INFORMATION whatYAYOI CONCERT HISTORY MEMBER FORUM LINK MEMBER ONLY 練習予定


弥生室内管弦楽団第24回演奏会




ヴァーグナー:ジークフリート牧歌

−−−−−−−−−
 初演は17人の楽士を雇って1870年スイスのトリプシェンという所のヴァーグナーの家で私的に行われた。ヴァーグナーは、コージマの誕生日に向けてこっそり準備を進め、当日の朝、楽士達を家の中に配置して妻が起きてくる頃を見計らってタクトを振り降ろしたそうである。曲は、眠るプリュンヒルデを表す動機や目覚めたブリュンヒルデと一緒に歌う二重唱などの他、楽劇中の動機を中心に構成されているが、コージマお気に入りの旋律なども挿入されており、二人の間でしか分からない秘密の部分もあるようだ。そのためか、ヴァーグナーは当初この曲を公にすることを渋ったが、結局後に公式な初演を行っている。まあ、妙な詮索をしなければほのぼのとした平和な雰囲気の小品だ。ヴァーグナーはそれまで身の回りに多くのトラブルをかかえていたためか、さすがに「指環」の大騒動を家庭の中まで持ち込もうとはしなかった。
 というのは、愛妻コージマは、元々指揮者のハンス・フォン・ビューロー夫人で、ジークフリートは不倫の子だったからである。コージマの前にも不倫歴があった。それに、若い頃ドレスデンの革命騒ぎに関わった廉でお尋ね者だったこともある。スイスに来た最初の頃は亡命者だった。おまけに自分の作品の上演費用が払えず借金取りに追われる身分。現代でいえば、不倫、指名手配中の過激派、不良債権の債務者と三拍子揃ったとんでもない奴だ。しかし、そんなことは百も承知でヴァーグナー作品の魔力に取り憑かれる者は後を絶たない。「バイエルンの狂王」ことルードヴィヒ2世はその一人で、公的資金を投入してヴァーグナーの借金をチャラにし、後に自分の領地に呼び寄せた。
 また、ヒトラーが筋金入りのヴァーグナー狂で、ヴァーグナーの子孫や楽劇を政治的に利用したのは有名だ。もっとも、それは二代目のジークフリートの死後のことだから、元祖ヴァーグナーのあずかり知らぬことである。ナチス時代に比べれば、元祖ヴァーグナーの時代など平和なもので、お尋ね者の身分と高額の負債、それと不倫のトラブルぐらいのもの(それだけ揃えば十分!)だった。
 何だかヴァーグナーの悪口ばかりになってしまったが、こういうことを言っている(書いている)者は大抵かなりのヴァーグナー狂だから、「そうだそうだ、やっぱりヴァーグナーはけしからん作曲家だ」などと相槌を打とうものなら、「指環」と同じぐらい長い説教を聞かされるハメになるので注意を要する。



Return