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わが医療情報発信と病院ホームページの活用戦略

月刊「病院」(医学書院) 2001年7月号
特集:病院の医療情報発信



 情報開示の流れは、あらゆる業界・組織に押し寄せようとしている。特に大企業においては、請求があってからの開示というよりはむしろ、業績を積極的にディスクローズすることで投資家の国際的な評価(格付け)に直結させていることは周知の事実である。さらに、そこではIT( information technology )の進展により、誰でも閲覧可能で、しかも検索性を備えたデジタル情報として公開される傾向にある。医療機関においても、この流れは避けられるものではなく、より積極的な情報の発信が地域住民から支持される医療機関づくりに寄与することは間違いのないことであろう。

 折しも、本年3月から施行された第4次医療法においても医療機関の広告規制が緩和された(表1)。しかしそこでは、戦略のない広告は単なる自己満足にしか過ぎず、なんら医療機関の評価につがらないように思われてならない。

広告と広報の戦略について

 広告とは、「不特定多数」に対する情報発信ということになる。しかし、あくまでも目的を持ったものであり、意図的に絞り込んだ対象に行うことによってこそ、効果を期待できるものであろう。また、多くは有料の媒体を用いて行われる。したがって、医療法が改正されたからといって目的と対象を明確にすることなくむやみに情報を提供したところで、その費用対効果は期待できないと考える。

 これに対して、広報とは病院の姿勢や理念を示すものであり、広く公衆の理解と信頼を獲得することを目的とする。広告より、上位概念に位置するものといえる。媒体としては組織活動そのものであり、また広範囲な媒体を用いることになる。

 現状において、広告は看板、印刷媒体(新聞、雑誌、電話帳など)であり、広報は口コミから始まって、独自の広報誌や冊子、報道発表、さらにはインターネットのホームページ(注1)などが主となる。

 ここで、広告は規制対象であり横並びの内容となるのに対して、広報活動は、それぞれの医療機関の独自性( originality, differentiate )を出し得るツールであるといえよう。したがって、今回の医療法改正と関係なく、広報活動の強化は医療機関のポジションの明確化、差別化、そして生き残りをかけた戦略に合致していくものといえよう。さらにそれは、従来から地域において蓄積されてきた医療機関のブランドイメージ、ブランド資産を高めていくことに他ならないことだろう。

 しかし、事実と異なる広告、広報、さらには一方的、独善的な広告、広報はかえってブランドイメージを損なうことにつながるだろう。マーケティングの大家であり、米国Yahooの副社長であるセス・ゴーディンは著書「パーミションマーケティング」1)の中で、一方的、看板広告的な土足マーケティング( interruption marketing )はかえって不快感を抱かせることにつながるという。これに対して、関心のある人、許容( permission )をくれた人だけに情報を提供する、いわゆるインタラクティブなマーケティングは高い収益を生むという。「よろしかったら、いかがですか」といったpermission の必要性を説いている。これは自己の医療機関になんらかのつながりがある人や組織に対して、積極的に情報を提供することによってこそ、大きな効果が期待されると置き換えてもよいだろう。また、利用者からの提案や不安に応えていく双方向的な情報提供は、さらなるつながりを深めていくことだろう。

(注1)1996年3月に当時の厚生省健康政策局総務課より、医療機関のインターネットホームページについて「利用者が自分の意志でホームページを選択し、情報を得る形であれば広告には当たらない」という見解が出されている。

恵寿総合病院における医療情報発信の現状と戦略

 恵寿総合病院は、看板を含めてほとんど広告といったものは打っていない。唯一、病院前バス停における車内の降車案内の放送程度である。

 これに対して広報活動は、昭和61年11月に専任職員を配置した広報室(平成13年度組織改革にて企画開発課広報係に)を設置し、積極的に行ってきた。

 その活動内容としては、広報誌「ほっとたいむ」の編集・発刊(図1)、各部署より依頼のあった患者向けパンフレットなどのデザイン・印刷、院内誌(職員向け)の編集・発行、院外向けの案内状の作成・発送、病院の新しい取り組みや行事を記者の目からみて魅力的な情報に加工し、報道機関(記者クラブ)へ告知することなどである。

 これらの発信すべき情報は、自然と湧き出してくるものではない。広報すべき価値のある情報は現場の歩き回りにより収集されるものであろう。さらに、広報に値する新しい情報を病院組織として創り出す努力が最も重要であろうと思われる。

 その他に、地域とのかかわりのある統計データの作成業務も行っている。これは、地域の校区別人口データから校区別受診率を算出したり、地方紙に掲載される出生欄や死亡欄のデータをもとに、当院における出産割合(シェア)や当院における死亡割合などの月次データの収集分析を行うものである。

 また、当院では関連施設を含めた「けいじゅヘルスケアシステム」で約340台の端末でオンライン化したWAN( wide area network )を構築している。その中のイントラネットホームページ(職員向けアナウンスメント)や文書サーバー(各種伝票、会議・委員会議事録、マニュアル類をオンラインで提供)の管理業務も担当している。これらは、外部に対するというよりは、内部を中心とした広報戦略となろう。職員の士気を高める内部向けの広報も忘れてはならない重要な役割であろう。

 インターネットホームページに関しては、その編集方針の策定と製作は理事長との共同作業とし、インターネットを介しての電子メールの窓口は広報係が担当している。

病院ホームページ戦略

 当病院のホームページ「恵寿総合病院ホームページ( http://www.keiju.co.jp )」を1996年3月に開設した(図2・略)。4月10日現在、その閲覧件数は71,000件に及ぶ。

 ここで、重要なのはその閲覧者である。当院を含めてほとんどの医療機関は地域密着型であることはいうまでもない。これに対して、当院ホームページのアクセスログから閲覧者を割り出してみた(表2)。医療圏内の閲覧数は8.7%に過ぎず、ほとんどが地域外、すなわち当院利用者以外であることがわかる。そういった意味では、地域で単なる増患対策を目的としたホームページによる広報は、看板広告にも劣ると断言してもよいと思われる。また、流行だから(「隣の病院もやっているから」)開設してみるといった姿勢の病院ホームページはほとんど病院パンフレットそのものであり、しかも更新されていない。見る側の視点に立ったときになんら魅力を感じるものではないに違いない。

 こういった状況で、ホームページに大きな費用対効果は期待できない。したがって、作成に当たっては専門業者に依頼しなくとも、汎用ソフトと自らのハード資源のみを利用した内部製作で十分であろう。内容(コンテンツ)の充実を図る姿勢が重要であろう。

 また、ホームページは見る意思があるものしか見ることはない。そのため、多数の病院利用者に対して同時に情報を提供するためには、掲示物やパンフレットのほうが圧倒的に有利となる。しかも、見る側は時間を無限に持っているわけではなく、また無料情報であるがゆえに移り気でもある。したがって、ホームページの表紙に、長文難解な文章や目を見張るグラフィックスの仕組みを作ることは見る側に嫌気と多大なストレスを与えることとなることを忘れてはならない。

 ホームページには、作成の容易さ、速報性、検索性があり、しかも、ハイパーリンクという機能を利用して内容の階層化が可能である。さらに、印刷物とは異なり、容易に更新が可能な点から、こまめなメインテナンスを図ることができる。このような特徴を有効に利用できる役割を見いだしてこそ、ホームページの有効利用が図られることであろう。

1.管理体制と費用

 当院のホームページは前述のように、すべて院内で製作している。従来広報部門で使用していた画像スキャナー、デジタルカメラやコンピュータを利用し、作成ソフトウェアも、汎用のオフィス系ソフトを利用している。

 実際の費用として、作成に当たる人件費(1か月に数時間)の他、電子メールを含めたインターネットサーバーとして無償のOS( operation system )であるLINUXを搭載した中古サーバー 65,000円×2基(院内の基幹システムとの間のファイアウォオールシステムを含む)、NTTの常時接続回線接続料28,000円/月、JPNICのドメイン( keiju.co.jp )使用料約10,000円/年である。

 現在、当院のホームページは1,089ファイル、14.2MBのデータ量から成り立っている。また非公式ながら、iモード(NTT DoCoMo)、EZweb(au,TU-KA)対応のホームページも開設している。

2.ホームページの役割

1)アナウンスメント

 もちろん、病院の理念、基本方針から始まって、所在地情報、診療体制、施設の案内は必須事項となろう。しかし、これらは病院パンフレットの域を脱するものではない。

 次に、積極的アナウンスメントについて触れたい。

 まず、情報発信としての報道記事の補完である。当院に新しい技術や機器が導入され、新聞などで紹介されたとしても、その多くは地方紙や地方版であることが多い。しかも、新聞記事は一時的なものでその検索性は一般的には乏しい。そこで、これを「報道記事Archives」としてホームページに掲載する。これにより、この情報は一気に全国を対象とするものとなる。しかも、過去の取り組みはデータベース化され、検索性が生まれたことになる。

 また、その時々のトピックに対する当院の対応を素早く公示できる。過去に、脳神経外科手術に使用する「乾燥ヒト脳硬膜」の移植によるクロイツフェルト・ヤコブ病(CJD)感染問題の当院調査結果の公開(1997年)、Y2K問題への対応(1999年)、中国人ハッカーグループのコンピュータ進入とその後の対応(本年3月)(当院ホームページ「What's New」参照)などを積極的に公示してきた。

2)患者とのインタラクション:医療相談

 ホームページ開設時より1999年1月まで3年余りにわたって、医療相談コーナーを開設した。日本のインターネットの広がりとともに相談件数は増え、一時は日に10通に達することがあった。日本全国のみならず、海外在住の日本人からも相談は舞い込み、さらに、他の医療機関に対する不満とセカンドオピニオンを求めるもの、当院で標榜しない精神科領域のもの、極めて無責任ないたずらメールまで受信した。

 物理的に回答専任者を確保する以外に丁寧な対応は不可能な事態となってしまった。無料相談の限界として、過去のQ&Aを掲載することで相談コーナーは閉鎖した。しかし、この間にインターネット世代から寄せられた医療への不満や思い入れに対してメールを介して対話できたことは、マーケットリサーチという観点で少なからず病院の財産となった。

3)患者サービスのツールとして

 患者サービスのための窓口機能をホームページに持たせている。

 まず、「お見舞いメールサービス」である。これは、入院患者の家族・知人からのメールを受け付け、その内容を大人用、男児用、女児用と分けられたカラー台紙にプリントアウトして封筒に入れたうえで、本人に手渡しする。同時に、発信者には確実に渡った旨を返信するものである。広報部門が担当しているが、作業はコンピュータ上のカットアンドペースト作業とカラーレーザープリンターでの印刷であり、時間労力はわずかなものである。

 また、「入院時の宅配便受け付けサービス」は、あらかじめメールないしは電話で入院予約者が病院へ連絡したうえで、所定の住所に宅配便を発送すると、入院当日まで病院が責任を持って荷物を保管し、入院時に病室まで係りが配達するサービスである。

 さらに、2000年暮れからは、EMM( e-mail marketing )の一環として、メールマガジン配信サービスを開始した。登録はホームページ上から可能で、月に2回程度の頻度で 「けいじゅ健康通信:for you」と名付けた病院からの案内や季節ごとの健康上の留意点がメール配信される仕組みである。配信に当たっては、自社サーバーからではなく、広く普及している無償のメールマガジン発行システムを利用し、病院ホームページ内にバックナンバーとしてバックアップ領域を確保している。

4)医療の質の担保として

 患者のホームページ参照行動の理由として、自分の受診したい病院の質の確認という要素も多分に存在すると思われる。そこでは、病院の質に関する情報も積極的に公開するメニューも戦略上必要であろう。

 まず、当院では平成9年度に受審した財団法人日本医療機能評価機構による評点、認定報告書の内容の開示と指摘事項に対する対策を公開した。そのうえ、受審2年後の段階におけるその後の対策、計画について開示している。

 また、介護保険導入後半年で行った当けいじゅヘルスケアシステムのサービスに対する満足度調査の結果も公開し、当グループの利用者による品質評価の高さをアピールし、また職員に対する品質向上の励みとしている。

 さらに、今年度からはクリティカルパスに関する情報を掲載した。クリティカルパスには、何も患者側の利点だけではなく病院経営側の利点も数多く存在する2)。しかし、クリティカルパスは最近、マスコミでも取り扱われ市民権を得つつあるのも現実である。そこで、クリティカルパス適応疾患の一覧を掲示し、その中で一部の患者向けパス表を公開し、入院前、受診前に参照できるものとした。

5)職員確保のツールとして

 職員の採用に当たっては、各種学校や職業安定所など幅広いチャンネルが存在する。そのチャンネルの一つとしてホームページが存在する。先に上げたように、ホームページには印刷物と違った速報性があるため、各時期における採用内定状況なども公開可能となる。また、インターネットのヘビーユーザーである学生層にアピールする点では、極めて効果があるものと思われる。

 実際、わずかであるものの、年に1〜2名の技術職におけるインターネット応募による就職が存在する。また、学校に向けた求人票経由の就職であっても、多くの新卒学生が病院ホームページを参照し、就職試験の前に病院の基本情報を収集している事実が認められている。

ホームページによる広報の未来

 先に上げたように、実際の利用者は広報に医療機関の選択基準を求めているように思う。したがって、そのニーズに応えるためには、現在行っているような医療の質の公開に加えて、診療指針(ガイドライン)・治療成績などの公開に踏み切るべきであると考える。もちろん、自院としてのこれら情報の集積が行われ、その結果をレビューしている体制が前提である。

 今後技術的な問題としては、コンピュータソフトそのものがインターネットWebとの互換性を持ってくると思われる。医療におけるオーダリングシステムや電子カルテシステムのコンピュータ言語をXML( extensible markup language )形式にしていく試みが既に一部で開始されている。そこでは、個人の医療情報そのものがインターネットを通じ、リアルタイムに参照できることになる。患者自身の検査結果、診療録を在宅から参照できるという。ITの進歩を基盤として、システムはここ数年のうちに急速に開発されていくことに間違いない。その中で、単なる参照システムで終わるのか、付加価値をつけるのか。ここに各病院の戦略策定の余地があろう。

 一般のマーケティングの世界では one to one の対応を求められている。顧客との関係を収益機会につなげるCRM( customer relationship management )3)といった考えが全盛となっている。患者情報参照システムと、それに対するインタラクティブな提案型医療の提示、いわばオーダーメイドの情報提供を模索していく必要があると思われる。


おわりに

 病院広報にホームページはなくてはならないものになりつつある。しかし、これは広報の中で多くの選択肢の一つであることを肝に銘じておく必要があろう。したがって過度の期待は禁物である。広報の全精力をホームページにかけることは、広報全体の質の低下につながりかねない。すなわち、広報とは患者が知りたいことを、患者にとって最も受け入れやすいメディアで提供していくことである。

 そこでは、日頃の病院の機能向上、サービス向上のための取り組みを余すことなく広報していくばかりではない。病院に対して、あるいは日本の医療に対して抱く不安にも積極的に病院の考えを提示するというスタンスをとることが重要であろう。これにより、病院への親近感、ひいては信頼感を得ることができると考える。このような戦略的価値を求め、タイムリーに病院の方針をきちんと提示・説明していくためには、病院運営幹部の関与、特に病院の顔としてのトップの関与は必須条件になると思われる。

 さらに、広報の根底には「公開に値する内容の創出に病院組織として当たる」、すなわち、現状に満足することなく絶えず新しい試みに挑戦していく病院の姿勢が重要であると確信する。


参考文献

1)セス・ゴーディン、坂本啓一訳:パーミションマーケティング、翔泳社、2000
2)神野正博:クリティカルパスは手抜きのためのツール!?.看護展望 24(3):26-29,1999
3)神野正博:医療福祉複合体の情報化戦略.日経ヘルスケア 9月号(131号):73-77, 2000


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