医療経営Archives

医療と福祉でざっと35兆円の市場
原則自由のマーケットが必要です

インタビュー:河北総合病院理事長・河北博文氏に聞く(日経ベンチャー1996年9月号)より

registration date: 1996.9.4


(前略)

大企業参入が難しい市場

-−医療・福祉の市場が大企業向きではないというのは、けっしてマーケットが小さいというわけではありませんね

河北マーケットは着実に育っています。問題があるとしたら、マーケットの大部分を公(おおやけ)の直接サービスが撹乱していることですよ。だから、民間サービスの競争力が出てこないわけです。

-−原価無視で行政がサービスをすれば民間の参入する余地はなくなりますね

河北行政は、公のサービスをすべてやめるべきだと私は思う。行政がやるべき公のサービスは三つしかない一つは、何もないところに種をまくこと。種をまくということは、イコール成熟したら撤退するということなんですよ。
二番目は、警察とか、軍隊とか、裁判とか、ものすごく公のサービスに限定するということ。三番目は、必要だけど、どんなに種をまいても育たないマーケット。これはやっぱり行政がやるべきなのかなと。行政のやることはこれだけなんですよ。
これからの医療や福祉で、行政がやるべきことは、まず予算化し、それでいい民間の企業を育てる。育てると同時に、民間のサービスを評価できるノウハウを持って、委託をすればいい。それが今までは、全部が直接、行政のサービスになっているわけですね。

-−民間が創意と工夫を生かせるような魅力ある市場にするためには何が必要ですか

河北日本の医療とか福祉に関する基本理念が、これから変わるかどうかがポイントです。
医療保険の抜本的改正が議論されていますが、行政とか政治が主体的になれば抜本的改正はない。マーケットが主体になれば、おそらく「改正」というよりも「変革」が起こっていくだろうと思う。一体、日本の社会はどちらを選ぶのか。
官僚や政治家の立場からは、貧困からの救済という要素を持った社会保障としての医療という基本概念を変えることは、非常に難しいだろうと思う。
ただ、私はそうでなくて、これからの医療は、社会保障と医療保険というものが別れていかざるを得ないだろうと思うんです。その時に医療とか福祉は、希望が持てて、しかも尊厳ある生活を保証するという基本理念になっていくべきだと思う。
その尊厳というのは、自己責任を明確にすることなんです。そういう社会を私はつくるべきだと思う。そうしないと、我々は次世代に大きな負担を残すことになる。

(関連論文:介護保険一律扱い見直し必要−経済格差認め応分の負担)


マーケット主体なら変革おきる
行政に都合の好い規制緩和では・・・

-−医療福祉は規制緩和への要望が強い分野ですよね。例えば営利法人である株式会社による病院経営を認めよとか。規制緩和も変革の起爆剤としてきたいできますか

河北(中略)今の厚生省の規制緩和というのは、おそらく行政官から見て、都合のいい項目ばかりを並べたものだと思うんですね。
そうでなくて、まず系統立てて考えることが必要ですね。社会規制とは何か、それから経済的規制とは何か。大きく見れば前者は参入資格制限、後者は公定料金ですよ。ですから、この参入資格制限と公定料金に関して、どういうミックスを考えれば、一番適切な規制緩和になるかという議論を詰めるべきだろうと思う。
今の現実の動きは、おそらく何十項目か厚生省が挙げたものをそれぞればらばらに議論している中で、一つ規制を緩和したといいながら、片方で十の規制をつくっていく。そういう雰囲気ですから先には進みません。私は、基本的にはマーケットの理論に乗せるべきだと考えています。

-−市場原理だけで考えにくいところもありませんか

河北原則自由で私はいいと思うんです。その前提として、そのマーケットがフェアかどうかということが一番大切だと思う。ですから、競争原理が公正に働いているかが問題なんです。
例えば直接、公が行うサービスと、今までどおり民間が行うサービスとはフェアな競争をしているかと言えば、絶対そうではないわけですからね。


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