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当院において各々別個に進め、一応成功させることができた院内の管理システムをさらに効率化するためには、医療そのものの情報にこれら管理情報に加えた統合システムの必要性が発生してきた。それは、一貫して行ってきた「質とやる気を落とさないリエンジニアリング」の流れの最終章となるものと位置づけられるように思われた。
すなわちサービスを受ける患者側としては、スピードの確保と情報が共有化されていることをメリットとしてあげた。そのスピードに関する目標としては、「ホテルのチェックアウトのスピード」を確保することをあげ、この目標の達成のためにはすべての医療業務のコンピュータ化が担保となることとした。また情報の共有化の目標としてはどの科を受診しても、他科の情報が瞬時に把握できることを担保とした。
職員側としては情報の共有化と転記作業の削減、院内伝達の簡素化をメリットとしてあげ、その目標のためには、患者情報のみならず、院内伝票や連絡事項のコンピュータ化、ペーパーレス化を担保とした。
さらに情報機器として当時医事業務用に導入されていたオフィスコンピュータとワークステーションはリース半ばにして廃棄することを決定し、全くゼロからパソコン−サーバーを使用することとした。現在では当たり前のことであるが、当時としてはそれに異を唱えるシステム業者も存在していた。またそれまでの物品管理システムを統合するために、バーコード対応という、新しい切り口で行うことも宣言した。
そして医師からパラメディカル職員、事務職員を交えた準備委員会:KISS委員会を組織した。この中で、特にコンピュータ専任職員・システムエンジニアは院内に置かず、コンピュータの素人集団の発想により「コンピュータで可能かどうか」ではなく、「何を行いたいのか」を論議してシステムを構築していくこととした。
当初ナショナルブランドメーカー各社よりのプレゼンテーションを依頼した。しかしながらハード・ソフト込みで3〜5億円の価格設定であり、当方の希望する条件をオプションするとさらに価格は上昇する。そこでソフトはソフト会社に、ハードはハード会社に、LAN工事は工事会社にと、各々厳しい競争見積もりの上で発注することとした。これにより価格はナショナルブランドメーカーの1/2程度となった。しかしその見返りとしてソフトのインスツールやハードの組み立ては医師を含めたKISS委員会のメンバーによる時間外の奉仕活動によって成り立った。これは、振り返ってみればメンバーが「自分たちで組み立てたコンピュータ」といった愛着という副産物を生んだことを銘記しておきたい。
またシステムの保守は、ソフトはソフト業者よりのISDN回線を用いた遠隔管理とした。ハードは昨今の低価格化の波を受け、サーバーを除いたコンピュータは保守契約を結ばず、壊れれば廃棄し、新たに買い揃えるという方針をとり、維持管理経費の低減を図った。
6台のサーバーと約230台のクライアントをMicrosoft Windows NT ServerとWindows 95で運用開始し、1年後よりMicrosoft Windows NT 4.0 Workstationでの運用となった。
現在、発生源入力のフルオーダリングシステムであり、特徴としてカルテ、診察券を含めて全ての情報、オーダーをバーコード化し、各部署でカルテや指示書に印字してあるバーコードを読むことで作業が完結するものとした。オーダー内容は、投薬、注射、すべての検査、リハビリテーション、病歴管理、給食管理、看護情報、看護計画、医事業務、健診など病院情報全般を統合した(図1,2,3)。
また、コンピュータの特徴として一度入力したデータはその出力の切り口を変えて様々なシートを作ることができる1)。すなわち、医師の入力したオーダー情報と看護婦が入力した看護計画は統合して1枚のワークシートとして出力もできるし、処方箋、検査指示書としての出力も可能となった。コンピュータ画面で他科情報の検索も可能となった。
さらにペイパーレスを目指しMicrosoft Outlook 97 を利用し、院内の伝達は電子メール、伝票類や患者指導書、各種マニュアル、会議議事録などは文書サーバーに蓄積し、院内の情報を誰でも共有することとなった。
(文中のOS、ソフトはいずれもMicrosoft社の登録商標)
さらにそれぞれ約10Km離れた2ヵ所の直営診療所と本院をオンライン化することで患者情報の共有化、情報伝達の迅速化とともに医事業務の「本社一括管理」を成し遂げた。
本稿の冒頭で情報システムは当院が進めてきた「リエンジニアリング」の最終章と位置づけると述べた。しかしこの最終章は極めて長く険しく、むしろこれまでの物品管理の取り組みがこれからのプロローグであったという感が大きいように思えてならない。
![]() 図1 オーダリング画面:オーダー画面はアイコン化され、他科の情報も初期画面上で参照できる。 |
![]() 図2 指示書に印字されたバーコードを利用して画像処理システムに情報を転送。 |
