「船上のメリークリスマス」 page 8
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ヘリポートに戻るまでの記憶はあまり無かった。 促されるまま一機のヘリに乗り込んだ俺は、目の前の席に座った後、泥のように眠り込んでしまった。 しばらくして・・・ 鼻を掠める甘い匂いに、俺は薄っすらと目を開けた。 耳に入るプロペラの回転音が、何だか心地良い。 「いかがですか?」 温和そうな老紳士が可愛らしいプリンを差し出した。 その声に聞き覚えはあったが、誰なのか思い出せない。 なぜプリン・・・?と思ったが、とにかく腹に入るものなら何でも欲しかった。 ほぼ一口でプリンを完食した俺は、目を丸くした。 「うまい・・・!」 カラメルがかかったのみの、とてもシンプルなプリンだったが、今まで食べた どんなプリンよりも美味かった気がする。 ろくに味わわずに呑み込んでしまった事を激しく後悔した。 その時、俺はラウンジでのLとの会話を思い出した。 『船を下りたら貴方にプレゼントを贈ります 幻のデザート職人特製の秘密のプリンを・・・』 まさか・・・そんなはずは無い。 あれは俺の緊張を解す為にLが咄嗟に持ち出した冗談で―― 「貰いっぱなしと言うのは、私の性分に合いません それに、一方的に別れを告げられるのも気に入りません」 突然、後方から掛けられた聞きなれた声。 心臓が掬い上げられたようにドクリと波打つ。 俺は、ゆっくり後ろを振り向いた。 最初に目に入ったのは、色褪せたジーンズ、そこから覗く裸足の爪先。 PDAを持つ細い指、白いシャツ。 そして、 「救出した人質とは会わない・・・それが交渉人のルールです しかし考えてみれば、貴方は人質ではない」 「私の・・・相棒ですから」 黒い瞳を見た瞬間、俺は目の前の青年が「L」であると確信した。