「船上のメリークリスマス」 page 5
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ふと思いついた俺は、胸ポケットに仕舞っていたPDAを取り出した。 こんな所に一人で座っていると、どうしても感傷に浸ってしまう。 ジェフリーが言っていたモノを探してみようと思い立った。 それは恐らくイースターエッグ。 プログラマーが自分の作ったプログラムに こっそりと忍ばせる小さな仕掛けだ。 本来の機能とは全く関係の無いゲームだったり、プログラマーの家族の写真だったり。 誘拐したFBI捜査官に持たせるPDAに そんな仕掛けをする彼は、いかにもプログラマーらしい。 だが、リアリズムには欠けている。 だからこそ、あれほどの頭の良さでありながら、グラナダ号が米軍によって撃沈された後、クリエラで再び紛争が起こってしまう・・・そのシナリオまで辿り着けなかったのだろう。 あちこち弄っていた俺の目に、一つの映像が飛び込んできた。 そしてスピーカーから流れ出す音楽・・・この美しい旋律には、聞き覚えがある。 確かタイトルは―― 『そうだ、これをLに・・・』 思わず通話ボタンを押しそうになった俺は、ハッとした。 すっかり癖になっていた、Lへの逐次報告。 一瞬、事件が終った事を忘れていた。 俺はPDAを床に置いて項垂れた。 その時、突然Call音が鳴った。 PDAを慌てて拾い上げて通話ボタンを押すと、映し出される 見慣れた「L」のロゴマーク。 向こうが話すより先に呼びかけた。 「L・・・!」 「・・・はい」 二度と聞けないと思っていた声は、相変わらず素っ気無い。 俺は手の震えを押さえるのに必死だった。 「貴方が急に姿を消すもので、捜査官達が心配しているようですよ 一体何処に居るんですか」 「あ、えっ・・と」 「当ててみましょうか・・・プロムナードデッキの端ですね」 「わ、正解です 画面に映る景色だけで分かったんですか? 流石ですね」 ブリッジで監視カメラの映像を見ながらPDAを耳に当てていた青年が、ふっと笑みをこぼした。 彼が見ているテレビ画面には、甲板に座り込む、くたびれたスーツの男が一人映っていた。