x3 + y3 = z3 をみたす 0 ではない整数 x、y、z は存在しない


x3 + y3 = z3 (x,y,z は 0 ではない整数)とします。 x,y,z より小さい x',y',z' に対して (x')3 + (y')3 = (z')3 を満たすことを示します。

x, yが互いに素ではないとき

x, y が素数 p で割り切れるとすると、z も p で割り切れ、 (x/p)3 + (y/p)3 = (z/p)3 となるので、 x, y, z よりそれぞれが小さい x/p, y/p, z/p に対しても主張 ((x')3 + (y')3 = (z')3 を満たす) が成り立っていることになります。

x, yが互いに素のとき

このとき x, z も互いに素となり、y, z も互いに素となります。 x, y, z のうち、1個は偶数、2個は奇数となるので、 x, y, z を適当に入れ替えて、x, y は奇数となるようにする ことができます。

Z を整数全体の集合、C を複素数全体の集合とします。 w を X2 + X + 1 = 0 の根の一つである、C の元とします。 (p を p2 = -3 となる元の一つとすると、 w = (-1 + p)/2 または w = (-1 - p)/2 となります。 このとき w3 = 1 となります。) R = Z[w] = { a + bw : a, b は Z の元 } とおくと、 w2 + w + 1 = 0 なので、R は となります (加法、減法、乗法に関して閉じています)。 R の部分集合 S, T に対して、 S + T = { s + t : s は S の元、t は T の元 }、 R の部分集合 S と R の元 u に対して、 Su = { su : s は S の元 } とします。 R の部分集合 I が、加法、減法に関して閉じていて、 任意の R の元 u に対して Iu ⊆ I をみたすとき、 R のイデアルといいます。 R のイデアル I, J に対して、 IJ = { s1t1 + s2t2 + ... + sntn : si は I の元、tj は J の元 } とします。 IJ は R のイデアルになります。 R のイデアル I に対して、 In = II...I (n個)とします。 R のイデアル I, J に対して、 I + J は R のイデアルになります。 u を R の元とすると、Ru は R のイデアルになります。 u, v を R の元とすると、R(uv) = (Ru)v = (Ru)(Rv) となります。

I を R のイデアルとします。 R の元 r に対して、r + I = { r + x : x は I の元 } として、 (r + I) + (s + I) = (r + s) + I、 (r + I) - (s + I) = (r - s) + I、 (r + I)(s + I) = (rs) + I と定義します。 r + I の全体の集合 R/I は環になります (上に定義した加法、減法、乗法に関して閉じています)。

x3 + y3 = z3 なので、 (x + y)(x + yw)(x + yw2) = z3 となります。 したがって、 (R(x + y))(R(x + yw))(R(x + yw2)) = Rz3 となります。

R(x + y) + R(x + yw) = R(x + y) + R(x + yw2) = R(x + yw) + R(x + yw2)
となります。 (証明) これを I とおきます。
I = R(x + y) + R(x + yw) = R(x + y) + R(y(1 - w)) ⊇ R((x + y)(1 - w)) + R(y(1 - w))
= R(x(1 - w)) + R(y(1 - w)) = (Rx + Ry)(R(1 - w)) = R(1 - w)
となります。 (証明)

R の元 x = a + bw (a、b は Z の元)に対して N(a + bw) = a2 - ab + b2 と定義すると、N(x) は正の整数(x = 0 のときは 0)で、 N(xy) = N(x)N(y) が成り立ちます。 (証明) N(x) = 1 となる x は、 x = 1, -1, w, -w, w2, -w2 のどれかになります。 (証明) R の元 x、y (y は 0 ではない)に対して x = yq + r、 N(r) < N(y) となる R の元 q、r が存在します。 (証明) I を R のイデアルとするとき、x を N(x) が最小となる 0 ではない I の元とすると、 I = Rx となります。 (証明) このように、すべてのイデアルが Rx という形になるものを 単項イデアル環( 整域のとき 単項イデアル整域(PID))といいます。

N(1 - w) = 3 なので、I = Rx とすると、N(x) = 1 または N(x) = 3 となります。 したがって、I = R または I = R(1 - w) となります。 (証明)

I = R のとき

R(x + y) + R(x + yw) = R(x + y) + R(x + yw2) = R(x + yw) + R(x + yw2) = R
となります。

R が PID のとき、I、J、K が R のイデアルで、IJ = Kn、I + J = R ならば、I = Ln、J = Mn となるような R のイデアル L、M が存在します。 (証明)

よって、 (R(x + y))(R(x + yw))(R(x + yw2)) = Rz3 なので R(x + y) = K3, R(x + yw) = L3, R(x + yw2) = M3 となる R のイデアル K、L、M が存在します。 (証明) R は PID なので、 R(x + yw) = R(a + bw)3 となる整数 a、b が存在します。 x + yw = e(a + bw)3、 e = 1, -1, w, -w, w2, -w2 となります。

(x + yw) + R2 = (e + R2)((a + bw)3 + R2),
(x + yw) + R2 = (1 + w) + R2,
(a + bw)3 + R2 = R2 または 1 + R2
から、e + R2 = (1 + w) + R2 よって e = w2, -w2 となります。 よって a, b を適当に変えると
x + yw = w2(a + bw)3 = w2 (a3 + b3 + 3a2bw + 3ab2w2)
= (a3 + b3)w2 + 3a2b + 3ab2w = (3a2b - (a3 + b3)) + (3ab2 - (a3 + b3))w
となり、
x = 3a2b - (a3 + b3),
y = 3ab2 - (a3 + b3),
(証明) (これから Rx + Ry ⊆ Ra + Rb ということがわかります。)
x + y = 3a2b + 3ab2 - 2(a3 + b3) = 3ab(a + b) - 2(a + b)(a2 -ab + b2)
= -(a + b)(2a2 -5ab + 2b2) = -(a + b)(2a - b)(a - 2b)
(これから R(x + y) ⊆ R(a + b) ということがわかります。) となります。 したがって
R(x + y) = (R(a + b))(R(2a - b))(R(a - 2b))
となります。 a + b = (2a - b) - (a - 2b) なので、
J = R(a + b) + R(2a - b) = R(a + b) + R(a - 2b) = R(2a - b) + R(a - 2b)
となり、 (証明) また、
J = R(a + b) + R(3a) ⊇ R(3a + 3b) + R(3a) = R(3a) + R(3b)
= (R3)(Ra + Rb) ⊇ (R3)(Rx + Ry) = R3
となり、 (証明) J = R または J = R(1 - w) または J = R3 となります。 (証明)

J = R(1 - w) または J = R3 とすると、

R(1 - w) ⊇ J = R(a + b) + R(2a - b) ⊇ R(a + b) ⊇ R(x + y),
R(1 - w) = R(x + y) + R(1 - w) = R(x + yw) + R(1 - w) ⊇ R(x + yw),
R(1 - w) ⊇ R(x + y) + R(x + yw) = R
となりますが、これはありえないので、J = R となります。 (証明)

よって、 R(a + b) = S3, R(2a - b) = T3, R(a - 2b) = U3 となる R のイデアル S, T, U が存在します。 (証明)

e(a + bw)3 (e = 1, -1, w, -w, w2, -w2, a, b は Z の元、a, b は互いに素)が Z の元であるとします。 e = w, -w とすると、 a3 - 3a2b + b3 = 0 となるので、a + b は 3 で割りきれます。 b = 3c - a とおくと 3a3 + 27c3 - 27ac2 = 0 となって、a も 3 で割りきれることになるので、 e = w, -w の場合はありえないということになります。 e = w2, -w2 の場合も同様にありません。 e = 1, -1 のときは、ab(a - b) = 0 となって、 a + bw または (a + bw)w または (a + bw)w2Z の元ということに なります。 a, b は互いに素ではないときは、 a/c, b/c が互いに素になるような Z の元 c をとると、 (a + bw)/c または (a + bw)w/c または (a + bw)w2/c は Z の元 なので、 a + bw または (a + bw)w または (a + bw)w2Z の元ということに なります。 (証明)

よって、 a + b = s3, 2a - b = -t3, a - 2b = -u3 となる Z の元 s, t, u が存在します。 s3 + t3 = u3 となるので、 s, t, u に対して主張が成り立っているということになります。

N(x + y)N(x + yw)N(x + yw2) = N(z)3 なので、 N(x + yw) = N(x + yw2) = 1 とすると、x = 1, -1, y = 1, -1 となり、 N(z)3 = N(x + y) = 0, 4 となってしまうので、 |x + y| < |z|3 となり、 |s3t3u3| = |x + y| < |z|3 となります。また、同様に、|s| も |t| も |u| も 1 ではないので、 m を |x| と |y| の大きいほうとすると、 |s3t3u3| = |x + y| ≦ 2m より |s3| < m、|t3| < m、|u3| < m となり、|s|, |t|, |u| は、|x|, |y|, |z| の最大のものより小さくなります。 (証明)

I = R(1 - w) のとき

R(x + y) + R(x + yw) = R(x + y) + R(x + yw2) = R(x + yw) + R(x + yw2) = R(1 - w)
となります。

R(x + y) ⊆ R(1 - w)、R(x + yw) ⊆ R(1 - w)、 R(x + yw2) ⊆ R(1 - w) なので R(x + y) = (R(1 - w))D、R(x + yw) = (R(1 - w))E、 R(x + yw2) = (R(1 - w))F となるような R のイデアル D、E、F が存在します。 (証明) D + E = D + F = E + F = R、 (証明) (R(1 - w))3DEF = (Rz)3 となるので、 R が PID であることから、 D = K3, E = L3, F = M3 となる R のイデアル K, L, M が存在します。 (証明) R は PID なので、 R(x + yw) = (R(1 - w))(R(a + bw))3 となる整数 a, b が存在します。 (x + yw) = e(1 - w)(a + bw)3, e = 1, -1, w, -w, w2, -w2 となります。

(x + yw) + R2 = ((1 - w) + R2)(e + R2)((a + bw)3 + R2),
(x + yw) + R2 = (1 + w) + R2,
(a + bw)3 + R2 = R2 または 1 + R2
から、e + R2 = 1 + R2 よって e = 1, -1 となります。 よって a, b を適当に変えると
x + yw = (1 - w)(a + bw)3 = (1 - w) (a3 + b3 + 3a2bw + 3ab2w2)
= (a3 + b3 + 3a2bw + 3ab2w2) + (- a3w - b3w - 3a2bw2 - 3ab2)
= (a3 + b3 - 3ab2) + (3a2b - a3 - b3)w + (3ab2 - 3a2b)w2
= (a3 + b3 - 3ab2) + (3a2b - a3 - b3)w + (3ab2 - 3a2b)w2
= (a3 + b3 - 6ab2 + 3a2b) + (6a2b - 3ab2 - a3 - b3)w
となり、 (証明)
x = a3 + b3 - 6ab2 + 3a2b
y = 6a2b - 3ab2 - a3 - b3
(これから Rx + Ry ⊆ Ra + Rb ということがわかります。)
x + y = 9a2b - 9ab2 = 9ab(a - b)
となります。 したがって
R(x + y) = (R9)(Ra)(Rb)(R(a - b)) = (R(1 - w))K3
となります。
J = Ra + Rb = Ra + R(a - b) = Rb + R(a - b)
となり、 (証明) また、
J = Ra + Rb ⊇ Rx + Ry = R
となり、J = R となります。 (証明)

よって、 a = s3, b = -t3, a - b = u3 となる Z の元 s, t, u が存在します。 s3 + t3 = u3 となるので、 s, t, u に対して主張が成り立っているということになります。

前の場合と同様、|s|, |t|, |u| は、|x|, |y|, |z| の最大のものより小さくなります。 (証明)