「船上のメリークリスマス」 page 2
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彼の事を知ったのは、FBIに入ってすぐに配置された、中米のゲリラ組織の殲滅作戦の最中だった。 難航を極めた捜査が一転してスピード解決を迎えたのは、「彼」の協力があったからに他ならない。 世界的名探偵で、犯罪捜査のエキスパート。 そして、「L」と言う名前。 新米の俺が知り得る事の出来る情報は、それだけだった。 『私はLです』 名探偵と聞いて、シャーロック・ホームズやエルキュール・ポワロを勝手に想像していた俺は、その声を聞いた時、正直驚いた。 恐らく二十歳にも満たないであろう青年のそれ。 通常の状態であったならば、声の主がL本人かどうか疑ってかかったかも知れない。 しかし、ゲリラ組織に拉致され、見知らぬ部屋で目を覚ました俺に そんな余裕は無く。 動転していた俺に、彼はマイペースに、次々と指示を出してきた。 戸惑いながらも言われた通りに小さな作業をこなす内、いつの間にか俺は落ち着きを取り戻し、彼を自然に「L」と呼んでいた。 完璧な交渉人なら いくらでもいるだろう。 でも、それが出来る「青年」は、世界に そうはいない。 彼が居なければ、今 俺が こうして無事で居る事も無かったのではないかと思う。 天才の頭脳、そこから生まれる圧倒的な推理力、しかし、それだけではない。 『自分を信じて』 孤独と恐怖に呑み込まれそうになる俺の心を、彼が守り、支えてくれた。 出来る事なら彼に会って、感謝の気持ちを伝えたい。 でも、その願いが叶わない事を、俺は知っていた。 交渉人は自らが現場に赴く事は無く、そして自らが救出した人質と会う事も無い。 彼が「L」ならば なおの事。 それでも・・・・ もう二度と彼に繋がる事は無いであろうPDAを、俺はキツく握り締めた。