えた。変なのは小学生の頃からだ。変でないはずがない。恵理華と私の家はこの辺りで一番急な坂の上の少し高台になった所に何年か前からできた住宅地にある。坂の上の住民たちは皆、緑の垣根と花壇の花と十年を越すローンに囲まれながらきっとそれぞれに重大で深刻な問題を抱えながらも自分の生活こそ平凡で善良なんだと思って暮らしているのだろう。

 ほら、あの家が純子の家だよ、と恵理華が横道の先を指差した。背の低い雑草に覆われた細い道が民家のブロック塀に挟まれ伸び、その突き当たりの家の表札に『佐上』とあった。

 恵理華とも別れて一人になる。アスファルトで固められた駐車場を通り抜けると近道だ。落ち葉が散らばるアスファルトを突き破り細い草の固まりが所々生えている。突き抜けた先の出口の横に大きく蜘蛛の巣状に罅割れながら盛り上がるアスファルトの頂上から八つ手の葉が見えた。罅割れは酷く完全に八つ手に浮き上がっているだけの破片となっている部分もあり、そのアスファルトのごつごつした一抱えもある破片を持ち上げ除けると薄緑の脆弱な色の矮小化した八つ手が歪曲し這いずり、ひよわな植物は運命に流されながら逆らって生きようとして根から憎悪と絶望を吸い上げ全身に流し込み希望と反抗に変えてアスファルトを持ち上げていた。駐車場を抜けるとあとは住宅地の狭い道路が続く。

 私は道を引き返し佐上純子の家の前に来た。民家に挟まれた横道に入った。踏み拉かれた雑草の端にブロック塀に沿って背の高い草が白い小さな花を咲かせていた。門の前に来た。チャイムを押した。ドアが直ぐに開いた。母親らしき人が出てきた。今、私の中には佐上純子が自分と同じ人種なのかもしれないという期待か好奇心と呼べる感情が泥のように湧いていた。母親は、心配そうに私に、純子のお友達、と訊いた。クラスメイトです、と答えた。純子は、今、ずっと入院中なのよ、ごめんなさいね、と怪訝な表情を崩さずに言った。私は、礼をして、帰った。

 自宅のドアを開けるのが憂欝だった。レンガで囲まれた花壇は背の高い雑草が増えてきている。梅雨直前の煙った陽射しは玄関先の植木鉢の植木の緑を鈍く光らせ、その影をより濃く静かに感じさせる。花を植え換える人がいなくなり花だった植物はもう雑草と変わらない程茂ってしまった。もう花を咲かせない。私はゆっくりとノブを回す。なるべく音を立てないようにノブを押した。家の中は静かだった。廊下に応接間から低い父のゆっくりした歌声が微かに聞こえる。テレビから流れる好きな曲に合わせて歌っていると分かる。胃と心臓が重くなった気がしながら二階の自室に向かった。

 ベージュのカーテンの向こうはもう暗くなっていた。虫の音が鬱陶しく聞こえてくる。部屋で日記を書いているとノブを繰り返し回す音がした。振り向いたがドアは何事もなく静寂のまままで気のせいだったかと、また向き直るとノックが二、三度鳴った。「お父さんだよ」と声がした。立ち上がり部屋のドアの鍵を開けに行った。父が入ってきた。なあに、と私は椅子に座り直して訊いた。明日は、お母さんを病院に連れていくからね、茜ちゃんは鍵もって学校いかなきゃね、と父は、優しく私に話し掛ける。彼は私の父親ではない。彼女の夫。そお、と私はなるべく冷たく答える。父はいつものように気弱で優しい笑みで頷く。そして入ってきたのと同じように静かにでていく。私は緊張から解放され、蒲公英の綿毛になったような気分になる。そしてもう誰も入ってこられないように部屋の鍵を掛けに私は立ち上がった。雨音が聞こえだした。机に戻り日記の最後に詩を書き足した。

 

     突然の雨が、

     アスファルトの上を気忙しく、

     足速に歩いている、僕に向かって、

     降ってくる。

     雨は、傍で見るより、冷たくて、

     窓から覗いてる人もいる

     こっそり、笑ってはいないかい?

     雨は細かく、痛くはないが、

     冷たい悪魔は、服に染み込み

     肌を犯し、神経を通り、感情を殺す。

     突然の雨が、

     時間割りを濡らし、

     今日の予定を未定に変える

     今から、僕は何をしなければならないんだろう

     僕の予定は何処に行ったんだろう?

     時間割りを書いたメモを乾かそう

     雨に滲んだ、読めない文字を、

     上から擦って書いてみる

     前の予定と、少々違うが構いはしない。

     灰色の雲が裂け、陽光が差してくる、

     きっと…

 

 窓ガラスを通して聞こえる雨音は密教の呪詛の呪文に似ている。壁のハンガーに掛かっている夏用のセーラー服はパステルカラーの水色をベースにしていて新鮮に感じさせる。この頃ずっと目覚めに軽い偏頭痛になる。栄養が足りないのか睡眠が浅いのかと考えてみる。

 世界中の全ての母親はきっと自分の子供と他人だ。母親たちは自分の遺伝子を残すためにただ生まれてきたコピーを大切にしているだけ。童謡の文句を私は思い出す。『ねえやは、十五で嫁に行き・・・』、きっとそれを越えると、その子は穀潰し、寄生虫と同じ、次の子供を育てる障害にすぎない。子供は一五歳辺りで親から独立するように遺伝子に書き込まれている。反抗期なんて言っているが、あれは寄生虫を追い出そうとする親の迫害と独立期が衝突しているだけ。男もそれくらいまでには元服したり丁稚奉公にいっていた。あの童謡と同じようにするのが自然の摂理に適合している。

 『ねえやは十五で嫁に行きお里の便りも絶え果てた』 窓の外は暗がりで見えないが密教の呪文のような雨音が相変わらずしていた。