しかし、実際に患者が存在し、患者のために病院があり、また良質な医療を目指す以上、採用時における医師の選択と採用後の教育に重きを置かざるを得ない。さらに、採用後に一人一人の医師における生産性の向上を支援する努力が病院組織として必要になってくることは当然と考える。
最近、医療界の外ではネット関連企業の勃興がめざましい。これら企業の特徴はカリスマ的なリーダーによる強い牽引力とアジル(俊敏な)経営にあると思われる。旧態とした病院組織においても、これからの厳しい医療経済状況を予想するならば、同様な経営手法にシフトする必要性があると思われる。そこでは、病院の目指す明確な方針を実現するための能力(コンピタンシー)開発が必要となる。医療の中心となる医師においても例外とすることなく、病院としての意志とリーダーシップを持ってコンピタンシー能力を引き上げさせる仕組みが必要となってこよう。
また、医師の研修に際しては医師の中でのメリハリを持った階層化も必要であると考える。さらに、病院に関わる情報の中で「医師が知る情報」「医師が知らなくてもいい情報」「医師が知るべき情報」を整理し管理していく必要もあろう。
一般医師 | エクゼクティブドクター | |
役割 | 兵力 | 看板(カリスマ) |
病院側から求めるもの | いいお医者さん (患者受けのいい医師) | 指導力、病院への貢献 |
給与 | 年功序列 | 能力(業績)給 |
研修体制 | 臨床的側面 | 臨床+経営的側面 |
まず、学術的な支援として医局内にインターネット専用線を敷設し、各個人のコンピュータまで常時接続の環境を整備した。また、和文文献検索に対応するため、医学中央雑誌のCD-ROM設置、さらにスライド作製やデジタルビデオ編集機能をもつOA機器などを整備している。また、薬剤情報(日本医薬品集LAN版)や救急プロトコール、中毒情報などはイントラネットで院内のすべてのオーダリング端末で参照可能な環境を整備している。
また、診療面ではオーダリングシステム1)やそれに付随する電子クリティカルパスシステム2)などで医師の転記作業を徹底的に削減した。
さらに、経営的な側面では、薬品、医療材料、さらに検査外注代金の価格交渉や在庫調整は全く現場の医師が関与することではない(医師が知らなくてもいい)というスタンスに立った。これらの交渉や管理業務は経営者や事務部門がすることであり、医師の本来業務ではないからである。薬事審議会、診療材料委員会に正当な理由を持って申請した物品に対しては、納入価を気にすることなく、臨床的判断のみで思う通りに使用できる体制とした。すなわち、これを「質とやる気を落とさないリエンジニアリング」3)と銘打って、全病院的な取り組みを行った。
すべての医師が納得できる評価の指標の策定は現実問題として困難を極める。当院においては、まずエクゼクティブドクターに対して目標管理とヒアリングという指標をもって行っている。さらに、ヒアリングの際には、病院側から提示できる資料として、患者数、手術件数、検査件数や医療収入等の医事統計資料と原価管理システムに基づく医師別収益、疾病別収益などもあわせて提示している。徹底したヒアリングとディスカッションにより、病院が求める「あるべき姿」と医師側の思いのすりあわせを行うこととしている。
すなわち、医師のモチベーションの高揚には通信簿的な評価ではなく、いかに価値ある仕事であるかを病院側と医師側が共有することにあると思う。これは、プロ野球選手の契約更改交渉に類似するかもしれない。
また、一般医師に対する評価はエクゼクティブドクターを通しての評価を中心に据え、、患者アンケート、投書、さらにはパラメディカル職員からの評価に積極的に耳を傾け、派遣元との交渉に利用している。
医療政策の流れは、急性期と慢性期、プライマリー・ケアと専門医療、保険診療と自費診療、本業以外のアウトソーシングなどといったキーワードで括ることができる。これは物事にメリハリをつけることであると理解できる。医師の研修においても、すべての医師に対して同様な扱いをする時代からメリハリを持って、その役割に応じた研修体制を組むことが妥当であろうと思われる。