この中で昨年の暮に厚生省健康政策局から医療審議会に提出された「医療提供体制の改革について(議論のためのたたき台)」では、入院医療体制における医療の質の確保・向上の項目で以下のような記述が見受けられる。
“医療現場において提供される医療の質を確保し、さらにその向上を図っていくため、「科学的根拠に基づく医療」(Evidence Based Medicine: EBM)や「退院時期を明確化させた診療計画」(Clinical Pathway)等について検討を進めるとともに、医療現場への定着・普及を図る。”
ようやくこの1年ぐらいで市民権を得つつあったクリティカルパス(Critical Pathway=Clinical Pathway、以下CP)が、ついに厚生省の「お墨付き」をもらったという感がある。
このような流れに従い、各種セミナーの開催や、書籍・雑誌の出版が雨後のタケノコのように多数認められる現況にあるといっていいであろう。ここでは、改めてCPの導入意義を当院における事例とともに考えてみたい。
また、その医療機関における標準化された最良の治療が提供されることで医師、看護婦の「あたりはずれ」が少なくなり、計画されたチーム医療も担保とされるといってもよいだろう。
このような原価管理により今後導入されるであろうDRG(Diagnostic Related Groups)/PPS(Prospective Payment System)に向かって病院として「最短の時間で」、「最良の」、「最大効果の」、しかも「最大の経済効果を期待できる」医療を提供することができることとなろう。
高齢化社会を背景とした複雑な疾病構造に対応できるパス表の作成は現実問題として困難と思われる。そうであるならば、全体の患者の2割の「典型的な疾病の」患者にはCPを適応し、指示、転記作業の徹底的な削減(手抜き)を図る。残りの複雑な8割の患者に対しては、個別性を重視し、医師と看護婦は2割の患者で削減された余力を存分に発揮する。といったような「めりはり」を目指したツールとするべきであると思われる。
すでに当院では平成9年1月より、Microsoft Windows NTをOSとしたフルオーダリングシステムKISS(Keiju Information Spherical Sysytem)が稼動し、医師や看護婦による発生源入力のもとで各種医療が提供されている。そこで、CP導入計画の中で、このオーダリングシステムに連動したいわば「電子クリティカルシステム」の開発をすべてに優先することとした。
従来、各科においてはセット検査というものが存在した。たとえば、「内科入院時検査一式」「心臓カテ−テル検査術前一式」といったものである。これらは、各種画像検査や生化学・生理学検査、さらに前投薬などをセット化したものであった。CPにおいては、これに日にちという時間軸と処置、食事、看護計画、教育指導、他科受診など、患者を取り巻くすべての指示事項を巻き込んだものと解釈し、これら情報を電子化し、このパス表をオーダリングシステムに電子的に「貼り付ける」ことですべての指示作業が簡潔するものとしたのである(下図)。
昨年10月にソフトが完成し、その後現場におけるマイナーバージョンアップを繰り返し、実際には本年3月からフル稼働している。現在30の疾患あるいは手術に伴うパス表が運用され、月に約100例の使用実績となっている。現状においては在院日数における短縮効果の評価は難しいものの、当初の目的とした業務削減効果は多大なものになっていると確信している。