医療経営Archives

医療法改正のゆくえ

水野 肇の医事放談
月刊「病院経営新事情」(産労総合研究所)1999年4月5日号(No.186)より

registration date: 1999.4.20


病院経営新事情   少し前の話になるが、1993年頃の話である。厚生省のある技官が、日本医師会の幹部と酒を飲んだ際、酔っ払って「21世紀までの間に150床以下の民間病院は全部つぶれますよ」といって、当時の日本医師会長を烈火のごとく怒らせたことがあった。

  この話は表に出なかったが、裏では大問題になった。というのは、ひとつはこの話は「真実」であったということ、もうひとつは、この不用意な発言をした技官は、未来を嘱望されている優秀な技官で、この段階で怪我をさせてはいけないという役所側の判断があったからである。“事件”の結果は、日本特有の「酒のうえのできごと」ということで一件落着したが、この技官の“予言”はまさしく当たっていたわけで、目下「医療審議会」で行われている医療法改正が日の目を見ると、この技官の予言どおりになるのではないかと思われる。

  厚生省は、これまで「21世紀に向けての入院医療のあり方に関する検討会」(井形昭弘座長)、「必要病床数等に関する検討会」(岩崎榮座長)、「カルテ等の診療情報の活用に関する検討会」(森島昭夫座長)の3つの検討会が相次いで報告を行い、大要、次のような提言を行っている。

  1. 現行の一般病床を急性期と慢性期に区分し、それぞれにふさわしい人員配置基準、構造設備基準を設定する。病床の区分は在院期間を指標とする。
  2. 現行の必要病床数を算定法式を見直し、地域格差を是正するとともに全体の病床数を削減する。急性期、慢性期の病床の必要数を個々に算定する。
  3. 医療法を改正して、患者の求めに応じて、診療機関は診療記録を開示することを規定する。
  これを基本にして、昨年9月から第4次医療法改正に向けての議論が始まり、12月に提示されたたたき台は、与党協、これまでの審議会での議論の最大公約数を提示したと健康政策局ではいっている。このたたき台の柱としては1)病床区分、2)医療計画の見直し、3)カルテ開示の法制化、4)広告規制の緩和、5)医師、歯科医師の臨床研修必修化、などをあげている。

  この5項目はそれぞれに重要ではあるが、この雑誌の読者にとって、もっとも影響が大きいのは、病床区分であろう。病床区分そのものは、一種の“歴史の流れ”のようなものである。欧米の病院を見学すると、どの病院でも平均在院日数は短い。せいぜい2週間である。スウェーデンなどは6日間である。日本のように40日というような国はない。

水野 肇  欧米の多くの国では、病院というのは急性期疾患を治療する場で、慢性期疾患はナーシングホーム(日本でいえば、特別養護老人ホームか老人保健施設に相当する)か、あるいは在宅である。それと、ヨーロッパなどには民間病院というのは原則としてない。せいぜい、キリスト教立の病院が民間といえば民間といえる程度である。

  急性期の患者を扱う病院は、当然のこととして、施設も人員も十分に配備されていなければならない。ということは多少採算を度外視したものでないと運営できない面がある。国立や公的機関の運営でないとやれないという側面がある。国立や公的病院は赤字であってもいいとはいえないが、それでも民間病院よりは財政的に融通性は高い。

  この慢性疾患と急性疾患の病床がきっちり分離されると、結果的には、民間病院で急性病等を設備して、人材をそろえるということはかなり難しい。たしかに甲状腺の専門病院である「伊藤病院」のような立派な専門病院も存在しているのは事実だが、これらの病院は例外である。多くの病院は、慢性疾患を中心に診療している。とくにこの十数年は、この傾向が強い。たしかに民間病院は、戦後、医療が不足し、大きな病院が大学病院以外には少なかった時代に、開業医から発展して、その地方の医療をになっていた時代もかなり長く続いた。倉敷市にある川崎医科大学(川崎明徳理事長)は、終戦直後には19床の診療所にすぎなかったのが、発展して医科大学になったわけである。 しかし、多くの民間病院は、戦後充実してきた公的医療機関(日赤、済生会、厚生連、自治体などの各病院)に徐々に押されつづけて、この20年ぐらいは、特色もなく、老人を収容するだけの病院になっているのもある。これからの民間病院は、結局、生き方としては、ひとつは、何らかの専門性を確保して専門病院への転換を図るか、もうひとつは療養型病床群、老人保健施設といったものに転換するかのどちらかだろう。専門病院への脱皮はかなり難しい。ただ、老人を対象とした整形外科の分野、地方にウェートを置いた病院や病棟は、今後も注目を浴びると思うが、全体的にいえば、老健や療養型病床群に転換するほうが、スムーズにいくだろう。恐らく2005年に介護保険の改正案が提案されるが、その時には、特養、老健、療養型病床群の3つが1本になり、医師や看護、介護は老健を基礎にするようになるだろう。

  私がとくに強調したいことは、老人たちの世話をする医療や福祉を“一段下のもの”と考えないでほしいということである。国民の望む医療をするのが医師として最高のことである。


参照:最近の話題−第4次医療法改正の骨子

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