第二講・解答・解説
【第二講・解答例】 課題文で筆者が主張しているのは、多様性を認める社会こそ人間的だということであ る。これを教育に当てはめると、人間性を重視する教育の場では児童・生徒の多様なあ り方が尊重されなければならない、ということになろう。この観点から現在の学校教育 の問題点を考えてみたい。 まず第一に管理教育が挙げられる。例えば、厳格な校則による生徒管理である。服装 や髪型、男女交際に至るまで、「正常な状態」を学校当局が決め、基準からはみ出す生 徒は「異常」として学校から排除され、また仲間からは「いじめ」にあう。ここで問題 なのは、課題文の筆者も指摘しているように、「正常」は「異常」でないことによって しか定義できないという点である。体つきが人によって違うように、服装や髪型には一 人一人違った好みがある。また誰にでも、他人に対する好き嫌いの感情があるのは当然 だ。そうした個人的な差異を全て否定することによって成立する「正常」は、単に「平 均化」「画一化」を言い換えただけのものにすぎない。それらは人間性とは無縁である。 第二に点数主義の問題がある。学校生活を校則で縛る一方、学校は勉強だけは生徒の 自由に任せているように見える。しかし学習の成果がテストのみによって評価される現 状では、「点数」に結びつかない要素は評価から排除され、ここでも画一化が避けられ ない。生徒個人の関心や能力の違いも「個性」の一部であるのに、点数主義では得点を 平均化して算出した「標準」より上の者が善とされ、「標準」より下の者は悪とされる。 こうしてテストの評価が人間性の評価にすりかえられ、「学歴社会」を支えているので ある。 これらの問題点を解決するには、各人の個性にしたがった生き方が基本的な人権であ り、多様性の尊重こそが社会の豊かさであることを、まず教育に関わる者全てが理解す るのが第一歩であると私は考える。 【解 説】 今回のテーマは「正確に書く」である。このテーマに沿って小論文の構成を考えてみ よう。 まず書く前に注意すべき内容上のポイントを挙げる。 1 課題文の内容を理解する。 2 現在の学校教育の問題点を課題文の内容に即して考え、具体例を挙げる。 3 指定された四つの言葉の意味を理解し、構成上どの部分で使うかを考える。 内容的にはこれらが守られていなければならない。これらの条件を満たした小論文が 「正確に書けている」と評価されるのである。 また表現上の正確さにも気を配らねばならない。これは簡単に言えば「日本語として の正確さ」である。文に主語がなかったり、主語と述語が正しく結び付いていなかった りする誤りは非常に多い。入試と同じレベルの厳しさで減点すると、点がなくなってし まうような答案もある。正しい日本語を書く練習としてまずすすめたいのは「短い文を 書く」ことである。一文の長さが四〇字程度までの文なら、まず間違えることはない。 次に、書き上げたら「声を出して読んでみる」ことである。黙読ではなかなか気付かな い誤りも、耳から入るとわかりやすいものである。家の人や友達が聞いてくれれば更に 効果的だ(恥ずかしいかも知れないが)。 形式上の正確さで大切なのは「字数を守ること」と「適切に段落を分けること」であ る。特に段落分けに関しては、構成がしっかりしていないとその欠点が目立ちやすい。 一つの段落に多くの内容を詰め込み過ぎないようにしよう。 以上が内容・表現・形式に関する正確さのポイントである。 それでは内容上のポイントに従って、具体的に小論文の構成を考えてみよう。まず課 題文の内容については充分に理解できたことと思うので、「現在の学校教育の問題点」 について考えよう。「正常な者もいれば、そこからはみ出す者もいるのが当然で、両者 を包みこむのが豊かな社会である」という筆者の考え方と対立するような例が、学校現 場にないだろうか。 だれにもすぐ気がつきそうな例は「厳しすぎる校則」であろう。頭髪の長さ・型など、 自分の体に属するものを他人に傷つけられない権利は、憲法で保障された「基本的人権」 である。ところが、教育界では先生たちがよく「生徒に基本的人権はあるか」などとい う議論をしている。生まれながらにだれにもある権利だから「基本的人権」というので ある。それが理解されていないので「校則」や「体罰」の問題が起こるのだと言える。 これを課題文の内容に即して説明すれば、校則で示された「正常」な状態に全ての生 徒を従わせようとすることは、教師・生徒両者の間に「正常強迫症」を生み、教師・生 徒の「異常さがし」を促すということになろう。その結果学校ぐるみの「いじめ」が行 なわれ、自殺する生徒も出てくるのである。この過程を設問の要求する四つの言葉でど う表現するか、というのが次の問題である。 簡単に書いてみると、次のようになるだろう。「生徒を『管理』して学校側の思い通 りに行動させる教育は生徒の『個性』を押しつぶし、見かけの上で生徒を『平均化』す るのに役立つ。しかし健康な者も不健康な者も共に生きていける社会が豊かな社会であ るように、教師の扱いやすい生徒も反抗的な生徒も共に成長し得る『多様性』を受け入 れる学校教育こそが望ましい。」この考え方を中心に全体を組み立てよう。 解答例では他に、人間性全体を見るのではなく、点数によってのみ人を評価する「点 数主義」を例に挙げておいた。入試で小論文を課す大学が増えたのも、受験生の総合的 な思考力、豊かな人間的感情を評価する重要性が理解されてきたからである。高校以下 の学校現場で「不健康のまま生きられる自由」が大切にされることを諸君と共に望みた い。
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