医療の質を高める改善活動〜品質保証の時代〜

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医療の質を高める改善活動〜品質保証の時代〜

隔週刊「病院経営新事情」(産労総合研究所) VOL.119・1999年11月5日号
特集:病院活性化と「医療の質」改善活動 より


病院経営新事情199   医療費の自己負担の増加や医療事故の多発を通して、利用者である患者やマスコミからのニーズという名のさまざまな要求は増加し、また監視の目がますます強くなってきた。このような背景のもとで医療のマーケッティング戦略として「品質の保証」すなわち、医療の質を高めることで、真のサービスを提供し、選ばれる病院づくりが今まで以上に必要な時代となってきた。

   すでに品質保証は医療界よりも他の製造業、サービス業においてはなくてはならない生き残り策として取り組まれている。そして、そのツールは枚挙にいとまない。そこでは、TQC(Total Quality Control)活動やカイゼン(KAIZEN)運動など日本が世界をリードする活動にはじまって、最前線においてはERP(Enterprise Resource Planning)やCRM(Customer Relationship Management)と呼ばれるようなネットワークを駆使した経営と品質の管理手法が取りいれられている。これは、野中ら1)が提唱する個人が持つ暗黙の知を誰にでも利用できる形式の知へ表出するとういナレッジマネジメント(Knowledge Management)を応用した管理手法であると考えてもよいかもしれない。

   医療の世界ではその対象が人に対するサービスであり、かつ生命にかかわるサービスであるという特異性はある。しかしながら、決して特殊な業種ではなく、他の業界で成功を収めた品質管理手法がそのまま利用できないはずはない。日本経済低迷の中で懸命に成長を続ける優等生企業は多々認められる。そのような企業がまさに生き残りをかけて取り組んでいる手法を、われわれも積極的に取り入れてこそ淘汰の時代の病院生き残り策として活用できるように思う。

  1. 病院における品質管理活動のツール
    1. 自院における品質管理活動
    2.    旧来からの症例検討会やCPC(Clinico-Pathologic Conference)も臨床の場という医療そのものの質の改善ツールであることをまず確認したい。また、最近話題のクリティカルパス2)も在院日数の短縮化とか患者に対する情報提示とかいうメリットのほかに、自院における標準化された医療の提示という意味で、いわば品質保証書としての意義も大きいと考えられる。さらに、医療機関という組織の中で臨床の場以外のサービス部門を含めた品質改善の活動としてTQC活動は産業界からの最も学ぶべきツールとなろう。
         また、今後DRG(Diagnostic Related Groups)に対応した原価管理手法やEBM(Evidence Based Medicine)といった考え方も、医療経営の視点とともに、品質保証に重要な意義を持ってくるものと考えられる。

    3. 他院とのベンチマーキング(比較検討)
    4.    自院における活動のみならず、他院と同じ土俵で比較検討することにより、その病院が持つ長所・短所を明らかにして品質の改善につなげていくことが重要であると考える。そのツールとしては各種病院団体による調査への参加や当院も加盟するVHJ(Voluntary Hospitals of Japan)地域中核病院研究会等の病院の自主的研究グループによる取り組みがあげられよう。

    5. 第三者評価
    6.    平成9年4月から本格運用された財団法人日本医療機能評価機構による第三者評価事業や国際標準規格としてISO(International Organization for Standardization)などが知られている。医療品質の評価をその@構造、A結果、B過程に分けるという考え方がDonabedianらによって示されている。
         前者の医療機能評価機構においては、「構造」に重きをおいた評価と思われる。当院も平成9年度に認定証の発行を受け、平成11年9月現在、全国で255病院に認定証が発行されている。後者のISOでは品質システムとしての設計、開発、製造、工程などの各要素で手順書、管理査証体制が求められてくる。品質評価の「過程」に重きをおいた規格と思われる。生産技術を中心とするISO 9000シリーズのほか、医療界では環境を中心にしたISO 14000シリーズが今後主流になるやも知れない。

    7. 患者による評価
    8.    顧客満足度(CS:Customer's Satisfaction)調査やアンケート調査、あるいは「投書箱」「ご意見箱」といったものにより、患者のニーズを取り上げ、それを品質管理に結びつける手法である。同時に、地域別患者シェア調査や診療圏調査などは意見とならない患者心理に基づいた実態による評価といえるかもしれない。

  2. 当院におけるTQC活動とその意義
  3.    上記のように、TQC活動はあくまでも品質管理活動のひとつのツールであり、すべてではないことを強調したい。TQC活動が他の活動と相まってこそ、その効力を発するものと考える。

       TQC活動はもともとアメリカで生み出されたものであるが、日本で花咲いた手法として理解されている。戦後まもなく導入され、昭和50年代に各企業が先を争って導入した。病院における最初の導入は昭和57年ごろとのことであり、当院では昭和63年3月に「ふれあいサークル活動」として導入し、現在36サークルが活動している。さる9月に第23回の発表大会を終えた。TQC活動は@顧客指向、A全員参加、B科学的、合理的解析手法、C小集団としてのQCサークル主体の4つを原則としている。

       この4原則からも明らかなように、TQCの手法はトップダウンではなく、ボトムアップの品質管理運動である。現場各部署における小単位のQCサークルは、自部署における業務、患者サービス上の問題点をあげ、これをQC手法と呼ばれる客観的データを重んじる解析法で解決策を模索し、評価する。だれでも、QC手法に則ればそれなりの結果を生む出せるといった特徴がある。当院では、この活動から在庫管理、待ち時間の短縮、伝達業務の見直し、サービス改善など数多くの成果を上げてきた。

       最近、TQC活動から撤退する企業、病院が多いと聞く。現場で全く問題点がなくなったとは考えにくい。しかし、閉塞感が出てきていることも事実のようである。というのは、小単位のサークルでの問題解決努力では企業全体のシステムや業務の見直しにつながらないことや、せっかくの問題解決が他の部署で取り入れられない(水平展開できない)ことなどが問題となってくる。さらに、企業や医療を取り巻く環境の変化のスピードはボトムアップを待っていられないという心理が経営側にも働いているようにも思う。

       いずれにしても、現場に問題点はなくなるわけでもないし、経営者がすべての現場の業務に精通するわけにもいかない以上、TQC活動を存続させていく意義は十分にあると思われる。

       当院のQCサークルの活動方針を紹介しておく。
    一、患者様本意のサービスを積極的に提供しよう
    一、人間性を尊重した生きがいのある明るい職場づくりをしよう
    一、自己研鑽を積みチャレンジ精神を発揮しよう

  4. TQC活動の今後
  5.    先に述べたようにTQCがどちらかというとボトムアップの手法である以上、病院の恒久的理念に則ることは可能であっても、トップからの方針に基づいたスピード経営や戦略的な経営になじむものかという危惧は生まれてくる。そのような意味で、マネジメントの一環として、最も病院が求めるテーマについて、各部門が優先的に改善活動を行うといった方向性も必要となるように思われる。このような背景のもとでTQM(Total Quality Management)というようにTQC活動の名称も変わりつつあるようである。

       最後に、QC活動は品質管理活動の1つのツールにしか過ぎないことを改めて強調したい。その上でこの活動の特色を考えてみると、まず病院管理者の品質管理に対する確固たる姿勢を提示してこそ成り立つものと考える。その姿勢のもとにおける全員参加型の活動では行う病院職員の満足感、達成感や連帯感を生み出し、従業員満足度(ES:Employee's Satisfaction)の高揚が期待される。それが最高の品質のための原資と担保になるであろうと確信している。

参考文献

1)野中郁次郎、竹内弘高、梅本勝博(訳) 「知識創造企業」 東洋経済新報社、1996
2)神野正博:クリティカルパスは手抜きのためのツール!?. 看護展望24(3):26-29, 1999


事例紹介透析患者様に統一したサービスを

キンダリー7号サークル

*本記事の図は圧縮されていますので、見にくい状況であることをお許し下さい。詳細をご覧になりたい方は掲載紙をご覧ください*
   本発表は1999年3月に開催された第22回QC発表大会の内容と、6ヶ月後の9月に提出された歯止め報告書の内容である。

【テーマ】

  紹介透析患者様に統一したサービスを提供する。

【サブテーマ】

  紹介透析患者様(他院依頼の臨時透析者)をスムーズにお迎えし、気持ちよくお帰り頂くには

図1

【発表サークル】

  キンダリー7号(透析センター)

【テーマ選定理由】

  全国に18万人とも言われる患者様が、各地の医療機関で透析を受けている。透析治療は週に3回行う事が一般的であるが、仕事や帰省、旅行などやむ得ない時、その状況にあった施設に臨時の透析依頼を行う必要がある。 図1は81年から、98年にかけて来院された148名の患者様をブロック別に表したものである。この様な患者様の中には再度ご利用頂いている方も多い。
   しかし、初めていらっしゃる透析患者様に不安を感じて治療や看護に当たっては、患者様に不安を招き、しいては信頼関係の崩壊、対応に不快を招くと考えられる。そこで今回、このような紹介透析患者様が当院を利用していただくに当たり、だれが担当しても満足度の高いサービス、質の高い医療、看護を提供する環境づくりが必要ではないかと感じ、このテーマを取り上げた。

【現状把握1】

  図2右上の折れ線グラフは81年度から97年度までの、紹介透析患者様の治療回数の推移である。4年前の95年では年間88回の治療を行っている。これは4日に1人、紹介患者様を当院にお迎えしたことになる。このような患者様は男性が多く、97年度1年間で見ると女性はわずかに16%にとどまっている。透析室の職員構成では逆に21%のみが男性職員となっている。そこで、職員で紹介患者様を受け持つことに看護サービスや対応に不安を感じるかと調査を行うと、実に79%の職員が不安を感じていると回答している。

【現状把握2】

同様に、昨年来院された患者様に職員の対応・印象について調査を行った。職員の不安と異なり回答は図3に示すように満足行くものであった。一方、職員の不安は何に起因しているか具体的に調べてみると、針刺しなど透析治療に関するものが41%、施設の案内、受付、精算などシステムに関するものが59%であることが分った。

【目標設定】

  紹介透析者様の職員対応評価、現状良好の100%を現状維持。スタッフの紹介患者様対応不安。50%減の39.5%を目標に設定した。


図2
図3
図3

図4

【要因分析】

  ここで、なぜ不安が生じるのか、特性要因図を用いて、5つの視点から要因を探ってみた(図4)。看護者側では、初めての来院者の方への情報不足、情報の活用が十分にできない。関連部署では、連絡手順が明確でなく、いつ、だれが、どこに、何を、どうすればよいか基準がない。受け入れ体制(システム)では、紹介者の受け入れからお見送りまでの一連の役割や基準が整備されていない。患者様側では、来院から治療までが短時間で説明が十分にできず、コミニュケーションがとれないなどの5つの問題点、3つの重要要因が浮き彫りになった。

【対策の立案と実施】

  先の特性要因図から、各要因に対して対策を立ててみた。「患者様情報の活用が十分に行われない」では、紹介患者専用カーデックスを作製し透析条件等のほか、予想される問題点をあらかじめ標準看護計画を刷りこみ対応した(図5)。同時に受け入れ状況のチェックができる欄を設けた。「連絡手順が明確でない」から、医事の清算など関連部署との連絡票を作成した。「役割や基準が整備されていない」では、ガンチャート、アセスメントツールからフローチャートを作成、受け入れ体制を整理、クリティカルパス様式で役割分担やシステムの問題などを明確にしてみた(図6,7)。また、手順を含めたガイドブックを作製。患者様との間に十分な「オリエンテーションが取れない」に対しては、担当看護婦が自己紹介時に名刺を作成、この裏面に説明不足となるような事項を200字程度記入、透析開始の自己紹介時に渡し、信頼関係形成を試みた(図8)。


図5

図6

図7

図8

【効果の確認】

  有形の効果、対策の結果、2つの目標に対して、紹介患者様の評価は、期間中の来院がなかったことでデータを紹介することができず、張りきっていた私どもにしては誠に残念であった。2つ目の目標、職員対応への不安払拭は、図9に示すごとく79%の不安を38.5%まで削減することができた。具体的不安項目も対策前の29件から4件へと減少。また、無形の効果に記したように、ガイドブック作成に伴い、透析診療報酬点数を資料に加えたことにより病院経営への参画意識が高まった。QC取り組みとともに、多くの患者様から礼状をいただき、ますます透析医療患者サービスに意欲が出てきた。

【歯止め】

  次の3項目、患者満足度調査の継続、ガイドブックの充実、システム整備を、5W1Hを用いて取り組みとした(表1)。

項目

(What)

個別目的

(Why)

担当

(Who)

場所

(Where)

日時

(When)

具体的項目

(How)

患者満足度調査の継続

調査方法と活用の検討

HD全員

HD

1回/半年

調査集計、活用方法

ガイドブックの充実

内容の見直し、補充

サークルメンバー

HD

1回/半年

追加事項の検討、内容充実

システムの整備

他部署と協力体制強化

HD全員

HD

1回/半年

連携、情報の定期的提供


表1 歯止め

【反 省】

  対象期間中に紹介患者様の来院がなかったことで、システムの不備を点検することができず、また紹介患者様招致に積極性がなく、受動的であったことなどの多くの反省点があげられた。

図10

【今後の対策と課題】

患者満足度調査が調査のための調査で終わらぬようにフィールドバックし、医療の質向上と総合的な満足度の高いサービスを提供する。また付加価値のある看護サービス、理想のトータルイメージを発信できるセクションとして今後も取り組みを継続して行いたい(図10)。

【歯止め報告】

  歯止め期間の紹介患者様の来院は12名、21回の治療を受け帰院された。アンケートでは担当スタッフ、病院職員対応の評価はすべてに「よい」と回答を得た(表2)。しかし、ガイドブックの充実では、具体的な変更も行われず、システムの整備も地域連携室との連絡整備のみ行われた。今回、歯止め期間中の対策として、当院への紹介をいただいた施設への礼状を改訂するとともに、当院より紹介した施設への礼状資料を作製、より多くの来院者によりよい治療を提供できるように環境整備を進めていきたい。

項目・時期

歯止め期間

調査項目

よい

普通

悪い

透析職員の対応・印象

病院職員の対応・印象

再度来院時に当院を利用されますか

はい

いいえ

わからない


表2 歯止め報告(平成11年3〜9月):紹介透析患者様アンケート調査結果


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