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国際標準で財務を公表することは病院の社会的責任
董仙会はなぜ、先駆けて会計基準を変えたのか−A導入の実際と今後の展望

隔週刊「全日病ニュース」(社団法人全日本病院協会) 第608号・2004年12月15日号
シリーズ:病院経営の改革に取り組む


病院経営の改革に取り組む●第4回 財務戦略と会計基準A
病院会計に新基準を導入するメリットは、キャッシュフローの把握など多々あるが、大局的には、@企業の経営手法を導入したり連携を実現する上で共通言語となる、A今後多様化していく資金調達の際に信用獲得の基礎となる、B公私病院間で経営状態の比較が可能となり真の機能分担が議論できる、C新たな医療法人制度を確立し病院経営の安定化を図る上で必須となる、点などに求められる。
「株主利益の保護」を除くと、企業に課せられている社会的責任はすべて病院にも該当する。したがって、経営を社会に公開・説明できることが、今後、民間病院が存続し続ける条件の重要な1つになると董仙会は考えている。

 前回(10月15日号)で、董仙会が、制度改革とはまったく関係なく独自に、病院に新会計基準を導入した戦略論を詳述した。今回は、わが法人における新会計基準の実際と、今後の、資金調達と民間医療機関のあるべき論について述べてみたい。

新会計基準は信用上の共通言語。「認定医療法人」にも採用か。

新会計基準導入の実際

 既に、新会計基準については、専門家である会計士やコンサルタントを生業としている方々から詳細な解説がなされている。専門家でなく、しかも一介の医師に過ぎない私が詳述したところで、受け売りか誤った記載になるに違いない。したがって、病院経営者として理解したことのみを述べさせていただく。勝手ながら、細かいことは専門家に任せ、経営者は、選択肢の中からどれを選ぶかという決断とそれに伴う責任を負えばよいと思っているからである。
 新会計基準は、@退職給付会計、A税効果会計、Bキャッシュフロー会計、Cリース会計、D有価証券の時価申告などからなる。私なりの理解からすると、従来の会計基準は支払いが発生(損金)して初めて計上されるものが、新会計基準では、原因が発生した時点で将来の費用を計上していくものといえよう。
 そこで、特に退職給付会計においては、現在働いている労働者に支払うべき退職金(年齢構成により年金数理士が計算する)を、労働が発生した時点で毎年積んでおくという考え方になる。すなわち、職員が退職する時に当然発生する退職金を用意しておかないということは未来に対して隠れ負債があるということになってしまう、と理解されよう。
 当法人では、新会計基準導入時にこの退職費用が約11億1,500万円に上った。しかし、将来この退職金が実際に発生した時点の税金約3億2,500万円は、繰延税金資産として資産計上できるため、この差額が会計基準移行時の損金となったわけである。
 最長15年まで償却が認められているものの、医療制度の好転は期待できないとの判断のもと、「将来の憂いは今のうちに」という考えから一括償却することにしたものの、この期の黒字はこの差額に達していないために、大きな損金を計上したことになったわけである。
 振り返ってみると、当法人では導入年度である平成12年度が右肩上がりで増加していた事業収益のピークの時であり、翌年度から収益カーブは下降している。正直、翌年以降に新会計基準導入と一括償却の判断ができたか、自信はない。

新会計基準導入のメリット

 デメリットは前述の通り、特に退職給付会計における隠れ負債の顕在化に他ならない。メリットとしては、キャッシュフロー会計などは、帳簿上とは異なった現金の動きを見ることで事業活動が安定しているかどうかの指標となりえよう。これらとは別に、大局的にみたメリットについてまとめてみたい。

病院の社会的責任をはたすために

 CSR ( Corporate Social Responsibility 企業の社会的責任)は、企業にとってその存続をも左右する重要な視点となっている。
 企業に課せられているCSRとして最も原則的なものは「規範の遵守」、「製品(病院ではアウトカム)・サービスの提供」、「収益の確保と納税」、「株主利益の保護」であり、さらにこれに加え安全、雇用、環境問題から経営上の問題にいたるまで透明性の確保と説明責任などの対応が求められている。
 「株主利益の保護」を除いて、全て病院の社会的責任にも当てはまることである。退職金の保証という雇用に対する責任ばかりではなく、不正を排し、経営の透明性を担保していくためにも、会計基準を他産業と同じくすることは十分意味のあることに違いないと考える。
 厳しき時代であるからこそ、我々は襟を正して公正に医療を行っていかなければならない。そういった意味で、財務状況も国際標準として世に明らかにしていく気概も必要であると思う次第である。

表1 一般企業と医療法人における資金調達の比較

一般企業

医療法人

エクティ・ファイナンス

株式発行

公募増資

転換社債

新株引受権付社債

株主割当増資

3者割当増資

デッドファイナンス

普通社債

コマーシャルペーパー(CP)

銀行借入れ

アセットファイナンス

債権流動化

不動産流動化

エクティ・ファイナンス

創業者出資

デッドファイナンス

銀行借入れ

縁故者借入れ

病院債 *

アセットファイナンス

債権流動化 *

不動産流動化 *

                                 *今後の流れとして本文で解説

2 法人形態の分類

 

非営利

営利

公益

(広義の)公益法人

公共企業

社団法人(民法)

財団法人(民法)

学校法人(私立学校法)

社会福祉法人(社会福祉事業法)

宗教法人(宗教法人法)

医療法人(医療法)

更生保護法人(更生保護事業法)

特定非営利活動法人(特定非営利活動促進法)

 

電気会社(商法・個別事業法)

ガス会社(商法・個別事業法)

鉄道会社(商法・個別事業法)

非公益

中間法人

営利企業

労働組合(労働組合法)

信用金庫(信用金庫法)

協同組合(各種の協同組合法)

共済組合(各種の共済組合法)

株式会社(商法)

合名会社(商法)

合資会社(商法)

有限会社(有限会社法)

相互会社(保険業法)


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