医療における情報の開示
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大病院の外来部門は生き残れるか
「外来看護新時代 VOL.4, No.4」(日本総合研究所・日総研出版) 1999年7月発行
特集:読者が知りたい外来看護実践情報
はじめに
現在、2000年実施に向けての医療保険制度改革論議が盛んだ。国はミレニウム(1000年単位)の区切りとして、介護保険制度と共に、これからの日本の医療と福祉制度に一定の道筋をつけようとしているようである。その中で、第4次医療法改正と密接にリンクした診療報酬体系の見直し案が示されようとしている。ここで注目されるのは病院の類型化とそれに向けての経済的誘導ということになるであろう。それは、時間軸の類型化として急性期、慢性期病床の区分(医療法)であり、機能面の類型化として外来はかかりつけ医、入院は病院、そしてその連携(診療報酬体系)ということになろう。
このような変化は、われわれ医療職における仕事の質や今行っている業務の流れの見直しを強いるものであろう。さらに経済的誘導が予想される以上、変化に適応せず旧来の仕組みに固執することは淘汰の対象となろう。
本稿では、特に厚生省の診療報酬体系見直し作業委員会で示された「200床以上の大病院は紹介患者を主流に取り扱うこと、外来全般としての評価として『外来基本料』という定額制を打ち出したこと、他施設との連携を評価すること」といった方針に対して私見を述べることとする(診療報酬体系見直し作業委員会報告書はインターネット厚生省ホームページ http://www.mhw.go.jp/search/docj/other/topics/iryo-ho/tp0113-1_19.html で参照可能)。
1.医療経済の原則と4つの適応
医療という業界は、ほかの業界と違った特殊なものであろうか。確かに人の命を扱っている業種であり、それ故に公共性や奉仕の精神が求められる。しかしながら、日常の医療行為を「お客様である患者様に医療サービスを提供し、それに対して対価を頂く。この中から材料費やスタッフの給与などを支払い、残りは利益となる。この利益を資本とする」というように単純化して整理してみれば、何ら一般の企業と変わるものではない。すなわち、医療の収入源はサービスの質と量に尽きるということを改めて強調し、確認したい。
ここでサービスの質の基準として、4つの適応を示したい。すなわち、制度適応、技術適応、顧客適応、市場適応である。
制度適応は、まさにこれからの医療保険制度改革にどう適応していくか本編の主題である。しかし、何も先読みしてまで変革する必要はない。現行制度の下では、現行制度のメリットを最大限享受することが大切である。そして、新しい制度に対する戦略の蓄積を図った上で、制度改変と同時に速やかに転換すべきである。
医療職は技術集団である。どんなに機械化しても、個々の職種における技術の向上とそれに向かう姿勢なくして、サービスの質は語れないであろう。
インフォームドコンセントを求める顧客、市場の台頭は、外来機能の中で量より質への転換を促すであろう。また、世の中の情報化の流れは、医療にスピードと電子化を促すことだろう。また、顧客である患者の心理は、各種先端医療機器が揃った大病院へ指向する。マスコミなどによる情報が多ければ多いほど、この心理は大きいものとなろう。外来規制がかかった後でも、この心理に対していかに応えることができるか?これもひとつの鍵となっていくであろう。
2.業務を見直す3つのキーワード
制度改革への対応や日常業務の見直しに以下の3つのキーワードで論点を整理することをお勧めしたい。
- セルフアセスメント(自己評価)
- ベンチマーキング(比較検討)
- ミッションコア(本来業務)
ここでは、外来機能に沿って現状を考えてみたい。まず、セルフアセスメント(自己評価)として、外来患者数が問題となろう。その中で単に数だけではなく、時間軸の患者数が重要であると思われる。特に午前と午後の体制として、午前だけに偏っていないか。午前の仕事量で人員不足の状況にあったとしても、午後の仕事量ではどうなるか。特に手術が絡む外科系外来で午後休診が多くないか。そうであるならば、午後の外来看護職員は手術室など他部門への応援ができないものだろうか。また、外来に関わる医師、看護、事務職員の分担がはっきりしているか。外来の各種検査に関わる職員の配置はどうなっているか。検査専任職員をつけたほうが効率的か否かなど、まず現状の把握とその問題点を浮き彫りにすることが重要であろう。
その上で、問題解決の1つのツールとしてベンチマーキング(比較検討)が有用であろう。比較検討の対象として、ほかの医療機関がある。しかし、さらに有用な比較の対象として、ほかの業種がある。例えば、コンビニエンスストアは倉庫を持たないにもかかわらず、売れ筋商品が欠品なく棚に満ち溢れている。また、ホテルでは入り口にベルボーイ、ベルガールが待機し、お客様に便宜を提供し、チェックアウトの際にはフロントのキャッシャーで客を待たせることなく清算手続きを完了させる。これらは、それぞれ医療機関の外来診療を考えたとき、材料管理と搬送、フロントマンの設置、会計のコンピュータ化および迅速化などにそのまま置き換えることができよう。
そして、組織の中で従来の業務の見直しや、新規業務の遂行のときに、最も問題となるのが「誰が」行うかという点になることはよく経験する。その解決のための1つの方程式としてミッションコア(本来業務)という見方を提唱したい。すなわち、各職種の本来業務を考えてみることが重要である。果たして外来の診療材料棚の整理や在庫管理、物品請求は看護婦の本来業務か、処方箋への薬剤名の記載や検査伝票の記載は誰の仕事か、処置の保険点数取りは誰の仕事か、予約の管理は誰の仕事か。
これらの問いに対する答えは、個々の医療機関によって異なるかもしれない。しかし、各職種の本来業務とは何かを明確にすることが、重要となるものと思われる。
3.外来診療におけるコスト管理
今後の医療機関における機能の類型化は、はじめに述べたように診療報酬に誘導される以上、その診療報酬の額と仕組みが明らかにされない段階ではコメントのしようがない。しかしながら、その時まで(過去の例からすると、全貌が明らかになるのは改定直前)悠々としていることができるかということになる。もし、自院が補助金や公的資金を当てにしないで生き残っていく必要があるならば否である。
入院診療に比して、外来診療の仕組みは極めてシンプルなものとなっている。外来診療は1日で完結するわけである。すなわち、外来診療が終わって会計窓口に患者が行った時点でオーダーされたすべての処方、検査、処置などが実施され、終了しているわけである。これに対して、入院医療では入院費や看護料の在院日数による逓減性のほか、その日が終わらないと、すべてのオーダー内容が実施されたかどうかは確定されていないということになる。
このように考えると、外来診療はコスト(原価)管理の手法になじむものとなろう。しかも、時間単位の原価管理が可能である。すなわち各種医療行為の実施確定時点で、各々の行為に原価を付与し、それを足し算することにより、一人の外来患者にかかる時間単位の原価管理が可能となっていくものと思われる。
今後、病院外来の類型化により、診療報酬の“まるめ”と呼ばれる包括化の導入もあり得るようである。その際に、上述の現状の体制における自院の患者別原価の蓄積を検討することで、包括化によって従来のままの医療水準でよいのか、改変が必要なのか、それを知る重要な手がかりを与えてくれるに違いない。例えば、従来から批判の矢面に立ってきた「3時間待ち3分診療」での外来患者にかかるコスト(原価)と「予約制による10分診療」での患者にかかるコスト(原価)と比べて、もし利益に3倍の差がないならば、いかにして生産性を上げるか、それとも外来部門に別の意義を見出すか検討が必要となろう。
生産性を上げる1つのツールとして、入院医療で話題のクリティカルパスの外来診療への応用も有り得よう。ここで言うクリティカルパスとは、アメリカにおけるこのシステムの導入の原点とも言える「いかに効率よく」、「いかに早く」といった原価主義に基づいた標準医療計画の策定であるべきであると考える。
このように、近い将来の備えていま早急にしなければならないことは、原価管理を含めた外来診療に関わる知識の蓄積とその管理、ナレッジマネジメント(Knowledge Management)であることを強調しておきたい。行き当たりばったりではなく、知識の蓄積データがあってこそ制度の改変時に迅速で的確な対応が可能になるものと確信する。
4.病院外来の未来図
1)医療の電子化とネットワーク
ここまで述べてきた制度や市場に対する適応、そして他業種との間でのベンチマーキング(比較検討)を考えれば、当然の帰結として電子情報化、ネットワークの構築が必須のように思われる。さらに、今年4月に厚生省から示されたカルテの電子化による保存の承認は、この流れに対して追い風となることであろう。
特に、コンピュータやインターネットといった新しい道具を活用したネットワークの構築は、病院内ネットワークのみならず、ほかの医療機関との間にまでネットワークを広げ、医療そのものに重要な意義と変化が生じてくるであろう。お互いの患者情報や検査結果の共有のみならず、専門医に対する質問から、さらには医事計算の代行業務まで広がってくることが想定される。さらに、病院の医療機器を診療所側でも共同で利用できれば、その結果は皆がネットワーク上で参照するということも可能となる。これにより、医療機関相互の連携は密接なものとなり、機能分担が図れることになろう。
2)外来分離型病院
いくつかの病院で、入院機能を持つ病院の隣に多数の診療科を有する診療所を建て、この診療所を病院の実質的な外来窓口機能として運営する事例がすでに何例かみられる。同一法人で運営し隣接する限り、病院側の紹介率アップとクリニックとしての保険点数上の優遇措置を享受することを目的にしていると思われても仕方がない。このような医療のあり方は、厚生省の目的とする「機能分化」とは明らかに異なる。
これに対して、アメリカ型の病院隣接診療所の道も考えられる。すなわち、病院に隣接して、クリニックビルを建設する。その中に、各科の医師を店子として入居させ、開業医の集合体で構成するというものである。病院側はすべて開放病床として、ここで開業する医師の便宜を提供するし、またクリニックビル内はネットワークで結ばれ情報は共有化される。外来スタッフは病院側が必要経費を負担する派遣社員とするか、各医師が独自に採用することとする。同一敷地内のこの集合体はあくまでも別法人の集合体ということになる。今後このような形態の集合体が、必ずや出現するに違いない。
5.病院外来は指令塔
再び現状に目をむけると、病院の外来機能は今後、診療報酬上においても締め付けは厳しくなる情勢は避けて通れないことを強く認識しなければならない。この中で、外来の役割は単に診療の一部として考えるのではなく、宿泊施設である入院部門のフロントサービスとしての役割が大きくなるものと思われる。
ホテルにおけるフロントサービスもあくまでも宿泊や宴会の窓口であり、それそのものは直接利益を生むものではないという位置づけにある。同様に、病院外来は従来のように大きな利益を生む部門ではなくなってくる可能性がある。しかし、だからといって縮小させる部門ではないと考える。入院医療のみならず、自院が擁する在宅医療およびそのほかのサービスをいかに利用してもらうか、さらには地域におけるケアサービスをいかに仲介できるか、その説明(営業)窓口としての役割が大きくなっていくことであろう。当然営業の場として、利用者である患者にとって心地よく、十分な説明に裏打ちされた納得を提供する場所へと「機能分化」していくことであろう。
すなわち、「お金を出してでも診てもらいたい」といった動機づけの場として十分な説明と共感を得る努力が必要であろう。そして外来こそが各種サービスの流れを指示し、説明し、規定させる司令塔たる役割を担っていくものと考える。したがって、これに当たる医師、看護職員には指令塔としての自覚が求められる。
おわりに
従来から、診療報酬上の看護基準として、病棟における人員配置と正・准比率が問題になっている。そういった意味で、そのしわ寄せは外来看護部門にかかってきていた。しかし、指令塔たる役割を担う以上は業務の中で、サービスマインドに裏打ちされた入院、在宅サービスそのほかのすべてのサービスに関わる諸知識を熟知した職員配置が必要であろう。また、それに当たる職員の自己研鑚が強く望まれていくのではないだろうか。
参考文献
1)神野正博:クリティカルパスは手抜きのためのツール!?. 看護展望24(3):26-29, 1999
2)西村周二監修、神野正博(分担執筆):医療ビッグバン 第9章;医療の電子化・共有化の衝撃波, 日本医療企画, 1997