医療の質と職員のやる気を落とさないリエンジニアリングの試み


  低成長の経済の中で、医療業界の外に目をやると、リストラとリエンジニアリングは当たり前のことであります。われわれ医療業界といえども、医療費抑制の嵐の中で、経費の節減と業務を一から見直し、無駄を省くことが大変重要な問題となってきました。しかし、医療はヒトがヒトにサービスを提供し、それに対して報酬を得るといった特徴のある業種でもあります。そこで、私は、しみったれた経費削減主義ではなく、医療経営者が仕組みを作ることで、医療の質と職員のやる気を落とさずに、経営の合理化と業務の改善、さらには情報の共有化に対応できないかと、以下のような試みを始めました。
  次に、この試みを時間軸にならべてみました。各々の取り組みは、独立したものではなく、一つの改善点から、次の改善点が見えてくるといった「必然的な流れ」が、根底にあるかと思います。

リエンジニアリングの基本的視点

  1. セルフアセスメント
    自院の状況を知る:経営的視点、患者満足度、職員満足度、アンケート調査などから問題点の抽出。
  2. ベンチマーキング
    他の医療施設や他の業種との比較検討:
    • ホテル:会計(チェックアウトで名前を呼ばれるまで待つか?)、玄関(ホテル以上にからだの不自由な人に対してベルボーイ、ベルガールは要らないか?)、接遇、食事、アメニティー
    • コンビニエンスストア:限られたスペースで、しかも倉庫を持つことなく、欠品なく売れ筋商品を陳列−POS(Point of Sales)管理、少量頻回配送
    • 自動車業界:かんばん方式による無在庫管理
    • アパレル業界:川下(流通)から川上(生産)への情報提供と管理−SCM(Supply Chain Management)
  3. ミッションコア
    本業と本業外に「メリハリ」をつける。本業外の業務に対しては徹底的に省力化、外注化
    参照:My Articles「ミッション・コアの時代」

リエンジニアリング実践の経緯


診療材料院外SPD化

  用度課による定数在庫、納入業者による委託在庫の失敗より、三菱商事、同100%子会社日本ホスピタルサービスによるJust In Time & Stockless (JITS) システム1994年12月より、日本で始めて導入。
各部署での医材の使用料の数日分の在庫量を定数化しておき、使用した分を三菱商事のサプライセンターから供給する“院外SPD”システム。メーカー/ディーラーへの発注や、支払いは同社が一括して行い、また同社のスタッフが院内各部署まで、医材を搬送・配布する。サプライセンターと院内各部署に備蓄された在庫は、三菱商事の在庫として位置づけ。
IDカードを使ったバーコードシステムにより、医材供給をスムーズにしている。各部署から、発注伝票がなくなった。


   IDカード



但し、医材の選択および価格交渉は病院側の診療材料委員会にて行う。

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臨床検査LAN稼動、 外注会社一社化

  1994年10月より、複数の外注業者を一社化。これにより、スケールメリットの確保。
  ラジオインムノアッセイ、酵素抗体法による特殊検査、稀少検査の外注化。さらに1995年5月より、外注検査業者と共に、検査室内の機器および、院内各部署のコンピューターネットワーク(LAN)を構築・稼動。これによる余剰検査技師を、生理機能検査、および血管造影補助に振り向け。
  さらに、検査結果端末においては、外注業者一社化、外注検査オンライン化により、外注検査と院内検査が同じ画面内に混在して表示され、時間軸検索、グラフ化が可能。これにより、検査オーダー側、受信者側は、外注、非外注の区別は全く感じられず。

薬品在庫管理システム、納入卸一社化

  1995年10月より、複数の卸を1社化。これにより、受発注業務の合理化、加重平均価格の低減化。
  さらに、薬品倉庫にて、大包装錠剤、注射薬を小分けして、独自のバーコードを添付。バーコード管理により、在庫縮小。
  1社化に伴う薬品の種類、メーカーの変更はなし。薬品の採用・中止は院内の薬事審議会にて行う。

インターネットにホームページ開設

1996年3月、恵寿総合病院ホームページ http://www.keiju.co.jp公開。

当院におけるインターネットの効用

  1. 広報
  2. 情報収集
  3. 医療相談からのマーケットリサーチ
  4. 発信する情報の絶え間ない創出
  5. ホームページ作成のノウハウをイントラネットへ応用

新規大型医療機器導入

診療機能向上と、スピードを求めて。


事業所内PHSシステム稼動

  緊急時に迅速に対応する、院外からの電話を待たせない、交換業務の削減を目的に事業所PHSを導入。
  病院内では、屋内アンテナを通じて、内線電話・ダイヤルイン電話として使用し、病院外では一般のPHS電話として使用可能。
  47名の全医師と一部の移動の多い職員を対象とし、計60台導入。

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放射線デジタル画像処理システム導入

  情報化に備え、画像のデジタル化システム:FCR(Fuji Computed Radiography)を導入。放射線室を光ファイバーケーブル(イーサーネット)にて連絡し、各医療機器をオンライン化(DMS:Data Management System ネットワーク)。また、非CR画像もデジタル化するため、高速スキャナーもオンライン化。北陸初

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統合オーダリングシステム

診療材料バーコード管理、臨床検査LAN、薬剤バーコード管理を統合し、さらに、患者ID、職員IDなどすべてをバーコード化したオーダリングシステム構築。

基本方針

  1. 患者様サービスの向上につながること:患者様側に立ったスピード=ホテルのチェックアウトのスピード
  2. パソコンを利用したクライアント−サーバーとすること
  3. 使いやすいシステムであること(ユーザーフレンドリー):コンピューターに振り回されない!
  4. 段階的導入ではなく、一括とすること(all or nothing)
  5. 法的規制以外を限りなく伝票レスにすること=情報の共有化、伝票転記事務の削減
  6. 院内伝達のスピードアップ:電子メールの活用

ピラミッド型情報伝達から、球状の情報伝達へ:

Keiju Information Spherical System(KISS)開設

情報の中心に患者様を据えた球体の構築へ

KISS発注業者

ソフトウェア96年8月12日決定(株)ソフトウェア・サービス(大阪府)
サーバー:Windows NT 4.0、クライアント:Windows NT 4.0
ハードウェア96年9月18日決定(サーバー、クライアント):コンパック社、三菱電機(AMITY)
ハードウェア96年9月18日決定(モニター):(株)ナナオ
クライアント、モニター:170組発注
LAN工事96年10月14日決定(光ファイバー、100BASE・10BASEケーブル、ハブ):日本IBM

新患受付(サービス課)新患 診察時のバーコードによる患者登録患者登録
オーダー入力画面オーダリング レントゲン撮影時のバーコードによるオーダー、患者情報収集(CR機)撮影
携帯端末による選択メニュー入力選択メニュー

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イントラネットサーバー

  インターネットホームページ作成の経験を生かし、病院内局所インターネット(イントラネット)を構築。

イントラネットホームページイントラネット Microsoft Outlookによる院内文書サーバー、電子メールOutlook


コジェネレイション発電装置稼動

  先進医療機器、コンピューターネットワークなどによる消費電力の増大と、ライフライン確保のためディーゼルエンジンによる1,000KW発電装置を導入。夜間は深夜電力による買電使用、日中のみ発電。非常時には24時間発電。さらに、ラジエーター熱により、蒸気発生、給湯。
  これによる経費削減効果は約36%の試算。


フロアコーディネーター設置

  ホテルをベンチマーキングするならば、ホテル以上に障害者や身体に不都合のある来訪者がある病院では「ベルボーイ」「ベルガール」の設置は当然である。サービス課所属でフロアコーディネーターの専任。選任に当たって、作業療法部門で研修後現場に。
実際の業務内容
  1. 正面玄関における外来患者来訪時の介助(車椅子、杖、手荷物介助)
  2. 受付までの案内誘導
  3. 来訪者への挨拶
  4. デイケア送迎車到着時の連絡
  5. その他病院玄関周りの目配り


病院−診療所間オンライン化

オンライン   本院と西へ約9Km離れた田鶴浜診療所、および南へ約9Km離れた鳥屋診療所間をオンライン化。
   同一患者IDの使用により、オーダリングシステム(病名、検査内容、検査結果、処方内容、アレルギー・感染症情報、医療事務など)、およびイントラネット(院内マニュアル、会議議事録、伝達事項、電子メールなど)がオンラインとなり、病院の情報の共有化、患者の診療に対する品質管理、さらに医療事務の簡素化(本社一括管理)が推進された。


電子化クリティカルパス運用

クリティカルパス  クリティカルパスは、標準化したパス表にしたがって医療を行うことにより、医療の質の管理、患者に対してのインフォームドコンセントの提示、在院日数の短縮など数多くの利点が挙げられている。
  しかしながら、医師・看護婦のモチベーションとして、パス表のまま指示を出し、パス表にのっとった看護を提供するためには転記作業など多くの労力が必要とされる。そこでリエンジニアリングの一貫として、電子化したクリティカルパスを導入した。これにより、コンピュータ上でパスを選ぶだけで、パスの内容がオーダリングシステムに反映され、ワークシートや指示箋などへ反映される。

恵寿鳩ヶ丘病院開設

 奥能登医療圏、病床不足地域の穴水町に新病院開設。病床数143床。完全療養型病床(医療型:48床、介護型:95床)

 本院との間をオンライン化し、医療、介護情報ならびに文書、伝達の共有

 

介護保険一元管理システム運用開始

 ケアプランや実績管理、さらに請求管理などの介護保険業務を利用者を軸として一元管理するシステム。

 北陸コンピュータ・サービス(株)とともに、一元管理ソフトHIT介護を開発。法人病院間、施設間の専用線により、ネットワーク上で情報共有。

関連報道記事

特別医療法人直営の医療福祉ショップ開設

 増築棟に直営ショップ「めぐみ」オープン。特別医療法人で認められた営利事業部門。コールセンター業務と連結して運営


病院内24時間オープンコンビニ開設

 患者様からの売店営業時間延長の希望に応えて、LAWSONと協力し、日本初の病院内コンビニ;Hospital LAWSON開設。売店機能のみならず、コンビニの決済機能や情報発信基地として機能に期待。



電子カルテ導入

 情報の共有化のほか、医療の質の向上を目的に電子カルテを導入。安全、情報公開も大きな導入ポイント。

その目的:オーダリングシステムと電子カルテ



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