My Articles

薬剤管理システムの導入による経営改善
               −その2−

直接効果・間接効果を分析する

隔週刊「病院経営新事情」(産労総合研究所) VOL.236・2001年7月5日号
連載:病院経営から見た業務改善事例6



(資料1〜4、6、7は本誌をご覧ください)

はじめに

 前回−その1−で報告したとおり、当院では、診療材料のSPDに引き続き、平成7年10月より、薬品卸業者の井上誠昌堂(本社:富山県高岡市)とともに薬剤の合理的な在庫管理システムを導入することとなった。これによって、薬剤師のコアミッションの明確化、さらには経営上のキャッシュフローの改善を図ることを最も大きな目的とするものである。

 導入に至った経緯、当院における現行薬剤管理システムのしくみのついては、前回詳しく述べたとおりであるが、今回は、具体的な導入効果について紹介してみたい。この分析については、当院が起用している公認会計士事務所である監査法人太田昭和センチェリーに依頼し、薬剤管理システム導入後3年6ヶ月が経過した平成11年12月に実施したものである。

導入効果分析

(1)定量化へのアプローチ

 まず、薬剤管理システムの導入効果を定量化するあたり、導入に伴う直接的コスト削減効果(直接的効果)と関連業務プロセス変革に伴う機会費用回避効果(間接的効果)から構成されるものとして以下の項目について定義をした。そして、それぞれについて、導入時の平成7年10月から平成11年3月期事業期末分までの具体的効果の定量化について、調査・分析を実施した。

<直接的効果>
T:在庫削減による金利負担低減効果
U:在庫保管スペース削減効果
V:死蔵在庫削減効果

<間接的効果>
用度課・薬局・医療現場における薬剤関連プロセスコスト削減効果

(2)直接的効果

直接的効果T:在庫削減による金利負担低減効果

 今回の薬剤管理システム導入事業年度の前2事業年度末(平成6年3月末および平成7年3月末)在庫残高の平均回転期間0.82ヶ月を用いて、導入事業年度以降平成11年3月期までの4事業年度末の想定在庫残高を算定した(資料1,2)。その想定在庫残高から実際の在庫残高の差に当院の借り入れ金利を積算して金利負担低減効果を算出した。この結果、平成8年3月期で70万円(6ヶ月)、9年3月期で150万円、10年3月期で140万円、11年3月期で150万円の効果がみられ、累計で510万円の効果を算定できた。

直接的効果U:在庫保管スペース削減効果

 薬剤管理システムの導入により、従来用度課が薬品保管のために管理していた倉庫スペース(総面積:73.38m2)の約1/4が他目的のために転用可能となった。当削減スペースに、当院が内部管理用に使用している想定賃借相場(坪あたり月額25,000円)を積算することで在庫保管スペースの算定をした。この結果、年額170万円、累計で590万円の効果が算定できた。

直接的効果V:死蔵在庫削減効果

 薬剤管理システムの導入前には、年1度の注射薬の調査(有効期限切れ調査)を除き、死蔵在庫を組織的にモニターする制度を有していなかった。しかし、本システム導入に伴い、以下の仕組みが制度化され、死蔵在庫は激減した。

・Prime Venderである井上誠昌堂(前号の本連載参照)が病院薬剤師の指導のもと薬品庫での死蔵在庫のモニターを開始
・内服外用薬剤は大包装薬剤を小分けにして必要分のみ院内に払い出す仕組みを導入
・注射薬は定数管理制度と薬局にて注射薬セットをそろえてから病棟に払い出す仕組みを導入(一本出し)

 この効果については、以下のように検討した。導入事業年度(平成8年3月期)の前3期事業年度における実際の薬品費とそのうちの保険未請求額との比率(保険未請求割合)の平均値を15.20%と推定し、この比率を導入した事業年度および以降平成11年3月期までの5事業年度の実際に掛かった薬剤費に積算することで想定未請求額を算出。この想定未請求額と実際の保険未請求額との差額を本システム導入による効果として算定した。

 この結果、8年3月期で1,500万円(6ヶ月)、9年3月期で2,400万円、10年3月期で4,600万円、11年3月期で6,400万円の効果がみられ、累計で1億4,900万円の効果を算定できた(資料3,4)。

(3)間接効果

間接効果:用度課・薬局・医療現場における薬剤関連プロセスコスト削減効果(資料5)

業者への見積もり・発注業務
 従来約10社あった業者を井上誠昌堂の一社に絞り込み、用度課が実施していた業者への見積もり・発注業務をゼロにした(ただし、納入薬品の採否とメーカー決定権は、従来どおり病院の薬事委員会に保留、井上誠昌堂からの納入価格は、薬価差益を総加重で一定割合となるよう決定する方式を採用)。

入庫・在庫管理・院内搬送準備作業・薬剤払い出しデータ処理
 井上誠昌堂は薬剤師の管理のもと、入庫(検品・倉庫内での配置)、在庫管理、院内搬送準備作業(内服・外用薬剤の大包装から小包装への小分け作業を含む)、薬剤払い出しデータ処理(内服・外用薬剤については、井上誠昌堂設置のバーコードリーダー付きコンピュータでの読み取り。注射薬剤については、各医療現場からの納品請求伝票のシステム入力、注射セットについては、オーダリングシステムから出力される払い出し集計表のシステム入力)を実施することとした。従来用度課および薬局が実施していたこれら業務は、本システム導入により原則的には消失した。用度課は、井上誠昌堂が実施した薬剤払い出しデータの処理結果の入力チェックを行っている。

注射薬セットの準備
 今回のシステム導入とともに、注射薬セットを各医療現場ではなく、薬局で行うこととした。これにより、作業効率の向上とともに、医療現場、特に看護業務の中での作業負担が大幅に軽減された。

 本システム導入前(平成7年3月期と仮定)と導入後(平成11年3月期と仮定)の薬剤関連業務への投入時間と同年の薬剤費との比率を算出し、この2つの比率をシステム導入以降の各年度(平成8年3月期、平成9年3月期、平成10年3月期、平成11年3月期)の薬剤費に積算することで、システム導入がなかったとした場合の特定プロセスへの想定投入時間と導入後の推定投入時間を算定した。両時間の差異に用度課職員、薬局職員、看護職員の時間当たりの人件費単価を積算して、導入効果を算出した(資料6)。
 この結果、8年3月期で530万円(6ヶ月)、9年3月期で1,180万円、10年3月期で1,220万円、11年3月期で1,320万円の効果がみられ、累計で4,250万円の効果を算定できた(資料7)。

(4)導入効果サマリ−

 上述の直接的効果と間接的効果について、合計したものを、資料8に示した。これによると、導入効果として、導入半年で2,150万円であり、3年6ヶ月間の累計で2億210万円となった。当院の同期間の薬剤費の累計は48.5億円であったので、単純に効果割合としては、平均4.2%となる。

 効果項目の中で、インパクトの大きいものとしては、直接的効果Vの死蔵在庫削減効果、間接効果の薬剤関連プロセスコスト削減効果の順番であった。一方コストについては、本システムのランニングコストは井上誠昌堂の営業経費に内包されており、同社の営業経費の増大は当然薬価差益の低減に関与することが想定される。しかしながら、本業務システム導入効果の効果割合は上述のとおり4.2%であり、この数字を現行の薬価差に加えるならば、その経済効果は満足いくものと思われた。


結語

 2回にわたって、当院の薬剤管理システムの概要と実際の導入効果を報告した。小泉新内閣の「聖域なき構造改革」の波は、医療・社会保障の分野にも押し寄せる。その中で、総医療費抑制策として高齢者医療保険制度の問題はもとより、キャップ制の導入や薬価差益解消の問題が必ずや議論されていくことであろう。

 当院では薬剤卸業者の一社化という、現在でも全国的にこの規模の医療機関としては稀な取り組み、病院における「構造改革」をドラスティックに導入した。導入過程における様々な抵抗や問題は前号で紹介した。改めて、今回のシステム導入は医療機関側のメリットばかりを強調したものではなく、卸業者側の物流コストや管理経費の低減効果というメリットがあったことも強調したい。すなわち、一方がひとり勝ちするのではなく、新しい仕組みを創出することでWin-Winを目指したシステムの構築となったものと確信する。

 この取り組みは、将来的に薬価差益が消失、ないしは極めて少なくなったときにこそ、効果を生み出していくものと思われる。薬品卸業者と病院が一体化して、薬品の物流と在庫削減に取り組むことができるからである。いわば、産業界でスタンダードとなりつつあるサプライ・チェーン・マネジメント(SCM)の考え方に合致するからである。

 「構造改革論」は政府の、そして社会の組織を変えようとしている。しかし、組織は戦略を実現するための手段であることを忘れてはならない。戦略なき組織いじりはいたずらに混乱を招くだけであると思われる。

 過去4回の連載で、診療材料と薬剤にかかわる業務の「構造改革」についてその仕組み・導入効果分析を中心に詳述した。われわれの戦略は、現場職員のコアミッションの明確化と業務削減、院内のモノの流れの根本からの見直し、そして収益構造の安定化を目指すものである。そういった意味で、これらの基本戦略のもとで、院内の組織を見直していったことが一応の効果を導いた最も大きな事実であったといえよう。


My Articles 目次に戻る